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今日はなにいろ?

最近読んだ本 火の粉 雫井脩介

2008-09-16 11:29:17 | 読書感想文
雫井作品を今まで4冊読んだが(「犯人に告ぐ」「虚貌」「栄光一途」そしてこれ)この本が一番面白かった。
久しぶりに徹夜本。

元裁判官勲の隣に越してきた独り者の男。その男は一家3人を殺した被告として、その裁判官の裁判を受けた男だったのだ。
果たして偶然か、それとも…。
と言うストーリー。

引っ越してきた元被告、武内はとにかく「いい男」なのだ。
裁判を担当した勲が検察側が要求していた「死刑」という求刑を覆して「無罪」を言い渡した、その恩返しをしているのだろうか。

特に勲の母親の介護に疲れていた妻、尋恵にとって、彼は救世主のように思えた。何しろ彼女の愚痴を聞いてくれただけでなく、介護まで買って出たのだから。
武内の好意を素直に受け入れる尋恵。勲は元裁判官と被告の間柄、と言う関係から一線を画して彼とつきあうのだが、息子もその好意を素直に受け入れ始める。
ただ一人、息子の妻、雪見だけが男に違う影を見いだす。果たしてそれは単なる雪見の思いこみなのだろうか。

介護老人の母親が死んでから、元裁判官一家の関係に微妙なヒビが入り始め、それは一気に崩壊へと繋がっていく。
孤立した息子の嫁雪見は追い出されるように家を出る。

そんな彼女に近づいてきた池本夫婦。彼らは数年前に起きた一家3人が殺された事件の被害者の兄弟だったのだ。
彼らは元被告が操っているのだと言い張る。

さあ、ここからが面白い。
確かに池本夫婦の言うように、全てが武内が仕組んだことのように思えてくる。
ところが池本夫婦こそおかしい、数年前の事件も二人がやったことでは?と言う武内の言葉、これがまたもっともらしい。
どっちが正しいのか?
そして事件は起き、さらに魔の手が元裁判官一家に襲いかかってくる…。

これはもう、最後まで読まずにいられない。よって徹夜。

ほぼ雪見が主体になっていて彼女の暮らしぶりが事細かに描かれているのだが、食事の支度など、本当に男の人が書いたんだろうか?と思えるくらい緻密。
たとえば煮物。油揚げやら厚揚げを油抜きしているところとか、煮すぎないようにさっと煮て、あとは煮ふくませるとか。女でもなかなか書けない。
子育てのこともそうだし、介護のこともそう。
細かいところがしっかり書かれているので本を読んでいると言う感覚より、映画を観ている気分になってくる。
(他の小説もそうだけど、雫井作品は登場人物が事細かく描かれている)

火の粉、と言うタイトルは対岸の火事だったものが、火の粉が飛んできて…という小説の中のセリフからか。
なるほど、とは思ったけどそれにしても「虚貌」や「栄光一途」もそうだけど、タイトルは地味だ。