イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

サトイモ

2012-01-12 01:13:58 | 朝ドラマ

丁寧に描き込み映像作り込むところは込むけど、ばっさりいくところは痛快に切って飛ばしますなあ、『カーネーション』は。先週(第14週)、焼け跡も生々しい昭和2010月の東京へ、生地買い付け出張(←仕入れ資金浮浪児に盗まれて無駄足)からヘロヘロで帰ってきた糸子(尾野真千子さん)に「お母ちゃーん!」と抱きついてきた長女優子ちゃんと次女直子ちゃんでしたが、週を跨いだ9日(月)、「来年はもっといい年になりますように」と同年暮れ、やっと戦争の影のない年越し蕎麦を家族で囲むときには子役さんが一段“成長版”に交代していました。

「うちはもうあきません~ウッ」の戦時小芝居と、おかっぱに髪切られて「こんなん絶対イヤや!」と逃げ回ってた(でも木岡履物店での言伝はちゃんとお母ちゃんに伝えに帰ってきた)姿が印象的な優子ちゃんは花田優里音さんから野田琴乃さんに、「うちもだんじり曳きたい!」とわっせわっせ準備運動して本当に曳いちゃった直子ちゃんは心花さんから、子供糸子役の快演も記憶に新しい二宮星さんに。

 場面変わって同じ年越しの髪結ひ安岡家でも、泰蔵兄ちゃん(須賀貴匡さん)の遺児たち太郎・次郎・三郎くんが一斉に“脱皮”。いやね、幼稚園や小学校の子供って、ちょっと見ないと3ヶ月か半年ぐらいでびっくりするほど身長も顔つきも成長していたりは普通にありますが、まとめて一気呵成に大胆にリニューアルしましたな。劇中時間、正味のところ2ヶ月ちょいですからね。“年明けてから”ではなく、「今年ここまで、大勢の大切な人たちが亡くなり、疎開したり帰ってきたりいろいろあった、来年こそいい年に」の段階で、『紅白音楽試合』をラジオBGMに子供たち成長版へ…というところが『カーネーション』らしい。

 そして糸子をずっと温かく見守ってくれたハルお祖母ちゃん(正司照枝さん)の永遠のさよならを、次女静子(柳生みゆさん)の晴れての花嫁姿を見送った場面でナレーションだけで伝えました。昭和21611日、静子の嫁入りのひと月後だったとのこと。画面に映った最後の姿が、糸子に支えられて2階の窓から白無垢の静子を見送る姿。窓の外からではなく座敷の入口から窓のほうをのぞんで撮ったので、“つづく”の字幕が消えた後、お祖母ちゃんが糸子の手を離れて天にふわっと飛んで行くかのようにも見えました。

 糸子が子供の頃、アッパッパを縫いたいとせがめば「布(きれ)にも肌に近いもの、遠いものがある」と教えてくれたお祖母ちゃん。善作さん(小林薫さん)が店を譲って別居してからもずっと糸子と、結婚してからは婿の勝さん(駿河太郎さん)とのそばにいて家事をとりしきってくれました。

糸子と勝がやっと寝室を共にするようになって、「お祖母ちゃんもたいがいトシやしな」「まぁええもん食べさして長生きしてもらお」と話していたのが昭和10年の年明け頃ですから、それから10年以上がんばってくれたわけです。

かしまし照枝姉さんが演じてくれたからか、特に持病もなくて丈夫そうなお年寄りに見えましたが、昭和17年暮れ、勝さんが赤紙の受け取りに判捺そうとしているのを偶然出会いがしらに見て腰が抜けたあたりから、善作失火→火傷と疥癬で寝込み→温泉旅行で客死と、家内にアクシデントがあるたびにじわじわ老け込み衰えていく(でも持ち前のオヤジばあちゃんキャラは保っている)のがよくわかりました。

「うちはこの家で死ぬんや!覚えとれよー!」と無理くりリヤカーに乗せられた疎開先では梅雨と暑さとムカデに殺されそうになりながら、縫い子トメちゃん(吉沢紗那さん)も特に親切にお世話してくれたのでしょう、終戦まで持ちこたえて無事帰宅、優子直子ら孫娘たち成長版と年越し蕎麦を囲めたし、糸子が棒に振った高級花嫁衣装を静子が着て嫁ぐのも見られたし、何よりの念願「この家で死ぬ」が叶って、思い残すことはない大往生だと思ってあげたいですね。悔いのない、寂しいけれども不幸ではない、安らかな他界の表現、窓からのやわらかい逆光と、顔の見えない四分の三後ろ姿であらわしたのはお見事でした。ハルさん、あちらへ行ったら善作さんに「親より3年も先て、早う来過ぎや」「あれからごっついしんどかったんやで」と顔見た途端に小言言うかも。

そして翌回(11日)の冒頭では同年7月。ハルさん何事もなかったかのように遺影になって仏壇に善作さん、勝さんと並び、静子が嫁いだ途端に縁談が決まったという三女清子(坂口あずささん)に手を合わされていましたね。送り出すべき人を送り出すと、重石が取れたように下も決まって行くというのが人の縁のつねではあります。

いままで黙々と糸子の店の仕事を手伝うだけに見えた妹らに恋人やら縁談やらいつの間に?と思いますが、なあに、色っぽい、娘っぽい話題に無関心、朴念仁なのは糸子だけで、それぞれちゃんとやることはやっていたのね。一生のお願いで着せてもらった水玉模様のワンピースで恋人復員を待つ静子を、店先で見守る女性陣の中の千代さん(麻生祐未さん)の表情でだいたいわかりました。たぶん妹娘たちからそっちの話や報告を聞かされるたびに「ひゃ~」「いやぁ~」とクネクネ笑いが止まらなかったのだろうな。ドラマ内で正面切って“妹らの恋バナ、縁談”エピが取り上げられなかったのは、“視点”であるところの糸子がひたすらそっち方面に“ドンカンちん”だからなのでした。

あと残るは四女光子(杉岡詩織さん)だけか。静子が「うちももう30(歳)や」と言っていましたから、あまり年齢差のない姉妹だったし末妹も256歳にはなっている可能性が高い。終戦後間もなく来店してくれた元・踊り子のサエ(黒谷友香さん)によれば「若い男が戻って来てる」そうですが、光っちゃんと似合いの男子って、誰か登場したかな。今度は少しはアンテナ持てよ糸子。

ヒロインの青春~キャリア進水期を支えた人たちが続々退場。これからは戦後の右肩上がり日本で本格的な洋裁業、デザイン業の看板持ちとして乗り出して行く糸子、新しい出会いのタネも11日(水)にはたくさん撒かれました。丹念に高密度に描いたら描いたことで、ばっさりいったらいったことによってさらに情報量、行間イメージ喚起量が増す『カーネーション』、満開へ、ますます快調です。

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