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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

若い人に観てほしい 『この世界の片隅に』

2016-11-18 00:51:09 | 映画評論
 名古屋へでての会合の後、映画を観る。
 本当はこの映画を予定していなかったのだが、会合が早く終わったのと、諸般の事情で私自身も早く帰りたかったので、時間を繰り上げて観たのが『この世界の片隅に』(監督:片渕須直 原作:こうの史代)というアニメ映画。
 これが予想以上に良かった。
 以下その感想だが、ネタバレはないと思う。

             
 素朴でほのぼのとした画風で、戦前(一部戦後)の庶民の日常をその喜怒哀楽とともに描きながら、それらの人たちにとっては、外部であるかのようにじわじわっと侵入してくる戦争という黒い影。
 しかし、それは事後的にそれを見ている私の視線で、その登場人物たちはいつの間にかそれらへと誘導されるのであり、それを観ている私もまた、それを彼らとともに体感しているかのように受容することとなる。

          
 この主人公より一世代ほど下の私にとっても、そうだった、そうだったとうなずける日常が衣食住にわたるしっかりした時代考証とともに繰り広げられる。とりわけ、代用食の部分では、そうそう、そんな風にして飢えを満たしたといちいち納得させられる。

          
 それらが極めて自然に入ってくるのはどうしてだろうかと考えるに、上にも述べたように、事後的な、あるいは第三者的な視点を排し、あくまでもそれを現実に生きた人の視点から描かれているからだろうと思う。
 だからここには、「反戦」とか「平和」とかいった言葉はでてこないにも関わらず、平凡な庶民の生活を破壊するものを直視する視線がある。
 そして哀しみや悲惨があるにもかかわらず、どこか、それを越えて明日がほのみえるような優しさも伝わってくる。

          
 私の評価は以下の点にある。
 絵のほのぼのとした明るさ、日常生活全般の時代考証の確かさ、事後的な第三者によるお説教や命題の排除。そして庶民の生活への温かい寄り添い。

          
 声優陣は「あまちゃん」の能年玲奈改め「のん」など。彼女の声質はとても自然に内容にマッチしていたと思う。

【おまけ】念の為に他の人の評価をみたら、概して評価が高い中、ほぼ零点をつけている人がいた。彼(?)にとっては、これら戦時中の話も、広島の原爆(この映画に出てくる)も、そして日本の敗戦も、すべて反日分子の歴史改竄だというのだからもはや何をかいわんやだ。
 彼の幻想の世界では、大日本帝国はいまも勝ち続けているのだ。これを笑って済まされないのは、政権筋にも似たようなアナクロ・イデオローグがいるからである。
 




コメント (3)
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