68話で元気炸裂して土間から落ちちゃった10ヶ月藍子ちゃんは、右の目尻のちょっこし下に、成長したら色っぽくなりそうなホクロがポチッとありますね(@『ゲゲゲの女房』)。水道集金マンにベロベロバーされてシラケ顔してた、生後半年藍子ちゃんには、確か無かったはず。
1話、あるいはワンシーン進むともう月齢何ヶ月か成長している設定の藍子ちゃん、何人もの赤ちゃん子役さんがリレーしているはずですが、みんな可愛くて、聞き分けがいい。カメラを向けられると全員「そうだよねーここはこういう顔だよね」という表情をしてくれる(←長めに回していい顔になったカットをつないでいるのかもしれませんが)。
松下奈緒さんの布美枝お母ちゃんにヒョイッと抱っこされると“ナチュラル高いたかーい”気分でしょうな。そのうち東京スカイツリー展望台でも連れてってあげたら大興奮な子に育つのではないでしょうか。
『悪魔くん』の原稿料だけが頼みの綱渡り家計の続くしげる(向井理さん)一家ですが、いまの視点で見てると不思議なのは、漫画家も版元も、“原稿料”がいくらかということだけを話題にしていて、“印税”という概念がまったく俎上にのぼらないんですね。
膨大な資料を集めて何週間も籠もりっきりで百何十ページ描いて、原稿料3万円なら3万円で買い切り、本になって、売れることでの+αなんにもなしというのは、書き手としてはちょっと割りに合わない気がしますが。貸本の時代はそれが当たり前だったのかしら。
戌井(梶原善さん)は、「2300部、取次に納品して、1ヵ月半で半分近く返品されてきた」と言っていましたから、刷った段階で「初版部数の半分=1150部について10%、初版がめでたく売れて再版かかったら、再版で刷った分だけさらに10%」ぐらいの約束をしていたら、現実的に返本差し引いて1000部ちょいしか売れなかったとしても、初版の半分に伴う印税はしげる夫婦のフトコロに入ったはずです。
ただ、単価がわかりませんね。当時の貸本屋向けの単行本って、1冊上代いくらぐらいだったのかしら。昭和40年頃の大人向けの週刊誌は1冊60円だった記憶があるので、児童向けなら40円ぐらいだったのかな。
漫画ではない、『岩波児童文学愛蔵版』などは、クロス装ハコ入り、スピン付き巻頭カラー口絵付きの上製仕様で1冊450円~600円、小学坊主にとっては、お誕生日やお節句やクリスマスぐらいしか買ってもらえないゼイタク品でした。そうすると漫画本なら200円ぐらいかしら。大勢の借り手が回し読みする製本だからもう少し高いかな。
資料も記憶もないので雲を掴むような話になってしまうけれど、かりに200円なら10%で20円、戌井との付き合いを勘案してしげるが8%で手を打ってあげたとしても16円。初版の半分1150部×16円なら、おお、18,400円入りますよ布美枝さん。原稿料3万円のほかに。年中食べ盛りな藍子ちゃんに美味しいもの食べさせて、青海波の着物を質から出して、しげるさんの戦艦模型………はちょっこし保留。
当時は、知的所有権・著作権といった概念も根づいておらず、「売れたら、売れるものを描ける作家として、それなりに次作から稿料を上げればいい」程度に考えられていたのかもしれません。
「売れなかった」と結論が出てしまった『悪魔くん』ですが、水木漫画のディープファン太一くん(鈴木裕樹さん)は「新境地って感じ」「もう10回も借りて読んだ」と絶賛だし、圧力市民団体のモンスター父兄・日出子(中島ひろ子さん)の息子も、母親からきっつく禁じられているに違いないのに、しっかりこみち書房から借りて読んでました。決して作品に魅力がなくて売れないのではなく、雑誌やテレビに押されての貸本衰退により、全国で貸本屋さん閉店ラッシュ、仕入れ部数も激減の途にある時代に、せっかくの意欲作を貸本で出そうとするからヘタるのです。
昨日67話では、数少ない「まだ勢いがある」少女漫画専門の貸本出版社でめでたくデビューを飾ったはるこ(南明奈さん)も、「少女漫画も雑誌の時代、いまから大手の雑誌社に売り込みに行くんです」と言っていたほど。
振り返れば、昭和36年に布美枝とスピード結婚した当時から、しげるの収入は先細りでした。“1冊描けば3万円”との情報を鵜呑み、「そこらの勤め人よりも実入りがいい」と源兵衛お父さん(大杉漣さん)は安心して大事な娘を嫁に出したのですが、調布のしげる宅はすでに大変なボロ家。新婚早々、貰い湯に来た雄一兄貴(大倉孝二さん)のクチから、暁子姉さん(飯沼千恵子さん)の前で「1冊3万円は景気のいい時の話、いまは貸本業界はどこも火の車、しげるも苦労する」との発言がありました。浦木(杉浦太陽さん)のテキトーな口利きで間借りさせることになった、大阪から活路を求めて上京してきた同業者の中森さん(中村靖日さん)には、しげる自身から「東京の貸本出版もだいぶ潰れた」「生き残っているところも、原稿料を値切る」と実態レポートが。
旧友でかつての紙芝居パートナー・音松親方(上條恒彦さん)との再会エピでも、「あんなに大勢の子供たちが集まっていた紙芝居が、お客が日ごとに減って、いつか人っ子ひとりいなくなる」「夕飯前、紙芝居屋が回ってくる時間に、いまは相撲だ野球だと、子供らはテレビに夢中だ」「ひとつの仕事が無くなるということは怖いものだぞ」と、しげるは布美枝に語っています。「描けばええんです」「描き続けていれば、金は入ってきます」と言ってはいても、この先、貸本漫画一本では生きていけないだろうことは、ドラマの早い段階でしげるにもうすうすわかっていたはず。
富田書房が名実ともにつぶれ果て、鬼太郎シリーズの完結と『河童の三平』起稿を応援してくれていた深沢社長が結核で長期療養に入ってしまい、春田(木下ほうかさん)から嫌み言われながらやっと取った少女漫画の短編の注文は、1万円の約束が、代わりに原稿を届けた布美枝に渡されたのは5千円ぽっきり。
とうとう先週のナメクジ出版社長(住田隆さん)からは、1冊まるごと「なかなか良く描けてるね」と愛想笑いされながら、なんとたったの3千円、「いくらなんでもっ!」と攻めて、目いっぱい上乗せして3千5百円しかもらえなくなってしまいました。
しげるの執筆意欲や発想力は旺盛なままなのですが、劇中、登場する金銭の額で言えば、時間軸とともに見事に右肩下がりです。
五輪景気に沸く世の中のムードに、暗く不気味な作風が合わないという評価もあっただろうし、「下品でどぎつくて陰湿、子供に読ませたくない」と良識派気取り父兄に叩かれたりもしますが、“見る人が見れば、水木漫画は個性的で独創的で内容が濃く、子供だけではなく社会人でも繰り返し読んで面白い”ということは劇中、ちゃんと提示されています。貸本は廃れても、漫画そのものは昇り調子の時代。作品の魅力が収入につながる方向にどう舵を切るのか、ドラマ的にどう表現されるのか、これから見ものです。
今日は、こみち書房での藍子ちゃん土間落ち事件で“赤ちゃんが泣けば(泣いたことにすれば)、不利な状況に水をさせる”と学習した布美枝グッジョブ。“思いがけぬ失業、ここ1~2ヶ月が苦しい、しげるからアレしてもらう気で来たが、あとは奥さんの了解だけだからヨロシク”とヒクヒクにやつく雄一兄貴と、すでに貸す気満々のしげるが、「うふふ」「ぬはは」と笑い合ってってゴマカしてるところを、本当はお寝んね中の藍子ちゃんにかこつけて席を立ってしまいました。
本当に世のダンナ族は、女房のことを、自分及び自分の家族に奉仕する、実質タダ働き使用人と思ってるからねー。
リアル水木しげるさん兄とは、調布の例の建て売りボロ家(←買った時点ではボロ家ではなかったと思いたいが)購入時に頭金、それこそ土地所有権問題その他でひとかたならぬ恩があったらしいし、お兄さん自身も戦後は諸般の事情で再就職が難しく妻子を抱えて苦労されていたらしいですから、貰い湯や失業中の援助ぐらいは実弟しげるさんとしては当たり前な気持ちだったのでしょうが、とりあえず、ドラマの雄一兄貴は、早こと返済してごしなさい。