TVドラマで印象深かったかたの訃報が続きました。
昨年のクリスマスイヴに亡くなっていたことが年明け公表された奥村公延さん。満79歳没。お元気ならこの春80歳になられるはずでした。どちらかと言うと、加齢しても若づくりで頑張る俳優さんのほうが多いように思う中、“風貌持ち味の渋さや枯れ味、飄々感に、やっと実年齢が追いついて来た”矢先の残念な逝去です。
2003年『爆竜戦隊アバレンジャー』放送中の特撮誌インタヴュー記事中で、伊丹十三監督『お葬式』での、山崎努さんの岳父役を役者人生のターニングポイントとして挙げておられました。当時まだ、たったの54歳。今年満54歳になる男性俳優さんというと、役所広司さん榎木孝明さん宅麻伸さん石橋凌さん永島敏行さん村上弘明さん益岡徹さん野口五郎さん坂東三津五郎さん、コメディ寄りで小堺一機さん渡辺正行さん中本賢さん竹中直人さん、音楽で長渕剛さん桑田佳祐さん佐野元春さん…等等。どれだけ奥村さんが渋かったか、驚きです。
古女房の菅井きんさんと2人、湯河原の隠居先で質素粗食に暮らしていた親父さんが、健康診断で太鼓判を捺され帰宅した夜に、突然「うなぎをたらふく食いたい、メロンも食べたい」と言い出し、珍しいこともあるものだと思いながら用意した奥さんの前で「こういう贅沢なものばかり食って、挙句病気になって早死にするヤツも世の中にはいる、何が幸せかわからない」など話しつつぺろり完食。満足して就寝したその夜に突然気分が悪くなって、それでも意識は明瞭足元もしっかり、隣家の大学教授に紹介された病院までタクシーを呼び、奥さんに付き添われ自分で歩いて「ご心配かけました」と会釈して乗車、そのまま帰らぬ人となる役。
実娘で山崎さんと夫婦俳優として活躍中設定の宮本信子さんに急報が届き、ここから本題のお葬式がらみのいろんな滑稽が始まるのですが、冒頭、急逝までの短い時間を観客にきちっと見せてくれたおかげで、“故人はあの親父さん”という記憶が隅々に効いて来る。伊丹監督は奥村さんの持ち味をよく理解しリスペクトをこめて、本題が始まる時点ではすでに死んでいるこの役に起用してくれたのだなぁと思います。奥村さんご本人も、長い役者人生のターニングポイントとして記憶されている所以でしょう。
月河はやはり『アバレンジャー』のスケさんがいちばん長くたくさん奥村さんを拝見できた作です。第1話では「史上最年長の変身ヒーローか!?」とマジ思いましたよ。VSシネマで歴代引き継がれた“恐竜や”ネタも打ち止めかな。訃報での死因は呼吸器不全とありましたが、思わず『お葬式』での宮本信子さんのように「…苦しんだの?」と脳裏によぎってしまった。2月11日に“しのぶ会”がもうけられるそうで、できればヤツデンワニにも出席させてあげたい。
そして27日には夏夕介さんが59歳の若さで逝去。失神パフォーマンスで一世を風靡したグループサウンズ・オックスの後期メンバーで、役者さんとしてのブレイク作にTV版『愛と誠』を挙げる人が多いのですが、昭和49年当時テレビ東京系ネットなし地域在住だった月河には、愛役・池上季実子さんとの2ショット雑誌番宣グラビアぐらいの記憶しかないんです。やはり『特捜最前線』の叶刑事ですよね。2004年の『特捜戦隊デカレンジャー』のプロデューサーさんが、追加戦士であるデカブレイク=テツ(吉田友一さん)のキャラづくりについて「登場初話だけすごくイヤなヤツで、以降すごくいいヤツ」として、叶刑事が念頭にあったというネタばらしをされておられました。
これは断じて褒め言葉としてのみ書かせてもらうのですが、すらっと涼しげ端正なお顔立ちだったという以外、見事に特徴もアクもクセもない俳優さんだった。で、それこそがいちばんの魅力だったのです。1994年『人間・失格』での留加(堂本光一さん)母(荻野目慶子さん)の愛人役というフィクティシャスな役どころも、別ワールドの貴公子のような夏さんが扮したから成立したと思います。もっと湿気っぽリアルな役者さんだったら、イタいやらクサいやらで見るに耐えなかったでしょう。すらっときりっと端正なまま、いま少しTV画面にとどまっていてほしかった。
親しんだ俳優さんの訃報に接するたび、TVが遠くなって行くような気がします。全出演作を拝見しているわけではないのですけれど、楽しい時間をありがとうと申し上げたい。ご冥福をお祈りいたします。
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