『てっぱん番外編』を回顧したついでに、ちょっと“そもそも論”いってみましょう。
(↑↑↑ひと晩考えて(←嘘)記事タイトル少しお直し)
朝ドラに、“ヒロインが当事者となる恋愛話”は必要なのか。
昼ドラなら即答、絶対必要です。無いと困ります。昼帯ドラマは“情念のもたらす光と影”の世界であり、たとえライトな、コミカル仕立てであってもヒロインには“情念”を持ってもらい、関わるほかの人物たちのそれをも掻き立て掻き乱して行ってもらわなければ物語世界が動きません。情“熱”であれば職業お仕事、芸術芸能・技芸方面、なんなら家事子育て、舅姑問題にでも集中させて描くこともできますが、情“念”となると、どうしたって人ひとりに惚れて惚れられて、他の事いっさい投げうつ勢いで悩み執着しまくってこそ、光も影も生まれようというもの。
しかし朝ドラは、表装はホームドラマであったり、青春ドラマ、一芸修業サクセスストーリーであったりもしますが、基本は“家族愛、勤労の大切さ、地域社会の自助・相互扶助の価値を称揚するための、国営放送を使った国策メッセージの場”なわけです。目標を持ち前向きに生きて明るく楽しい家庭を築き、家族のためにたゆまず働いて税金を納めてね、ということを、日本国民が1日の仕事を始める前の時間帯に、ドラマの形式で全国に伝えるのがNHK朝ドラの使命です。いくら柔らかく綺麗オシャレな言葉で飾っても、フレッシュかわいい女優さんを押し出しても、これが現実。
「親や学校の先生が何と言おうと、好き勝手に生きていいんだよ」「人を傷つけても、ダラダラしてても、2~3回刑務所入ってもいいんだよ」なんてことは間違っても伝えちゃならない。
そういう場で“手前勝手の極み”であるところの“恋愛”なんちゅうものに、ヒロインが放送時間や台詞エネルギーを費やす必要があるのかどうなのか。
月河がリアルタイム視聴した最近の作では、『瞳』(2008年上期)の一本木瞳(榮倉奈々さん)がいちばん恋愛色のうすいヒロインでした。友人知人の好いた惚れたには、善意でかなり前向きに関与したものの、あこがれのカリスマダンサーKEN(EXILE眞木大輔さん)への思いは、あこがれの世界のあこがれの目標以上に出ることはなく、「いつか出ることがあっても、それはまた別の話」の段階で、彼の海外再出発を明るく見送ることに。瞳自身の恋愛要素は、むしろお隣の鰹節問屋跡取り勇蔵(安田顕さん)が独走で「(妹同然に思っている)瞳を、KENがどうにかしやしないかと心配する」方向で片思い的に進行、朝ドラ伝統お約束の華である“ヒロイン花嫁姿”も勇蔵の妄想夢の中だけでした。
『つばさ』(2009年上期)は反対に、玉木つばさ(多部未華子さん)にはドラマ開始時点で幼なじみの、Jリーガー志望の翔太(小柳友さん)という両思いの彼氏が決まっていて、ドラマ進行とともにラブラブ温度が一度高まったのですが、選手生命の危機やつばさ自身の身辺の波風がもとで一度翔太から離別宣言。つばさは、降って湧いた仕事上の上司兼パートナー・ラジオぽてと真瀬社長(宅間孝行さん)からのプロポーズも断わり、鈴本スーパー跡取り(三浦アキフミさん)の片思いに至っては気づくことすらなく、翔太と「それぞれの道で頑張って、またいつか」の含みを残して、ホーローの母(高畑淳子さん)からのブーケトスキャッチで最終回となりました。
生き別れ双子姉妹の再会成長物語『だんだん』(08年下期)では、夢に見たメジャー歌手デビューとデュオ解散の試練を経て、めぐみ(三倉茉奈さん)は音楽事務所スカウト(→青年医師)と、のぞみ(三倉佳奈さん)はめぐみの幼友達兼アマチュアバンド時代のメンバー(→芸能マネ)と“苦しい時を共に苦しんで見守ってくれた理解者”ノリで、コレ恋愛って言っていいんか?と疑問符はついたものの、まぁ無事両思いゴールイン。『ウェルかめ』(09年下期)は話がそこに行くまで視聴継続していませんでしたが、ヒロイン側からの第一印象「イヤなヤツ」がやがて「気になる」→好意に…という少女漫画的曲線は、『てっぱん』と共通。
『ゲゲゲの女房』(2010年上期)はタイトルを読んで字の如く、恋愛なんかをすっ飛ばした夫唱婦随の二人三脚が眼目のお話で、色っぽい方面にもオクテなら、高身長がわざわいして縁談もままならなかったヒロイン布美枝(松下奈緒さん)が、このままでは実家のお荷物になるだけと決心して世界の違う漫画家との見合い結婚に飛び込み、「見知らぬ土地、変わった夫、特殊な職業、信じられない貧乏暮らし、でもなんとかできるだけのことを」と持ち前のポジティヴさで切り抜けるうち夫と信頼関係が結ばれて気がつけばアレレ?「ラブラブの出会いじゃなかったのになんだか萌えカップル化」という稀有な例。
現行放送中の『カーネーション』も、色気皆無に近いヒロイン糸子(尾野真千子さん)が「うちはまだ結婚なんか考えられへん」と言い張っていたのに周りが「いい男だ、またとない良縁だ」と盛り上げ倒して、最終的には糸子自身も「お世話になった皆さんにこんなに喜んで祝うてもらえて、うちは果報もんです」と感涙祝言に。
まぁ10代~20代のヒロイン妙齢期を描くのに、仕事や修業や家族サービス以外何もないのでは洗脳ビデオみたいになってしまうので、甘い系エピのひとつぐらい、お似合いの王子さま役のひとりぐらいは配さないと絵柄的にもきついのは確かです。NHK朝ドラの場合「お年頃のヒロインが、目標に向かって辛抱努力する一方、健康な若い娘らしく恋もしている(≒プライベートもカスカスの灰色ではない)」と「でも、結婚まで至る原動力は、ヒロイン個人発の恋愛ではなく、家族・友人・職域・地域社会による縁結びとサポート」とを、どうにかストーリー上両立させるべく、毎作苦心しているように見えてしょうがない。
『おひさま』の陽子(井上真央さん)も、初恋は長兄の旧制高校級友で、家族ご近所にはいないバンカラタイプの川原(金子ノブアキさん)でしたが、結婚は陽子の女学生姿に幼くして亡くした実娘の面影を見て「ひとり息子(高良健吾さん)の出征前にぜひ嫁に」と一方的に訪ねてきた徳子さん(樋口可南子さん)の押しかけ求婚と、突然の話にもそわそわニヤニヤ満更でもなさそうな陽子の様子に、とにかく一度先方の店を訪れて、ひとり息子なる相手の顔でも見てみようと誘い出してくれたお父さん(寺脇康文さん)の心配りの賜物でした。
「恋はするけど、結婚は家族発で、家族に祝福されてこそ」が朝ドラの暗黙の不文律。
いつも思うことですが、“家族”と“恋愛”は、倫理的にも、金銭的物質的にも利害が対立します。恋愛で結婚したカップルでも、夫婦になって子をもうけ家族を作ると途端に恋愛に否定的に、偏狭になり、夫・妻はもちろん、娘・息子が思春期を迎えるとそういう動きにネガティヴに神経を尖らすようになる。一にも二にも家族を大切に、家族の幸せを自分の幸せとして生きたいなら恋愛にのめりこむのは無理だし、逆に、人生を恋愛メインに生きようと思ったら、家族とはどこかで訣別しないといけない。
日本国に“家族の価値”を強調し伝える使命をあらかじめ帯びた朝ドラは、ヒロインに人並みの恋愛をさせる段で、どこかいつも腰がひけて、展開が苦しくなる。でも、ヒロインが加齢するまで描くなら、結婚はさせないと、「子供をもうけて子供の幸せのために働く」というもうひとつの必須メッセージが盛り込めない。『瞳』がヒロイン夢追い途中のままシングルで最終回までいけたのは、劇中流れた年月が短かったから以上に、里親里子制度を物語のもう一方の軸にして“いろいろな親と子のありよう”を絡ませ得たからです。
それでも、現代の視聴者には「妙齢なのに恋愛をしない、恋人がいない=不幸」という世間的な広報宣伝がしみついているので、NHK朝ドラも仕方なく、ヒロインに恋をさせる。どんなに仕事を頑張ってサクセスして見せても、性格の良さをアピールしても、劇中、恋をしなければ輝く女性、素敵な女性と見てもらえないからです。
ヒロインの恋ならば視聴者が「がんばれ」「ハッピーエンドめざせ」と応援したくなるように作らなければなりませんから、『てっぱん』も、あかり(瀧本美織さん)と滝沢(長田成哉さん)との関係が家族の幸せと対立することのないよう、「彼をとるか家族をとるか」であかりが悩むことのないような展開に、スタッフ・脚本家さんたちは腐心したはずです。
だから、あかりと滝沢のラブラインは、ストーリー上“水を向けられた”当初から、なんとなく影が薄かった。公式の人物紹介を一見すれば、年格好や境遇(無職、独身、夢の途中)からいってあかりといちばん似合いなのは滝沢だったし、若いカップル、見ていて微笑ましいは微笑ましいけれども、さりとてうまくいっても「そうか」「だから?」としか感興が湧かない。うまくしたもので、ふたりが両思いになったことより、滝沢が復帰戦のレースで優勝できたことに「よかったね」「めでたい」と思えるような組み立てになっていました。
そんな希薄なところへ、『番外編』で浜勝社長(趙珉和さん)に「やっぱりおのみっちゃんのことが気になる」「駅伝とはその後どうなんだ」と、気の進まぬ見合いを機に蒸し返しモードにさせ、挙句、見合い自体を“新しい家族を作る勇気”なんて屋上屋を架したものだから、もともと“焼けてもいなかった棒杭”に無理やり火をつけて「やっぱりつきませんでした」を鑑賞するような趣きになった。
もう結論出していいのではないでしょうか。朝ドラヒロインに恋愛は要らない。恋愛のない世界にする必要はないが、ヒロインが当事者にならなくていい。脇役さんに思い切り恋愛三昧させて、ヒロインよりそちらに人気が出るくらいでちょうどいい。ヒロインは徹頭徹尾“家族、仕事、努力押し”でいい。
色戀に縁ないまま家族発の縁談で結婚して3児をなしつつお仕事一本槍、“ラブラブ夫婦らしいこと”に目覚めたと思ったら夫が出征戦死という、徹底的に非・戀愛体質なヒロインの『カーネーション』が、実にこれだけ見やすいということこそ、まさしくその証左ではないでしょうか。
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