残すところいよいよあと2週となった『霧に棲む悪魔』、羽岡佳さんによるサウンドトラックCDを入手。ドラマ放送開始当初1ヶ月ほどは、音楽が前面に出すぎず引っ込み過ぎず、ほどが良すぎてちょっと物足りないかな?てなこともここで書いてたのですが、気がつけば5月25日リリース速攻買い。やはり買わずにいられない自分がいました。
開幕ベル鳴り響く如きM-1『愛燃える』が序章を告げれば、M-2『白い女』のシルエットがおぼろにきらめき、霧の彼方へ消え去った後にはM-3『愛の深さ ~メインテーマ』の甘やかな残り香。M-4『秘密』にひととき心囚われ、M-5『愛の行方』の遥かなる旅路へ踏み出す。劇中の、生を見失いかけた挫折ダンサー・弓月(姜暢雄さん)の、命の捨て場所となるはずだった森の中での、見知らぬ白衣の女との出会いから始まる人生のリ・スタートを、そのまま音楽でたどるような構成です。
M-8『月 ~弓月のテーマ』・M-9『湖 ~圭以のテーマ』・M-10『森 ~晴香のテーマ』と、三者三様の心模様モノローグの後の、謎→陥穽と混迷→葛藤と覚醒を思わせるシークエンスも見事。M-11『陰謀』の悪意を剥く牙、物陰から冷たく見つめるM-12『憎しみ』に、燃えるギターのM-15『情熱』で迎え撃ち、ひとすじの光明を手繰り寄せるM-16『真実への道』。
嘲るような弄ぶようなM-17『運命の悪戯』の鬼火をM-18『決意』で凛然としのぎ切って、M-21『愛の深さ ~expanded version』(エクスパンデッドと言いながら3分49秒ほど)に至ったときの、丘の頂上から澄んだ空気とともに地平線を望むような解放感。
ただ、欲を言えば、全22曲、約55分のヴォリュームながら、ドラマで使われているのに未収録の曲がいかにも多い。『愛の深さ』だけでも少なくとももう2~3ヴァージョンはアレンジがあるはずだし、月河が大好きな、ナマグサ世捨て人・玄洋伯父さま(榎木孝明さん)の書斎兼作業所兼寝室の場面になると必ず流れる、管楽器のダルでスモーキーなフレーズを含む曲も、危惧した通りやはり収録されていませんでした。
劇伴サントラにおいて“誰某(登場人物)のテーマ”“何々(場所、アイテム)のテーマ”式の曲タイトルの付け方があまり好きではないということもあるのですが、人物誰某をイメージしたテーマではなく、ドラマの物語世界の中で紡ぎ出される、たとえば“苛立ち”や“憧れ”や“嫉妬”“焦り”“郷愁”“安堵”といった、気分や状況のテーマがもっと入っていてほしかった。選曲構成が“点”“点の並び”にとどまっている感じなのですよね。いま少し“面”=壁や天井やフロアや階段、窓や天窓や中庭も見たい、いや聴きたい。
点の並びが飛び飛びでてんでんばらばらにただ輝いているのではなく、ストーリーに沿うようになめらかにつながっているのはとても良いと思うのですけれど。切ないにつけうっとりするにつけ追い詰められているにつけ、“決めシーン決めシークエンスの決め曲”だけを選んで整列させたようなお行儀のよさが、逆に食い足りない。別に何てことないシーンに、ついでのように流れている、ついでゆえにシーンともども忘れられなくなるような曲ももっとぎゅうッと詰め込んでほしかった。
今作ははなから“昼ドラ初の本格的ミステリー”を打ち出した作だったことも、あるいは選曲構成の縛りと言うか“レール引き”を要求したのかもしれません。羽岡佳さんの劇伴音楽にはもっと引き出しの数があるし、引き出しそれぞれの容積も大きいと思う。昼帯ドラマ再チャレンジ、ぜひお願いしたい。できれば“ミステリー”といったジャンルのカンムリのつかない、“パッション”や“ロマンティック”方面にフリーダムな作品に携わってほしいと思います。
…いや、『霧棲』がドラマとしてパッションやロマンティックが窮屈だとか不足だとか言うつもりはないですよ。ドラマ“本体”についてはまた後日。
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