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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

淫靡な男の雪駄チャラチャラお出かけ日記

2014-06-04 01:26:26 | 日記
 男には熱中症の危険を犯してでもやり遂げねばならないこともある。
 え?女にもあるって?そうでしょうね。失礼しました。
 まあ、いってみればそれぐらい意気込んで出かけたということで・・・。
 
 ようするに出かけた。浅葱色のシャツに紺の綿パン、オット帽子を忘れてはいけない。足回りは素足に雪駄だ。暑い時はこれが一番だ。

 田んぼに挟まれた田舎道を進む。先週末頃から水を引き始めたばかりで、まだ田植えを済ませた田は数えるほどしかない。しかし、水が張られただけでなんとなく華やいだ感じになる。
 きっと水が、空や雲などを映し出すキャンバスの役割をして、平面が多彩になったからだろう。
 ときおり、白い腹を見せて反転しながら飛翔するつば九郎たちもその華やぎに色を添える。

          

 こんな中を雪駄チャラチャラで進む。時折の風が涼を運ぶ。
 その風に乗って何やら青くさ~い匂いが漂ってくる。
 「ん?」これはと立ち止まったが、その正体をすぐ思い出した。
 あたりを見回してもその臭いを放つものの正体は見当たらない。
 それくらい香りが強いのだ。
 風が運ぶその香の強さは、おそらく金木犀のそれと双璧だろう。

 「よしよし、あとで見に行ってやるからな」とひとりごちて歩を進める。
 まずは銀行。カード決済やネットでの現金の移動が多くなっているのだが、どうしても一定量の貨幣を手元に確保しておく必要もある。

 銀行はATMの他に窓口での用件もあったが、意外と早く済んだ。
 続いて少し離れた郵便局へ。
 うちを出たのが1時半ぐらいだから、日差しはますます強くなる。
 無理をしないでゆっくり歩く。
 郵便局からの帰りは私の好きな川沿いの道だ。

          

 水量が多い時期はチロチロと動き回る小魚たちの姿を見かけるのだが、この時期、彼らは所々にある深みに集まっているようだ。
 そうした深みの近くで立ち止まって目を凝らすと、何かの拍子に明るい色の石の上をよぎる魚影を確認することができる。
 あるいは水中で反転する折の瞬時の銀色のきらめきが見えたりする。
 そんなのを目撃すると、少し幸せな気分になる。

 うちを出てから三角形におおよそ1キロ余を歩いたことになる。所定の用件はすべて済ませたのだが、まだ体力はありそうなので、ちょっと遠回りをして、先ほど風に乗せてメッセージをよこした奴に逢いに行ってやることにした。

          

 この辺に半世紀近くも住んでいると、その正体は無論だがその在処もわかってしまっているのだ。
 おお、今年も立派に咲き誇っている。
 栗の花である。
 栗にも色々種類があるが、この木は大栗が実るだけあって、その花も豪華だ。
 そしてまた、臭いも強烈だ。

 ひと通り携帯で撮ってから帰ろうとすると、「私も撮ってよ」とばかりにハグマノキ(白熊の木・スモークツリー)が行く手を遮る。

          

 うちの近くに差し掛かると、田に水を送るための溝を清らかな水が勢い良く流れている。しばらく覗きこんでいたが、水生動物の姿は皆無だ。
 そりゃあ、そうだろう。つい数日前まではカラカラに干上がっていたコンクリート製のU字溝に、ポンプで組み上げた水を送っているだけだから。
 水草のように水流になびいているのは、コンクリートの隙間から生えていた本来は陸上の草たちだ。なかには、春紫菀の姿もある。彼らもきっと驚いていることだろう。

 ところで、栗の花や金木犀など、あまりにもその香が強いものは見る段にはともかく、その香自体についてはいくぶん淫靡な印象をもってしまう。
 それはその香が彼らの生殖作用に関連していることを知っているからだろうが、同時に、それにしても過剰ではないかと思ってしまうのだ。
 まあしかし、それも粛々たる自然の営みであり、そんなことを思い浮かべてしまう私の想念の方にそれを淫靡とする要因があるのであろう。
 早い話が、私自らの淫靡を自然への投影したものともいえる。

 帰宅してから、ミッシェル・フーコーの『ユートピア的身体/ヘテロトピア』を読了。
 自分と一緒にしてはいけないが、フーコーもまた、おのれの淫靡さを開示しつつ、それがはらむセクシュアリティの問題、そしてそれに内在する権力の痕跡を徹底的に洗い出そうとした人だ。
 
 同書に収められた、ジュディス・バトラーの「フーコーと身体的書き込みのパラドックス」の一文が、フーコーの論に寄り添いながら自身のジェンダー論を研ぎ澄ませてきたこのひとならではの指摘で、少し興奮しながら読んだ。
 やがて死ぬゆく身だが、こうした興奮がある以上、読書は素晴らしい。
 そのためにも、健康でいたい。
コメント (7)
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