イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

迫力のある生活

2010-04-30 15:44:21 | アニメ・コミック・ゲーム

『ゲゲゲの女房』のおかげで、たびたび耳にするようになった“貸本(かしほん)漫画”という言葉。BSマンガ夜話』でも、昭和のベテランどころの作品がお題になると触れられることはありましたが、“実物”が展覧に供されることはなかったように思います。

月河が、“チマタをにぎわすマンガなるもの”に初めて触れたのは昭和3839年頃で、すでに漫画雑誌が出回って、年長のいとこや、そのまた友達が持ち込んでくるやつを読めたし、NHKしか映らない地域ではあったけれどTVもしっかりあったので、『ゲゲゲ』劇中のこみち書房のように、“子供も大人も集まる、町のちょっとした社交場のような貸本屋さん”は覚えがないんですね。

でも、昭和40年代の中盤ぐらいに住んでいた家の近所に一軒、確かに貸本屋さんはありました。

地方でも一応県庁所在地の、比較的住宅の密集した地域で、夕方になるとそれこそ買い物カゴを提げた奥さんたちが野菜や魚を買いに集まる市場の片隅で、お世辞にも繁盛している感じのお店ではなかった。店内は両壁と土間の真ん中にびっしり本棚あるのみで、こみち書房風に駄菓子の量り売りもなかったし、食べながら腰かけて読めるテーブルなんかもなく、ただ、劇中で佐々木すみ江さんが座っているような番台みたいのはしっかりあって、あんまり愛想のない、漫画好きそうでもないおじさんがいたような。少なくとも、佐々木さんのような、味のある、一度見たら忘れられない系のおバアちゃんではなかったな。 

遠からぬ距離に大学もあり、下宿屋さんやアパートなどもぽつぽつあった地域なので、お客さんらしい人影があるときはたいてい学生さんか、もっと年上の男性が中心でした。

当時就学前~小学校低学年の月河の、同じ年頃の近隣の子がわいわい利用していた記憶はないし、クラスで貸本の話題が出たこともありません。当時の子供たちの興味の主役は当然、とっくにTVでした。

子供を持つ親の例にもれず、月河実家両親も貸本・売り本・雑誌を問わず子供が漫画を読むことに基本的にネガティヴで、子供月河にとっても、本そのものは好きだったとは言え、新刊書店に比べて狭くて、“お古”ばかりでキラキラしてない貸本屋さんは、積極的に足を踏み入れてみたい場所ではなかった。

事情に関しては記憶がおぼろげなのですが、確か、いとこが借りて持ってきたのを返しに、一度か二度入ってはみたのですね。棚に並んでいたのは『恐怖ミイラ人間』とか『秘境の帝国』とか『闇の魔人なんちゃら』みたいな、就学前~低学年の女の子としては背を見ただけで引くようなやつが多かった記憶。

BSマンガ夜話』で貸本漫画について言及されると決まって「絵柄が暗い」「黒ベタの面積が大」という話になりますが、さもありなんと思います。

いとこは幼かった月河のために、そういう品揃えの中でも一応少女漫画っぽいのを選んで持ってきてくれたはずで、いま思えばメジャーになる前の赤塚不二夫さんが別の筆名で書いていた作品だったかも。“河井(かわい)まつげ”なんて名前の、ひみつのアッコちゃんにちょっと似た女の子キャラが出てくるのも含まれていました。

それにしても、すでに『マーガレット』『りぼん』『なかよし』などの華やかでオシャレな絵柄に接していた目には古臭く見え、もっと読みたいとは思わず、結局それきりになりました。こみち書房の美智子さん(松坂慶子さん)が言っていたような会員制だったかどうかも覚えていませんね。子供では会員になれないし、上記のような理由で親が一枚かんでくれたはずは100%ありませんから、すでに社会人だったいとこがどうにかしていたのかな。

『ゲゲゲ』劇中で「大手出版社が続々漫画雑誌を創刊するので、貸本漫画は旗色が悪い」という台詞が何度か出て来ましたが、設定昭和36年の東京で起きていた潮流が、78年遅れで地方にも来ていたのだと思います。八百屋さん、魚屋さん、酒屋さん米屋さん、あるいは床屋さんや薬局兼化粧品屋さんなど、近隣の人たちの日々の暮らしの、活き活きした匂いに満ちた商店街の一角で、思えばあの貸本屋さんだけ、大袈裟に言えば斜陽の色合いが漂っていたような気がします。

貸本漫画にとってかわった漫画雑誌も平成22年のいまや下降線で、それどころか紙に印刷した本全体が売れなくてこの先どうなる?みたいな時代になっていますが、漫画であれ劇画であれ、あるいはそれに先立つ紙芝居であれ、また絵のない小説や戯曲であれ、“おもしろいお話にワクワクしたい”“魅力的な人物、キャラに感情移入したい、萌えたい”という気持ちが、ある程度の文明レベルに育った人間ならば、完全にすたれることは決してないと思うのです。太平洋戦争突入前の地方の町、もちろん家にTVはまだなく、映画館もちょっとした遠出になる(←ユキエ姉さんの内緒のデート)地域に育った布美枝には、昔話語りの達者な登志おばば(野際陽子さん)がいました。

ただ、“媒体”は、人間が求め追求する“便利さ”“快適さ”の進化に従って、どうしても興隆と衰亡のサイクルに巻き込まれるのは仕方がないかなという気がする。人気を得る作風、絵柄、キャラクターも、時代背景によって変わるでしょう。

劇中の布美枝(松下奈緒さん)が「毎日朝までお仕事(=漫画執筆)で、ろくに話もできん」「あんなに働かれとるのに、なんでお金にならんのだろう?」と案じるのをよそに、水木しげるさん(向井理さん)は「描けばええんです」と涼しい顔をして(装って?)いますが、戦後から高度成長期の右肩上がり日本、読者は戦後生まれ、団塊世代以降の子供たち。紙芝居や貸本で当たっていた作品が、衣食足りた子供たちを喜ばすための週刊雑誌のウツワに盛って、そのまんまヒットするとは思えません。月河も一応、床屋さんの待ち時間で『少年マガジン』を読み、白黒TVで鬼太郎アニメを見た経験上、昭和40年代に入れば水木さん、すっかりメジャー漫画家になるのがわかっているから一応安心してドラマも見ていられますが、まだ設定昭和36年。あと34年はキツキツの生活が続くのでしょうねえ。

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