イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

ヒップホップ青踏派

2008-07-27 16:09:34 | 朝ドラマ

『瞳』のカリスマダンサー・KEN(眞木大輔さん)は瞳ちゃん(榮倉奈々さん)にとって“彼氏候補”なのか“憧れのスターさん”なのか“師匠”なのか、なんだかよくわからない距離感ですね。

師匠にしては妙にフェロモン出してスカしているし、スターさんにしてはマネージャーやらヘアメイクやらお付きを侍らせもせず、瞳のバイト先大衆食堂にふらっと来て鯖味噌食ったりえらく庶民的。彼氏候補にしては瞳が一貫して敬語なだけでなく、ラブラブ首ったけという描写がまったくありません。

そもそも『瞳』というドラマ全体が“恋愛の匂い”希薄な世界なんですね。以前里子先輩の恵子(宇佐実彩子さん)が「結婚したい人ができた」と勝俣(田中幸太朗さん)を紹介したときも即「爺ちゃん(西田敏行さん)の嫌いそうなタイプ、どうする?」が先行したし、現在の里子長男格・明くん(吉武怜朗さん)と同級生・奈緒子(大後寿々花さん)の淡い恋物語も、明くんの生き別れ実父に対する屈折した思いを、瞳たち里親側・見守る側が、どう掬いあげ折り合いをつけさせてあげるかという問題にいつの間にかすり替わってしまいました。

まぁ朝ドラですからそんなものかもしれませんが、これだけ食べ頃のかわいい女の子揃いなユニット・ローズマリー、解散の危機もひとりぐらい「彼氏ができたからダンスより恋愛」となるメンバーが出るのかと思ったら、由香(田野アサミさん)は父親の会社倒産、純子(満島ひかりさん)は実家家業の後継ぎ問題と来ました。

どちらも“生活”“食べて行くこと”とダンス、どちらを選ぶかの図式。月河なんかはこういう話題のほうが、好いた惚れたのお話よりよっぽど「おいおい、朝っぱらから」感が強いように思うのですが、朝ドラ層は現実的だということなのかな。裏の民放各局は血なまぐさい犯罪や官公庁不祥事・政治家怠慢など、直球でけったクソ悪い話をバンバン流していますしね。

純子の部屋に「ダンスなんかあきらめて宇都宮に帰って餃子店を継げ」と説得に来た兄(戸次重幸さん)が萌ちゃん(鈴木聖奈さん)に「でもそういうのって、普通長男が継ぐもんじゃないですかぁ?」と言われて「何だキミは、どうせダンスがヘタだからマネージャーやってるんだろ」とキレるくだりが笑いました。わはは。『瞳』ワールドでの“それを言っちゃあお終いよ”シリーズ最上位項目を見事についちゃった。この兄貴、その後も瞳に「だいたいキミは邪魔くさいんだよ、うるさいしデッカイし」と本質つきまくり。このおかげで“悪役性”が鮮明になりました。

銀行員という自分の職業を“堅実で将来性あり、社会貢献度が高くリスペクタブル”と信じてやまないこの兄さん、「ダンスなんて浮わついたものは、どうせ気晴らしの遊びか、テレビに出てスターになりたいミーハー根性」「21歳にもなって夢を追いかけていてどうする、努力したって夢なんか叶うのは0.1パーセントで、大半は叶わないんだから、地に足をつけて将来を考えろ」と言い張ってきかないのですが、そんなに重視する家業なら自分が銀行員辞めて支えようかなんてまったく考えてもみない上、上述のような、瞳ワールドの幸福な予定調和を破壊する本質衝き発言の数々で完全にカタキ役。「この兄さんいいこと言うわぁ」と思ってくれる視聴者はひとりも発生しないように造形されています。

生活かダンスか。この重い問題を、我らが(誰らがだ)カリスマダンサー・KENが一刀両断してくれるわけです。曰く「悩まない人間より、悩んだ人間のほうがいいダンスを踊る。生きて行く中でぶつかるいろんな悩みから、逃げないで向き合って乗り越えたら、きっといいダンスが踊れるよ」(←この通りの言葉だったかどうか自信がない。何せ毎話高齢家族が観てるのを背中で聞いてるもんで)

……瞳の直面する“家族ぐるみの経済的生活問題でユニットメンバーが脱落しそう”という状況に即してこのご託宣を聞けば、「生活不安なくダンスに専念できる人より、食うに事欠いて費用や練習時間の捻出もままならない人のほうがいいダンサーになれる」…んなわけねぇだろ!とも取れなくはないのですが、とにかく朝だし忙しいし、眞木さんの淡々とチカラ入れない演技(棒読みとも言う?)のおかげもあって、なんとなく解決ついたような、心の落としどころができたような気分になってしまうのが朝ドラは怖いですな。

週間タイトルが“ダンス・イズ・ライフ”。絵画とか音楽、あるいはスポーツや囲碁将棋などの勝負事ゲームでもそうですが、“普通なら趣味や気晴らしのためにおカネを払ってやるものを、生業にすべく鍛錬向上に努める”人には決まって「夢を追うのはいい加減なところで降りて、食っていくことを考えろ」との非難叱責がつきものです。

ダンス・イズ・ライフ。ダンスは人生。ダンスとは生きること。“○○・イズ・ライフ”の○○に、“ミュージック”や“フットボール”を入れても同じでしょうが、では“ライフ・イズ・○○”と書き替えて、○○を考えたらどうなるか。右辺と左辺を入れ替えてもそっくり成立するものなのか。ライフの中にはダンスでもミュージックでもスポーツでもない、“糊口をしのぐこと”が厳然と筆頭株主として居座っているではないか。

純子兄の身勝手かつ狭量に見える問いには、そういう本質が含まれていたと思うのですが、こちらは本質衝けば衝くほどあくまでカタキ役。彼氏でもなければ師匠でもなく、雲の上のスターでもないKENさんの「ダンス・イズ・ライフ」がすべてをまるーく包みこんで終了。純子は「できるだけ週に一日でも二日でも店手伝う」、由香は「バイトで稼いだお金から家計に入れる」。なんだ、2人とも結局食うに困ってなんかいなかったんじゃん。まだ両親元気だし。

里親里子制度より、夢を叶える努力より、「深く細かく考えないほうがいいこともある」というのがこのドラマの最大のメッセージなのかも。

何度もしつこいけど、とにかく朝、さもなきゃお昼時で、忙しいですからね。メッセージされるまでもなく深く考えてなんかいられない時間帯ではありますが、最近朝ドラも、見逃したり食い足りなかったりすると、同じ回を二度も三度も観る機会がありますから、つい考えて引っかかっちゃうんだな。

目下月河が高齢家族に随伴視聴している動機は、もっぱら大阪から再び来襲“お好み焼き軍団”ことブルーシューズのメンバーがカッコかわいいから。なんとなく特撮ヒーローものにおける、ヒールキャラ部隊のような空気感なんですね。倒す倒されるの世界じゃなく、ダンスですから、カズさん(滝裕可里さん)の兄の死をめぐって、KENさんのチーパス、ローズマリーとの対立を経ていずれ「ウチらが間違うとった、これからは“開いた”ダンスを踊って、あんたらに負けへんで」となるに決まっているのですが、あんまり簡単に改心しないでほしいなあ。

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