イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

ひざかたトシちゃん

2010-09-17 16:18:50 | アニメ・コミック・ゲーム

うはは、「ハイ水木プロです、日月出版社さんですね」はよかったな(@『ゲゲゲの女房』)。

耳で音声だけ聞いてると何でもないけど、地デジ放送の字幕で文字が並ぶと“日月…水木………金土はドコ行ったんだ”と思ってしまう。そのうえゲゲゲの次女喜子ちゃん(荒井萌さん)、受信口もふさがずに「お父ちゃん、デンワ~」とか、客の服にお茶こぼして書類でゴシゴシとか、いしいひさいち漫画のノンキャリウーマン三宅さんみたいなんだ。

鴨川つばめの『マカロニほうれん荘』きんどー日陽さんなんてのもいましたっけ。

それはともかく、喜子ちゃん役の荒井萌さんは19953月生まれのまだ15歳なんですね。短大1年生にしては幼すぎに見えるのもやむなしか。でも短大でも四大でも、卒業する頃まで“制服着たら高校生で通用する”童顔ちゃんっていましたっけね。

昭和60年、世の中景気はいいし、女子短大生ともなればバイト三昧のお友達も大勢いるだろうに、村井家はしげるお父ちゃん(向井理さん)も布美枝お母ちゃん(松下奈緒さん)も、雇われて組織の歯車になって労賃もらうってことと縁が薄いので、喜子ちゃんも電話番とかお茶くみとか、社会に出れば誰もが一度は通る道がいきなり頼りない。でもイカルお祖母ちゃん(竹下景子さん)の言うように「自分を飾らん」「喜子と話しちょうと心が休まる」のが彼女のいいところ。

一方ゲゲゲの長女藍子さん(青谷優衣さん)は新卒教師。喜子ちゃんが心配したように、新学年から一気にがんばり過ぎて、2ヶ月あまりでゴムが伸びきり気味です。「勉強やスポーツで目立たない子のいいところ、頑張ってるところを、皆に紹介してあげたい」という学級通信企画が、「同じことをボクがやっても載せてもらえないのに、載せて褒められてる子がいる、エコひいき」と反発されては、“ぱっとしない子の気持ちがわかる先生に”と志しを抱いて働き始めた藍子先生もつらいところ。

どうなんでしょうねぇ。載せられた時点で“パッとしない子認定”されてるわけで、褒めるところを一生懸命探してもらってることがわかってしまう子のほうは、あんまり嬉しくないんじゃないですかね。親や教師など、教え導く立場の大人たちは、“褒める”ということにえらく価値を置き、“褒めないと子供は伸びない、くすんでしまう”強迫観念にとらわれがちだけれど、逆に、褒められることのない、パッとしない子のほうが、パッとしないことによって、できる子、目立つ子、優秀な子には望めない、ラクでのんびり楽しい学校生活が送れていたりもするのです。

藍子先生も、あんまりムキにならず、パッとしない子が、パッとしないがゆえの悩みや壁にぶつかったときにだけさらっと手を差しのべてあげるくらいのほうが、お互いに居心地がいいのではないかな。子供の気持ちがまったく読めないわからない人間は、もちろん教師に向かないけれど、あんまり子供好きすぎて、子供の思いと自分の思いを重ね合わせて前がかりになってしまう人も、ちょっと考えものかも。

今日は、遅くまで学級通信作りに励む藍子のために芋ぜんざいを差し入れした布美枝さんが、食堂に戻ってきて「お父ちゃん、芋ぜんざい食べる?」に茂さん「“も”!?って何だ」で地味爆笑。“オレより先に誰か食べたのかッ!?”“オレの好物なのに、なしてオレがついでにお相伴みたいになってんの?”と言わんばかり。昭和60年時制なら、しげる先生当然還暦は過ぎ、子供が社会人と短大生になっても、この食い意地上等。喜子ちゃんは喜子ちゃんで「カステラ食べてからね~」「もぉ食べられない~」と幸せな寝言発しながら寝坊スケしてるし。どんだけ食べ物のふんだんに出てくる夢を見てるんだと。

茂お父ちゃんの異才と自由な感性と集中力、布美枝さんのおっとり静かな包容力、しっかりDNAの受け継がれた村井家とも、来週いっぱいでまずは“こっぽし”です。

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草場の陰から

2010-09-13 22:14:34 | アニメ・コミック・ゲーム

少し日にちが経ってしまいましたが、クレージーキャッツOBの谷啓さん、亡くなられましたね。

NHK教育『美の壷』が“甥っ子”設定で草刈正雄さんにバトンタッチされた頃から、体調問題かな…という気はしていたのです。“趣味人で笑いを解するシニア”がとても似合っておられたのに。78歳という享年を聞くと、いま少し…と思ってしまうのですけれどね。

クレージー全開時代の映画を、BSなどで何度か観ましたが、メンバー7人の中で若いほうから数えて2番め(19322月生まれ。同年9月生まれの故・安田伸さんが最年少)で、小柄でまるまっちい体格、丸顔の風貌もあってか、“ワケ知りで、ちょっとヤなやつ寄りの、でも、いいところでその小知恵が発揮される父っちゃん坊や”キャラが多かったようです。

しかしそれより何より、谷さんと言えばとにかくトロンボーンですよね。月河はNHK朝ドラマ『瞳』のOPで中川英二郎さんを知るまでは、「日本でトロンボーンと言えば谷啓さん」あるのみでした。

昭和44年頃でしょうか、まだ少年マガジンで『巨人の星』をバリバリ連載中の川崎のぼるさんが少年サンデーに連載していた『歌え!ムスタング』という、スポーツ根性もの略してスポ根ならぬ“芸術根性”もの漫画で、谷啓さんが実名登場したことがあったんですよ。

主人公の、少年院育ちの草場剛(たけし)は、星飛雄馬と花形満の合体したみたいな、打ってよし投げてよしの天才野球少年だったのですが、事故か何かで二度とボールもバットも握れない手になってしまい、絶望の果てに“ジャズミュージシャンとして生きる”という道を見つけ出すわけです。詳しいことは忘れましたが、もともと野球以外にそういう素養もある少年(という設定)だったのでしょうな。

んで、そういう逆境の草場が思いついたのが、「谷啓なら日本を代表する音楽家」「弟子入りを目指そう」。深夜押しかけた谷啓さんの自邸では、昭和44年頃当時の谷さんが「ガチョーン!それではまた来週をお楽しみに!」と、ひとり自主リハを繰り広げている。そこへ草場が押しかけてくる。草場、星飛雄馬と『アニマル1(ワン)』の一郎を合体させて、花形の身長にしたようなヴィジュアルと記憶しています。

ここらへん記憶があいまいなのですが、すでに大物ミュージシャン兼売れっ子コメディタレントでもある谷さんは、何度か草場を追っぱらうはずです。『巨人の星』での青田昇さんや、金田正一さん、監督川上哲治さんを描いた、川崎のぼるさんのあのタッチの谷啓さんを想像して下さいな。とにかく草場の押しかけが深夜ばっかりなので、ここで登場する谷さんはいつも重役みたいなガウン姿です。

んで、何度めかに作中の谷啓さんが根負けして、草場を居間に招じ入れ、「キミに見せたいものがある、みたまえ!」となんか見せるのですが………

…その次の回から未読なのです。ちょうど、いつもの、男の子向け漫画雑誌がしこたま読める床屋さんに行かなくなった時期だったのかもしれない。あの後、谷啓さん草場に何を見せたのか。草場はめでたく弟子入りして、ミュージシャンとして再起大成なったのかどうなのか。

“谷啓(たに・けい)”という芸名が、ダニー・ケイからの命名だったというのもずいぶん後になってから知りました。江戸川乱歩、もしくは久石譲方式ですな。

戦後のバリバリ直輸入ジャズと、高度成長期のTV芸能の世界を橋渡ししてくれた功労者のおひとりだったと思います。映画『釣りバカ日誌』のレギュラーに定着した1980年代頃だったか、当時の若手お笑いの番組に大御所としてゲスト出演、「“ガチョーン”は手を前に突き出すんじゃなく、“ガ”で前に出して掴んで、“…チョーン”で手前に引っ張るんだ」と、ガチョーン指南をしてくれていました。アーティストそのもののエキセントリックさと、素でおもしろい人という親しみやすさが入り混じって、クレージーのメンバーの中でも独特な持ち味の人でした。

あれはクレージー映画、無責任映画とは別立ての作品だったと思うのですが、『図々しい奴』ってのもあった。主題歌も谷さんが歌っておられました。

♪アタマは悪いし カネもない だけどいつでも幸せさ 図々しいヤツと 人は言うけど………

……この先が、また記憶がない。なんか谷さんがらみの記憶って、こういうのが多いんですよ。アート、芸能の才能に抜きん出ていた分、逆に、ガキでもジャリでも口ずさむ国民的なブームとまではなりにくかったのかもしれません。かえって、若い主役を引き立て、渋く奇妙な味を出す脇役に回ってからのほうがいい仕事をされたかもしれない。

意外ですが、あれだけ時代の笑いを先導したクレージーキャッツの中で、最初からミュージシャン志向でなく“お笑いをやりたい、喜劇役者になりたい”との強い希望を持って加入したのは谷さんひとりだったとも聞きました。

人間、“いちばんやりたいこと”“いちばん人より秀でていること”でもっぱら評価され、人気を得るとも限らないからおもしろい。それでも78歳と聞けば、もう少し…と思うことに変わりはありません。

『ムスタング』の草場はたぶん団塊世代だったと思うので、現存人物ならいま還暦ぐらいにはなっているかな。本当に、あのとき谷さんに何を見せられたのだろうか。

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みんなで歌おう

2010-08-05 14:57:33 | アニメ・コミック・ゲーム

「げ、げ、げげげ、のげ?…」と出来たてほやほやの『ゲゲゲの鬼太郎』歌詞を一生懸命読む布美枝さん(松下奈緒さん)が微笑ましかった(@『ゲゲゲの女房』)。

素の松下さんも、『鬼太郎』ソングはおなじみだと思うんですが、メロディーで、なんならイントロ効果音つきで、子供の頃から覚えている歌詞を、いま初めて歌詞単体で目にしたかのように演技で読むのって、プロの役者さんでも結構、大変な部類の仕事だろうと思うんですよ。どうしてもフシがついちゃう。

「おさかなくわえたドラネコを」までは棒読みできても、「…追っかけて」は「おぉっっかけーて」と伸びてしまうし、「思い込んだら、試練の道を、行くが男の」まではするっと行くけど、「…ど根性」はどうしたって「どこんーーじょぉぉぉお」と粘りたくなってしまう。

「さらば地球よ、旅立つ船は、宇宙戦艦」までは何てことなくても、「…ヤマト」は「やぁぁぁまぁぁぁとー」にならざるを得ない。

水木プロを立ち上げしげるさん(向井理さん)の漫画の仕事が一気に増えて嬉しい悲鳴の一方、「最近はお父ちゃんの背中が見えんことがある」「浦木さんの言うのも当たっとった、ろくに(夫婦の)会話がない」とちょっこし嘆かわしい布美枝さんですが、苦戦していた『鬼太郎』ソングの作詞を「できたばっかりだ、まずオマエに見せようと思っとった」といそいそ持ってくるしげる。編集者より先にナマ原稿に接する至福は、愛妻の特権です。

「歌ができたおかげでTV化がぐっと進展したが、“墓場”がスポンサーに受けない、タイトル変更できないか」と船山P(風間トオルさん)に持ちかけられ、豊川編集長(眞島秀和さん)とともに俄かに卓袱台タイトル会議となって、「そう言えば、なぜ“ゲゲゲ”なんですか?」と豊川が訊くと、「自分のことです、子供の頃“シゲル”と言えなくて、“ゲゲル”と言っとったんですよ」「いまでは昔なじみ(の友人)もゲゲと呼ぶようになって」と説明するしげるに、食卓から“そうそう、そうでしたね”“東京に来るとき、浦木さんと出くわして、そのとき聞いたんでしたね”と懐かしさをこめて頷く布美枝。

やはりこの2人は、信頼と尊敬と感謝、ねぎらいで固く結びついているだけでなく、“忘れ難い時間をどれだけ共有しているか”でも追随を許さない。高年収で社会的地位の高いエリートなご夫婦でも、旦那は旦那で仕事、接待、飲み会、奥さんは奥さんで家事に子育て、ママ友付き合い趣味カルチャーと、てんでに別個の時間を積み上げるのみで、対社会的にだけ“夫妻”をやっているようなカップルでは、如何に円満に満ち足りて見えても「そうそう、そうでしたね」が少ないから、こうはいかないと思う。

いまはアシスタント3人を使い、原稿取りが詰めかける売れっ子先生になりましたが、電気を止められた仕事部屋でロウソクを頼りに夫婦で原稿を仕上げた日々が、遠くはなっても消え失せることはない。酸いも甘いも、辛いも苦いも一緒に飲んで噛み分けた記憶がある限り、このご夫婦は大丈夫でしょう。

一日も早くデビューをと焦り気味なアシ倉田(窪田正孝さん)に頼まれて、しげるが新人賞の応募原稿を見てやり、「早こと世に出ても、促成栽培ではすぐに枯れてしまうぞ」「本を読んだり資料を調べたり、いまのうちに勉強しとかんと、脳味噌の貯金がすぐに無くなる」「一生懸命なのはいいが、近道はいけん、近道を行ったら、その先は行き止まりだ」と、改めてみずからの漫画家人生の来し方行く末を思うように語る場面もよかったですね。

最初は鼻白み気味だった倉田が、ひとり仕事机に戻って、「絵も雑、ストーリーも練られとらん」と先生に一刀両断された自作原稿を見返し、「ほんま、これではあかんわ」と冷静さを取り戻して、次の作品への意欲を燃やしていくことができた。絵でも詩でも小説でも、楽曲でも、出来上がりホヤホヤだと、作ったときの猛烈な体温の“照り返し”や“湯気”に当てられて、作った本人にはアラが見えないものです。時間と心理のインターバルをおいて、“作者”ではなく“他人”になって見返す必要がある。

このコマが、ここのネームがどう足りない、どうおかしいではなく、「一生懸命なのはええが、焦ったらいかんな」と、自作に距離をとるべく、水木先生は水を差してくれた。クリエイターにとって、仕事がない時期の暇な時間をどう活用したかが、いずれ来るチャンスの後に効いてくる。

溢れる画力やセンスを謳われて鮮烈デビューしたものの、読書量や雑学知識、実生活の見聞など“脳味噌の貯金”が乏しいために短期間で磨耗し消えてしまった描き手を、先生は大勢見てきたのでしょう。戌井(梶原善さん)の北西出版“特別顧問”を買って出て、新人の投稿を見せられたときも、しげるさんは「促成栽培」を厳に戒めていました。

“生活が貧乏でも、人として貧しくなってはいかん”を信条に、苦しい家計から趣味の戦艦模型を買って艦隊再建を試みたり、「売れなかった長ーい時間の過ごし方が、売れているこんにちの自分を在らしめている」と、水木先生は揺るがぬ自信があるから、自立や仕送りを気にしてデビューを焦る倉田へ、説得力のあるアドヴァイスができたのです。

「よっしゃ、また一からやり直しや」とペンを持ち心機一転する倉田を、引き戸の陰から見守るいずみ(朝倉えりかさん)、しげる義兄さんがホンモノの漫画家なら、布美枝姉ちゃんもホンモノの漫画家女房。倉田さんにはホンモノになってほしいけど、私はお姉ちゃんのようなホンモノになれるだろうか?との自問自答もあるようです。

ところで、劇中の倉田は中卒の看板屋見習い7年を経て水木プロに来ており、まだ20代前半。一方しげるはすでに40代半ばです。

ところがしげる役の向井理さんが、やんわり老け目に中年メイクし、座ったとき肩や背中を丸めにする演出、演技の小ワザ程度じゃ微動だにしない(?)若見えさん(←実年齢28歳)なばかりでなく、倉田役の窪田正孝さんも、この役相応を余裕で通り越して、まだまだ現役高校生役がいける超のつく童顔くん(←明日6日がお誕生日で満22歳)なので、なんだか2人の師弟シーンが部活の先輩後輩みたいなんだな。

その絵空事感、有り得ねー感が、“漫画家とその女房の物語”にまたいいんですけどね。

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そんなバナナ

2010-07-24 20:53:10 | アニメ・コミック・ゲーム

23日(金)放送回でめでたくビフォーアフター成った村井家(@『ゲゲゲの女房』)の食卓にある、しげるの好物コーヒー用クリーミングパウダーのラベル。綴りは“Creamy”とも“Crearity”とも読めるけれど、黄色地のロゴデザインはまったく、あのおなじみロングセラー品を再現してますな。

このドラマには貧乏時代から、お台所には“カネクレンザー”、しげる(向井理さん)の仕事机には“明墨汁”、商店街の看板には“ユニコーンビール”など、「アレのことね」とわかる架空の商標ラベルが絶妙の似せデザインで満載です。ユニコーンビール、普通に飲んでみたいんですけど。平成のいまは“一搾り”とか、発泡酒“麗生”、新ジャンル“コクの時”とかを製造してるのかしら。

ライバルは“ヒノデビール”の“ウルトラドライ”と“クリアヒノデ”だろうね。

昭和41年夏時制ですでに部数80万部を勇躍越えたらしい雄玄社『少年ランド』編集部の柱には、同社の少女誌部門の看板『少女ガーデン』表紙写真が貼ってありますが、テイストがなんとも当時の講談社『少女フレンド』っぽいカントリーくささで嬉しくなります。ライバルの集英社『マーガレット』に比べると、なんとはなし、非日常に突き抜けてないというか、生活感、家庭感、みたいのがありましたからね、少フレ。

『マーガレット』の集英社が、『少年ジャンプ』で少年誌マーケットに殴り込んできたのが、確か昭和44年。創刊当初は週刊ではなく隔週刊ぐらいで分も厚かった。『男一匹ガキ大将』で本宮ひろ志さんの名前と絵柄を初めて知りましたね。“友情”“努力”“勝利”の同誌ですから、もしドラマに出てくるとしたら『少年ビクトリー』とかかしら。負けるなランド(でも抜かれるんですよねマガジン)。

絵に描いたような貧乏ボロ家が、遅ればせながら昭和41年の、幼子持ちの民家らしい、冷蔵庫も炊飯器も、魔法瓶もコーヒードリップもあるしつらえになって、「あの頃は…」と懐古する材料がたくさん出来た分、ちょっと演出が甘くなったかなという気もしましたが、22日(木)のまだボロ家のままの時点での水木プロダクション発足祝賀会に駆けつけてくれた戌井さん(梶原善さん)が「いま思い出してたんですよ、『鬼太郎』が復活すると聞いてお祝いに来たとき、奥さん、ここに座り込んでた」と、ひとり宴席を離れて、茶碗酒片手に裏庭で述懐する場面は良かったですね。

「あんたが早く現われんかと待っておったんですよ」としげるは熱い握手で迎えてくれ、戌井さんも「今日はじっくり水木さんと話したくて来ました」としげる大好物のバナナを土産に訪れたのですが、飛ぶ鳥落とす大手出版編集者、映画会社Pや新人アシスタントら上り坂の人たちが“水木センセイ”をいやが上にも盛り立てんと取り囲んで賑わう席に、下り坂をともに踏ん張る同士だった身が加わるのは何とはなし居心地が悪く「人あたりしそうで」。

奥さんの布美枝さん(松下奈緒さん)相手に、不遇時代に貸本版『悪魔くん』を傑作視して日の目を見せた恩を売るつもりはまったくないのだけれど、水木先生との出会いと親交には貧乏の思い出がついて回り、それは今夜のこの宴にはふさわしくないものなのです。

でも貧乏をともに耐えた時間の長さなら誰にも負けない布美枝(松下奈緒さん)が、「誰も認めてくれない、どこの出版社からも冷たくされて、応援してくれたのは戌井さんだけでした」「これから先どげなるのか、お祭りみたいな騒ぎがいつまで続くのか、怖いような気がします」と、前に進むのみとはなれない一抹の後ろ向きをひととき吐露できるのは、当夜の面子だとやはり戌井しかいないのです。

初めての里帰りで、“本当は貧乏でどうしようもなかったのよ”をぶっちゃけられる相手が実家の中で、両親でも兄でも嫁いだ姉でもなく弟・貴司(星野源さん)だけだったというのと、どこか相似している。努力して、刻苦勉励して、いまより幾らかずつでも上を目指すのが人生のあるべき姿とみんな思っているけれど、上への気流に乗っても四六時中前向き、イケイケどんどんだけでは人間、疲れてしまうのです。ひととき後ろを振り返り、「低迷していた頃も、あれはあれで良かった」「この上向きが続くか不安、怖い」と心ゆくまでしんみりじんわりできるサムタイムがあり、そんな気分を共有できるサムワンがいないとね。

“努力上等、でも要所では懐古躊躇モードでうじうじ”をワンシーンだけでも肯定してくれた、このドラマの風通し良さを象徴するような場面だったと思います。前向きオンリー一方通行でラクさせてくれない朝ドラ、続きましたからね。

「しっかしボクも気が利かないなあ、(皆が高価な酒や菓子を持って来るような水木先生になったのに)いまさら土産にバナナでもありませんでしたよねぇ」と苦笑する戌井さんに、「そんなことないですよ、いちばんうれしい、何よりのお土産です」とお世辞でなく元気づける布美枝。しげるも同じ気持ちだったに違いありません。

できれば祝い客がはけて布美枝がひとり後片付けする深夜、しげるが「酒の飲める人はええなあ」「次から次へと話の相手してるうちに、せっかくのオマエ(=布美枝)の太った餃子、みんな食べられてしまった、宴会の後とは腹が減るもんだな」「あーうまいな、戌井さんのバナナ、あの人は気が利いちょる」とニコニコぱくつく場面があったら良かったですね。

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ゲッ刊ゼニ

2010-07-01 13:23:47 | アニメ・コミック・ゲーム

昭和の漫画好きなら誰でも知っている金字塔的雑誌『ガロ』がなぜ劇中『ゼタ』になるのか不思議でしたが(@『ゲゲゲの女房』)、題字の絶妙なデザインのせいで、アレ、表紙の天を手前に、地を向こうにして見ると“ガロ”にも見えるように出来ているんですね。629日のOPタイトル明け、卓袱台に載せた創刊号を前にしげる(向井理さん)が布美枝(松下奈緒さん)とともに「いよいよ雑誌に進出だ!」と心機一転する場面、斜め俯瞰から下りていくショットで、一瞬“ガロ”と読めてしまいました。

創刊当時のリアル『ガロ』の表紙・題字がどんなんだったかは残念ながら子供過ぎて、周りにもガロ級の大人な漫画ファンも居なかったため記憶にないのですが、これはドラマの美術さんがワザありですよ。

…それよりも何よりも、イタチ浦木(杉浦太陽さん)に「月刊“ゼニ”!?カネ儲けの本!?」と読みまつがいさせるためのこのタイトルだったかな。

クチを開けば「カネ」「カネ」の物質主義代表イタチ、それにしては結構、銭湯代にも事欠いてニオってたり、競馬オケラで腹すかせてたりで、滅法効率の悪い儲け主義のようですが、最近詩の同人誌を考えているという太一に布美枝「何を作ってるんですか?」イタチ「爆弾か!」しげる「オマエはだまっとれ」の卓袱台シーンや、「はるこさん(南明奈さん)の様子がどうもおかしいんだ、オレの仕事を“もう受けられん、漫画に専念する”と言うんだ」しげる「んーちっともおかしくないがな」など、“生活が貧乏なのは仕方がないが、人間まで貧乏臭くなってはいかん”という、言わば精神主義代表のしげるとの当意即妙かけ合いは、最近ますます面白い。いつ見ても、“カネ、カネ”のイタチのほうが、本物の貧乏のしげるよりも、むしろ貧乏臭いのが愉快ですね。

イタチにしてみれば“カネ儲けに興味がなく、カネがなくてもさっぱりがっついた素振りを見せない、それも夫婦揃って”と、自分と対極なしげるが、ある程度いつも身近な視界にいてくれないと、自分の存在意義を確認できないのかもしれません。

「相変わらず貧乏暮らしだなあ、オマエはカネ儲けの才がないからダメなんだ、その点オレの世渡りのうまさを見ろ」と減らずグチを叩き、虚勢なのに虚勢と自分では気づいてない見栄を張って見せる相手がいないと、イタチならぬウサギみたいに淋しくて死んじゃうのかも。

しかしこれからしげるさん、上昇軌道に乗り貧乏脱出していくのは既定事項。浦木はどうなるのかな。「もっとうまい締切りの逃げ方があるぜ、ついてはコンサルタントとして手数料を」とかなんとか結局つきまとうのかな。「ガツガツ机に向かってガリガリ書いて、肩凝らして、疲れて儲けるなら誰でもできる」「ラクして、遊んで、それでも儲けるのが、オレの様な賢い人間のやり方よ」とか、洗濯の行き届かない安ピカ服着て、ヘラヘラ言いそうだな。

それにしても昨日(630日)放送で、こみち書房借地の地主さん・和田洋品店のご主人役で九十九一さんが出てきたのにはびっくりしました。『お笑いスター誕生!』から30余年。顔出しタレントよりも作家さんとしていろんなTV番組に携わっておられるとは仄聞していましたが、NHK朝ドラでお会いするとは。役の関係もあるのか髪型や髪色に年輪が感じられますが、体型風貌はあまり変わられませんね。登場一番「あ!」とすぐわかり、初見ではあえて見ないキャストクレジット巻き戻して確認しました。

そう言えばセットのこみち書房に入るすずらん商店街路地の突き当たりに、“九十九”と藍地に染め抜いた暖簾のお店があったなあ。何屋さんだったかな。ちゃんと映っているカットを探して確認しようか。

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