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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

助けることができなかったセミ

2016-08-05 00:04:43 | よしなしごと
           

 私の二階の部屋のデスクの目の前が冒頭の写真である。
 読書やPCに疲れて目を上げると、夏の陽光に緑が輝いているという恵まれた環境かもしれない。
 こんな環境だから、蝉の声が絶えない。鳴くのが仕事とはいえじつによく鳴く。それが複数いるのだからほとんど鳴きやむ時間がない。
 冷房嫌いで網戸で済ませているから、じつに数メートル以内からのその鳴き声を浴びているわけだ。まあ、夏のBGMとしてそれが自然だと思っている。

                      

           

 そんな折も折、ふと何やらチラチラした動きを感じたので目を上げると、なんとどじなセミが軒先の蜘蛛の巣にかかってもがいているのだ。
 しばらく眺めていたのだが、一応わが家の同居者のようなものだから助けてやらないわけにはゆかないだろうと、ほうきの柄で蜘蛛の糸を手繰り寄せた。見ると、羽や脚などにけっこう糸が絡みついている。やたら暴れるのをなだめながら、それらを丁寧にとってやった。

           

 とり終わって、解放してやったのだが、手の中であんなに暴れていたくせに飛び立つ事ができないで、下へポトンと落ちてしまう。この間の一連のショックで、すぐには立ち直れないのかもと、近くの桑の葉に乗っけてやったが、なんとかしがみついてはいるが、一向に飛び立つ気配はない。しばらく観ていたがずーっと観察しているわけにもゆかない。
 同人誌の次号に載せる書評が書きかけでなんとか今日中に完成させたい。

           

 で、PCでぽちょぽちょ文章を打つ仕事に戻って、15分もしたろうか、ふと目を上げて確認したら、もう桑の葉の上にはいない。やっと飛び立ったかと安堵。なんかいいことをしたような達成感。しかしこれも10秒と続かなかった。
 念の為にその桑の葉の下あたりを見ると、ベランダの上に仰向けにそのセミが落下しているではないか。
 慌てて近寄ってみると、弱々しく脚を動かすものの、もう断末魔の様相。念のため、拾い上げてさっきの桑の葉に乗せてやったが、もうそこにとどまる力もない。

           

 子どもじゃあるまいし、お墓を作るまでもないと、下の草むらに横たえてやった。
 先程から、頭上にばかり気を取られていたが、さっきセミを助けだした蜘蛛の巣の下辺りに変なものが落ちている。なんだろうと近寄ってみると、どうやらさっきのセミ前に捕まって、蜘蛛に食われてしまったセミの亡骸のようだった。

           
 
 この蜘蛛、どんな猛者だろうと見回したが、それらしい姿はない。最初の一匹で満腹になって住居を移動したか、あるいは、私がさっきほうきの柄で引っ掻き回したせいで、やはりここを放棄したのかもしれない。

 まあ、蜘蛛も生きてゆかねばならなおから、致し方ないのだろうが、のんびり鳴いているようなセミの世界もけっこう厳しいようだ。
 おかげで、浦島太郎になり損なった気分を抱えたままでいる。

 やがて、最後にツクツクボウシが登場して、わが家のセミのコーラスは終幕を迎える。


コメント
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