イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

面倒くさいメンドくさい

2011-06-17 23:44:59 | 朝ドラマ

まぁ前記事のように、日々しみじみほろほろ心地よく乗せられながら視聴継続中の『おひさま』ですが、気がつけば放送開始2ヶ月半を過ぎました。

 気持ちよく視聴できているわりには、昨年のいま頃、『ゲゲゲの女房』の、村井夫婦(向井理さん松下奈緒さん)に赤ちゃん来たるやら、せっかくちょっこし入った原稿料で連合艦隊模型再建プロジェクトやら、vs.貧乏神真っ向バトル観戦に連日盛り上がっていた頃と比べると、若干、体温上昇が鈍いかなという気はします。

月河の近辺でいちばんまじめでヒネクレのない『おひさま』ウォッチャーだと思う高齢組も、視聴している最中は涙あり笑いありツッコみありでフルエンジョイしているのがよくわかるのですが、視聴後も昼と言わず夜と言わず、何かにつけて、陽子ちゃん(井上真央さん)たち劇中人物やストーリー展開予想に花が咲く…というわけにはいかないようです。

『ゲゲゲ』の頃は、貧乏時代はもう少しの辛抱でいずれ少年マガジンに鬼太郎が連載されて、TVアニメ化されてキャラグッズ化もされて巨万の富が…と実話ベースでほぼわかりきっているのに、それでも花が咲かずにいられなかった。

思うに、『おひさま』と『ゲゲゲ』とでは、帯ドラマとしての出来は別にして、物語世界の重さ大きさが違い過ぎるからでしょう。

『ゲゲゲ』はいくら切実な赤貧物語でも、時代背景は昭和30年代。“戦後”を脱し、村井家の外の世間は好景気です。劇中のしげるさんが、とっくに斜陽だった貸本漫画業から足抜けジャンプする機会になかなか恵まれず、愛妻布美枝さんともども明るく悪戦苦闘していただけであって、言ってみれば、古き良き日本人の美徳や実直さをともに持ちつつも「世間の価値観とはちょっと違う、ユニークなおもしろ夫婦ウォッチング」として楽しめました。

しかしかたや『おひさま』の陽子らを包むのは戦争です。老いも若きも、富める者も貧しき者も、仲のいい夫婦も悪い夫婦も、戦争はまるごと押し包んだ。誰も逃げ場はなく、どこにも出口は見えなかった。日々の食べ物や着る物、暖を取る物の乏しさや空襲の恐怖は、個性で好きこのんで選び取った人生の結果ではなく、ひとりひとりの個性や人格のきらめきなど砂粒のように呑み込み押し流す歴史の悪意がもたらしたものでした。

陽子の涙、良一お父さん(寺脇康文さん)の涙、春樹兄さん(田中圭さん)の若き諦念、徳子さん(樋口可南子さん)の矜持、和成さん(高良健吾さん)の思いやり、真知子(マイコさん)の自省と決心、真知子父帝王(平泉成さん)の焦り、どれひとつとっても「おもしろい」「愉快」「泣ける」で屈託なく100パーセント娯楽にし切れる要素はないくらいです。シャレにならないのですね。

『おひさま』劇中の戦争の呼び起こす記憶が根深く“死”と直結していることも、視聴テンションが湿気っぽくなりがちな原因のひとつでしょう。ウチの高齢組及びご近所さんや同年代お友達の皆さんは、女子師範出の陽子ちゃんより、先週放送分で卒業して行った教え子さんたちに近い年代ですが、ほぼ全員、家族親戚や友人知人に戦没者をひとりは持っている。『おひさま』発で他愛もない四方山話がはずまないのは、彼らにとっての“近しい人の死”が、ヒモで結んだように重石になってクチを沈ませるからだと思う。

とは言え一方で、家の中にも友人知人仲間にも戦争実体験者がひとりもいない、そういう人たちと面識もない、純粋な“戦後人”の皆さんにとっては、金属供出や小学生の竹槍訓練、敵機の爆音で機種の聴き分け練習、朝から魚の配給に行列など、「へぇ~」の連続で日々新鮮に大受けかもしれませんね。

核家族化が完了して、お祖父ちゃんお祖母ちゃんとひとつ屋根同居どころか、盆の帰省時ぐらいしか挨拶も接点もないまま成人した年代が、もう中学生高校生の親になっているはず。劇中で言えば現在時制の房子(斉藤由貴さん)年代ですね。このへんの層には、戦時中の窮乏や大切な人の出征、戦死なども、すでに壇ノ浦や川中島や関ヶ原や戊辰戦争同様、“本や媒体で読み知って想像をめぐらせるもの”以上でも以下でもないかもしれない。

警戒警報で町内会ムロに避難全員集合とか、敵性語の英語教師が失業ショボーンとか、蕎麦屋がそば粉払底で大晦日も年越しうどんしか売れない等の、戦時中典型エピも、「親分、てーへんだ!」「殿中でござるぞ」「お代官さまお許しくだせえ」「あちきは○○太夫でありんす」「神妙にお縄を頂戴しろ」「この桜吹雪に見覚えがねえたあ言わせねえぞ」の類いの“お決まり”“約束事”“様式美”化していく。

そういう流れを“平和ボケ”と苦々しがるのも、もう野暮というものなのでしょう。

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