拍手ができなかったコンサートについての話である。
この時期、岐阜に春を告げるコンサートがある。
大阪フィルの岐阜定期演奏会で、毎年三月の初旬にやってくる。
そして今年は39回目となる。
かつては朝比奈隆もやってきたし、佐渡裕も客演指揮者としてやってきたことがある。
現在は井上道義氏が首席指揮者で、昨年は彼が率いてやってきた。
今年はガラリと趣向を変えて、女性を指揮者やソリストに登用したオール・フランス音楽のプログラムで、ポスターやチラシの色合いも、先ごろ終わったひな祭りを思わせるピンクをバックに指揮者・三ツ橋敬子さん、ピアノ・菊池洋子さん、オルガン・徳岡めぐみさんの写真を配した華やかなものだ。
小手調べの小曲、ラヴェルの「古風なメヌエット」から。
小曲にしては大掛かりな構成のオケを前に、決して大柄ではない三ツ橋さんがちょこなんと登場する。
しかし、いったん指揮に入るや、彼女の指揮振りは極めて大胆で、堂々たるものであった。
とりわけ、その指揮ぶりはとても明快で、オケの音を救い上げるようにあますところなく鳴らしていた。
続いては菊池洋子さんのソロによるラヴェルのピアノ協奏曲。
この、ピアノを歌わせるというより、打楽器的に打ち鳴らす曲を、細身でスリムな菊池さんが全身で弾ききった。ゴジラの出現を髣髴とさせる辺りは極めて歯切れよくピアノを鳴らしていた。
それにしても、ラヴェルの音の使い方は多彩で華やかだ。予想を越えた場所で音が挿入され展開し、それが不自然ではなく響き渡る。
ガーシュインが、そのオーケストレーションを学びたいと申し出たのもうなずける。
もっともその際、ラヴェルは「あなたは既に一流のガーシュウィンなのだから、二流のラヴェルになる必要はないでしょう」といって断ったというからこの辺のエピソードは味がある。
休憩を挟んで、今度はサン=サーンスの交響曲第3番オルガン付き。先ほどのラベルの明快な歯切れの良さに対して、こちらはややゆったりとして荘厳さが漂う曲である。その荘厳さにオルガンが大きく関わる。
サラマンカホールのオルガンは、日本のオルガン製作者としては世界的に名を馳せた、故・辻宏さんの手になるもので、そのソロの演奏は聴いたことがあるが、このサン=サーンスの曲をライブで聞くのは初めてだ。
席の関係(バルコニー席)か、オルガンの音がやや聞き取りにくかったように思うが、それでも要所要所ではその荘厳な響きが体を震わせてくれた。
オルガン奏者の徳岡めぐみさんの他に、助手のような人がいて、演奏中もちょこまかとオルガンまわりを調整していたが、どこのオルガンでもこの曲の場合にはそうした操作が必要なのだろうか。いくぶん視覚的にマイナスのような気がした。
これでドビュッシーでもあればまさにフランス音楽を満喫できるところであった。
こういった次第で、十分満足した春宵のコンサートではあったが、残念ながら拍手はできなかった。
それが禁止されていたからだ。
左手の骨折手術以来、一ヶ月半ほど経過したのだが、まだ重いものを持ったり、左手で体を支えたり、左手に衝撃を与えることは禁止されている。したがって、両の手を強く打ち付けることはできない。
とはいえ、せっかくの演奏をただポカンとしているだけというのもはばかられたので、右手の方で膝を打ち、口のなかではパチパチパチと叫んでいた。
おかげで、前半の菊池さんのアンコール、終幕のオケ全体のアンコールを聴くことができた。
コンサートを終えて、会場から出ると、程よい暖かさの風がほてった頬をなでてくれて、「春宵一刻値千金」の感があった。
この時期、岐阜に春を告げるコンサートがある。
大阪フィルの岐阜定期演奏会で、毎年三月の初旬にやってくる。
そして今年は39回目となる。
かつては朝比奈隆もやってきたし、佐渡裕も客演指揮者としてやってきたことがある。
現在は井上道義氏が首席指揮者で、昨年は彼が率いてやってきた。
今年はガラリと趣向を変えて、女性を指揮者やソリストに登用したオール・フランス音楽のプログラムで、ポスターやチラシの色合いも、先ごろ終わったひな祭りを思わせるピンクをバックに指揮者・三ツ橋敬子さん、ピアノ・菊池洋子さん、オルガン・徳岡めぐみさんの写真を配した華やかなものだ。
小手調べの小曲、ラヴェルの「古風なメヌエット」から。
小曲にしては大掛かりな構成のオケを前に、決して大柄ではない三ツ橋さんがちょこなんと登場する。
しかし、いったん指揮に入るや、彼女の指揮振りは極めて大胆で、堂々たるものであった。
とりわけ、その指揮ぶりはとても明快で、オケの音を救い上げるようにあますところなく鳴らしていた。
続いては菊池洋子さんのソロによるラヴェルのピアノ協奏曲。
この、ピアノを歌わせるというより、打楽器的に打ち鳴らす曲を、細身でスリムな菊池さんが全身で弾ききった。ゴジラの出現を髣髴とさせる辺りは極めて歯切れよくピアノを鳴らしていた。
それにしても、ラヴェルの音の使い方は多彩で華やかだ。予想を越えた場所で音が挿入され展開し、それが不自然ではなく響き渡る。
ガーシュインが、そのオーケストレーションを学びたいと申し出たのもうなずける。
もっともその際、ラヴェルは「あなたは既に一流のガーシュウィンなのだから、二流のラヴェルになる必要はないでしょう」といって断ったというからこの辺のエピソードは味がある。
休憩を挟んで、今度はサン=サーンスの交響曲第3番オルガン付き。先ほどのラベルの明快な歯切れの良さに対して、こちらはややゆったりとして荘厳さが漂う曲である。その荘厳さにオルガンが大きく関わる。
サラマンカホールのオルガンは、日本のオルガン製作者としては世界的に名を馳せた、故・辻宏さんの手になるもので、そのソロの演奏は聴いたことがあるが、このサン=サーンスの曲をライブで聞くのは初めてだ。
席の関係(バルコニー席)か、オルガンの音がやや聞き取りにくかったように思うが、それでも要所要所ではその荘厳な響きが体を震わせてくれた。
オルガン奏者の徳岡めぐみさんの他に、助手のような人がいて、演奏中もちょこまかとオルガンまわりを調整していたが、どこのオルガンでもこの曲の場合にはそうした操作が必要なのだろうか。いくぶん視覚的にマイナスのような気がした。
これでドビュッシーでもあればまさにフランス音楽を満喫できるところであった。
こういった次第で、十分満足した春宵のコンサートではあったが、残念ながら拍手はできなかった。
それが禁止されていたからだ。
左手の骨折手術以来、一ヶ月半ほど経過したのだが、まだ重いものを持ったり、左手で体を支えたり、左手に衝撃を与えることは禁止されている。したがって、両の手を強く打ち付けることはできない。
とはいえ、せっかくの演奏をただポカンとしているだけというのもはばかられたので、右手の方で膝を打ち、口のなかではパチパチパチと叫んでいた。
おかげで、前半の菊池さんのアンコール、終幕のオケ全体のアンコールを聴くことができた。
コンサートを終えて、会場から出ると、程よい暖かさの風がほてった頬をなでてくれて、「春宵一刻値千金」の感があった。