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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

些細が「些細」で終わらない愚かなイタズラ

2013-09-13 16:31:37 | 社会評論
 写真は内容とは関係ありません。題して「傘のラプソディ」。 

             

 飲食店などでバイトをする若者が、その店舗の食品管理や製造上の機器、あるいは食材を弄んだりして、その店舗の衛生状態や食品のイメージを大きく損なう写真などをとくとくとネットに公表し、結果としていわゆる炎上状態に陥り、店舗側がお詫びの広告を出したり、そのイタズラの対象になったりした機器を取り替えたり、あるいは店舗そのものを改装したり、ひどい場合には店そのものが閉店に追い込まれたりしている。

 長年、飲食店の営業に携わってきた私にとっては対岸の火事ではない。とりわけ、それによって閉店に追い込まれた店舗を思いやるとき自分の身を切られるような思いがする。

          

 私の店でも、人が入れるくらいの大きな冷蔵庫や冷凍庫を備えていた。そして定期的な清掃では、内容物を全て出し、板場さんがそれ用の白い長靴を履いて実際に中に入って清掃をした。
 また、ビール・ストッカーは水冷式で、ひと一人が入れる浴槽ぐらいの大きさであったが、これも何日かで内容物を全て出して掃除をした。この場合は中へ入る必要がないので、身を乗り出して洗った。
 そうした清掃の様子は、たとえその場に顧客が来合わせても、不快感を覚えるどころか、「あゝ、この店は清掃に心がけているな」と安心してもらえるものであったと思う。

 しかし、最近ネットで見るいたずら映像は、まさに食を冒涜するもので、たとえその店そのものの責任ではないにしろ、それをみた顧客はそれを潮に来店しなくなったり、少なくとも、しばらくは来店を差し控えるであろう。
 飲食業界は今厳しい状況に置かれている。それにより何ヶ月か売上が低迷したり、改装のために休業し、おまけに改装資金を捻出せざるを得ないとしたら、たちまち厳しい状況に立たされる。
 したがってそれをもって閉店を選択せざるをえない場合もあるわけだ。

          

 こうした若者のイタズラは、昔もあったものだというが、確かになかったとはいわない。
 しかし、以下の2つの点で現在、進行中のものとは違っている。

 その一つは、結果に対する効果や見通しの違いである。
 かつては、そのイタズラの効果への期待は他愛もないものであった。
 学生時代、私の友人は酩酊して、その帰路、夜間も店頭に置かれていた不二家のペコちゃん人形を寮の自分の部屋に持ち帰ってしまった。盗むというより、朝、店の人がそれがなくなっているのに気づいて驚く様子を想像したということだろう。
 しかし、翌朝、酔いが冷めるに従ってやはりこれはよくないと気づき、ひとりでは勇気が出ないので、友人たちとそれを返しに行った。
 店のひとは、若者が何人か、ペコちゃん人形と一緒に現れたのを見て怪訝な顔をしていたが、事情を聞いてやがて笑い出してしまった。
 その後しばらく、私たちはその店でお菓子を買うことにしていた。
 もちろん、これがいいことであったと強弁するつもりはない。

 もう一つの違いは、昨今のそれは、悪戯をするばかりではなく、それを広く不特定多数に吹聴するということである。もちろんそれには、昔はなかったネットの普及が背景にあるのだが、投稿する方はそれが広範囲に広がり、それを受けた人がまた面白半分に転載する結果、幾何級数的にその情報が拡散されることを知るべきだ。
 いや、知らないのではなく、知っていながら、むしろ自分の発信したものがどれほどウケるかを競うように発信するのだから、それによる被害もあっという間に拡散することとなる。

          

 情報社会の恩恵をこうむって自己表現ができるということは、それだけまた影響力も拡散するということである。この当然の帰結をわきまえないところに、今回の「イタズラ」の過酷な側面がある。
 当初はささやかな動機であっても、それを些細なままで終わらせないところにネット社会の怖さがある。
 閉店に追い込まれた店主が、民事訴訟に踏み切ると報じられているが当然だろう。

 ついでに、もうひとつ付け加えるならば、こうしたことが起きると必ず模倣犯と思われる類似の事件が起きる。こうした連中は心底、オツムが薄いと思わざるを得ない。二番煎じ、三番煎じで、その被害のみが拡散されるとしたら、そこにどんな快楽があるというのだ。
 
 どうせ悪戯をするなら、もっと独創的なものを考えたらどうだ。
 中小零細の飲食店をいじめるのではなく、権勢を誇るものたちを揶揄するようなイタズラでも考えだしてみろといいたい。
 そうしたら、私も拍手をしてこの欄に紹介してやってもいい。



コメント
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