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イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

鏑木だよ。

2011-05-19 18:37:27 | 昼ドラマ

「全国のタケオ(柄本時生さん)ファンの皆様、大変長らくお待たせいたしました!」とばかり、18日(水)の『おひさま』タケオdayでした。そうか、出てくるたび挙措がカクカクしているのは、あこがれの陽子ちゃん(井上真央さん)の前だと緊張してしまうからだったのね。タケオの出番はたいてい陽子ちゃんと出くわしたり挨拶をかわしたりの場面だから、それで“年じゅう”カクカクに見えるのか。

 …でも、なんとなーく、陽子も誰もいないところでも、“地”でカクカクしているような気がするのは何故だ。回想で、小学生坊主時代の校庭ラジオ体操中、陽子ちゃんの横顔を見つめていると動きが超マイペースに…という場面が出て、教師になった現在の陽子に「タケオくんも動きがヘンだったから、(教練についていけなくてへこんでいる生徒ミチオくんの)気持ちがわかるかなと思って」とニッコリグサグサ言われてましたが、確か陽子ちゃんが東京から引っ越して来たのは小4のときだったはず。その前は、流れるようになめらかな動きで皆に合わせて体操できていたのかどうなのか。

 しかしなんですな、ドラマ時制でたぶんかれこれ10年は経過しているのだろうに、いまだに「好きだ」のひと言も言えないタケオはもうキャラだからしょうがないとして、「(あの頃の動きのヘンさは)学校に好きな女の子でもいたの?」とニコニコずけずけ言えてしまう陽子の鈍感さもよくよく罪じゃないですかね。よくいるホラ、同性に嫌われるタイプじゃないのか。お茶の間朝ドラヒロインとしてどうなのか。奉公のため5年生途中で通学をやめなければならなかったユキちゃんさえ、タケオが陽子を好きだったと知ってるのに。

 こうなったら、スーパー戦隊における“イエロー回”のように、ヒロイン陽子はOPの顔出しだけで、あとは15分ほぼまるまるタケオの日常、みたいな日があってもいいんじゃないでしょうか。タケオの起床、タケオの顔洗い、タケオの朝昼晩メシ、タケオの入浴。きゃー。公式の人物紹介ではタケオくん、この後出征を余儀なくされるようなので、タケオが入隊して上官にビンタされたり、気をつけ!敬礼!捧げ銃!全速前進!したり、いっそ前線で米兵相手に大活躍したり。匍匐前進とか上手そうだし。軍隊は当然男社会で陽子ちゃんもいないからカクカクの心配もない。

 お国のために水漬く屍、草生す屍と化したりせず、ピンピン生還していまだ熟年陽子(若尾文子さん)に野菜貢ぐ犬塚弘さんになって健在なのもすでにわかっている。なんと安心して愛せるキャラであることよ。タケオあっぱれ。

 18日はその、教練についていけなくてショボーンだった生徒=ミチオくん役の子役さん(鏑木海智さん)(←かぶらぎ・かいちと読むそうです。浅野忠信さんが出ていた写メのCMを思い出しますね)が、夜、録画再生した『霧に棲む悪魔』でも登場。元気な漁港のワンパクくん役でリンゴ頬っぺのお顔を見せてくれました。弓月(ゆづき)だからユヅ兄(ニイ)か。「好きな人がいるなら早めに」「困ったときは相談に乗るよ」とこんなワンパクにうけ合われて、弓月(姜暢雄さん)形無し。

こちらの、太一くんだったかな?はなかなかスミに置けないヤツで、ミナミちゃんという名前の、タケオにおける陽子みたいな憧れ対象もすでにいるらしい。収録としては『おひさま』よりこちらが後だったのかな。子役さんと言えどもプロの役者。役の切り替えが大変そう。

『霧に~』を引き合いに出してしまったなぁ。昨日18日の第28話を御田…じゃなくて観た後ではもう軽々にレヴューとかできませんな。このドラマに関しては、筋立て展開どうこうについて最終話までここで論評しないことにします。しますったらします。何をリキんどるんだ。

…でも、個別のキャラや俳優さんについてはときどき単体で触れてもいいことにしよう。しようったらしよう。誰も止めてないし。

とりあえず弓月のあの微妙なパーマセミロン毛は風に弱いな。

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龍と鹿

2011-05-06 22:29:49 | 昼ドラマ

『霧に棲む悪魔』、圭以(入山法子さん)と御田園(戸次重幸さん)が今週アタマにめでたく(めでたいのか)結婚し、横浜の新居に主舞台がしばし移っているので、最近出番が少ないですが、キャストの中で一度は特筆しておくべきひとりが、龍村ファーム御用達の運送業者=小鹿運送の鹿野役、(山﨑)邦正ちゃうわー!!」でおなじみ本村健太郎さんです。

放送前番宣の頃、キャスト情報を聞いたときには、本業弁護士さん(ご本人は「役者がメイン」と力説されていますが)が弁護士役で出るんじゃ何のひねりもないし、役作りのしようもなくて本人も逆に演りづらいだろうと思っていたら運送屋さん。出るたびいつもユニホらしきカラフルな切り替えのジャンパーなので、衣装に予算を食わない役。それは別にいいんですけど、こんなにセリフもシーンも多いご出演とは予想外でした。

本村さんキャスティングを聞いたとき、即思い出したのが、メガネつながりってわけじゃないけど、『白と黒』のクリーニング屋仲本工事さん。てっきりあんな感じで、週5話の中で1回か2回玄関先に顔を出して、謎の手がかりになることや、逆に疑念を撒き散らすようなことをクチにしては「毎度ぉー」と去って行くぐらいの役回りだと思っていたのですが、結構、主役とからむし、異物混入事件の犯人呼ばわりされてキレてあわや乱闘とか、事務所に侵入してきた白い女(入山さん二役)とニアミスとか、展開ポイントにもたまさかなっています。

このドラマ、龍村家の顧問弁護士木島(鶴田忍さん)と、ロータス女主人依子(中田喜子さん)の愛人にして御田園の代理人影山(大沢樹生さん)、あ、それから木島のパシリの唐木田(石井智也さん)もと、都合3人も弁護士が出てきて、相続だ遺産分割だ、株式だ契約だとやり合う場面も多いので、本村さん、スタッフとして脚本上の法律監修もお手伝いしてくれているのかも。となると、あまりにチョイ役では失礼ですもんね。『行列のできる~』その他のバラエティでもスベりトーク(だよね)でおなじみの滑舌には当然ながら安定感があるし、まあ、キャストらしい仕事はしてくれていると言ってあげましょう。

もうひとり、もっと特筆すべきは、龍村ファームの“使用人頭(がしら)”と公式設定ではなっているけど、チーズ職人であり牧場マネージャーでもあり生産現場チーフでもありと、実質“支配人心得”な克次役・逢坂じゅんさん。「じゅんでーす」「長作でーす」「三波春夫でございます」のレツゴー三匹のじゅんさんとわかるまで個人的にちょっと間がありましたが、ここまで笑い取りに来ない役とはまったく思わなかった。毎回、克次さんの登場場面のたび、いつボケるかいつボケるかと思って見ていたけど、3週めぐらいで完全にあきらめました。こういうあきらめはポジティヴなあきらめです。

関西発の番組や舞台は観る機会が昔からほとんどないので、じゅんさんたちレツゴーをいちばん多く見たのは1980年前後に、故・山城新伍さんと、当時テレビ朝日局アナの南美希子さんによる司会で日曜午後のタルめな時間にやっていた『笑アップ歌謡大作戦』でした。

まだ、いまのバラエティ界のようなおネエキャラとかカマキャラとかは市民権を得ていない時代に、炸裂してましたねーじゅん師匠。山城さんに「(下ネタカマネタばっかりで)オマエら末期症状やと言われて末期末期と言われて10年!」と開き直る、お約束やりとりが好きでした。開き直る担当はじゅん師匠じゃなく三波…もとい正児師匠だったかな。

喜劇以外の芝居でもご活躍とはなんとなく聞き知ってはいましたが、数年前、TVの『浅見光彦』シリーズのゲストでお見かけしたときは、例の「刑事局長殿のオトウトギミさま」と手の裏かえすお約束担当の地元刑事役でコメディリリーフだったような。“弟ぎみ”が榎木孝明さんだった頃の作でしたが、今回はまだ榎木さん演じる引きこもり玄洋伯父さまとの本格的からみはありませんな。

笑い取りに来ないどころか、発声もぐっと低音で、昔カマキャラで末期とかツッコまれてたのと同じ人とは思えません(頭髪具合は当時ときれいに連続している)。こだわりの味を追及する頑固な職人肌、あくまで主家の龍村姉妹を立てて尽くす忠義者、でも財産問題には「金持ちには金持ちの苦労がある」と距離をおいて、金銭や出世にも恬淡としているところ、実は同家の過去の秘密のいきさつについても知っていて、あえてクチを閉じているらしいふしなど、この手の“富豪もの”に欠かせない年長脇役としてじゅうぶん過ぎるくらい機能しています。

出戻り娘で龍村家家事担当でもある娘・美知子役の広岡由里子さん、前述の運送屋本村さんのカン高いトーンともナイスコンビネーション。目立ちませんが、登場場面の作業服や、作業所でのプライベートシーンで着ているジャンパー、お帽子などのカラーコーディネートもなにげに洒落ている。

脇役さんたちが過不足ない良い仕事をしてくれているので、主役2人(圭以=入山さん、弓月=姜暢雄さん)にも、演技力ウンヌンではなくいま少しキャラ立ちがほしいところですが、4週めを終えて、まだ“状況に流されているだけ”感が強いですね。もっと自己主張というか、譲れないものを一本しっかり持って、戦ってもらいたいけれど、いまのところそういう脚本なのだから仕方がないか。

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溜の眠る岡

2011-05-03 15:16:12 | 昼ドラマ

『霧に棲む悪魔』放送開始前、いちばん注目していた羽岡佳さんの音楽、いままでのところ着物の半襟のように出過ぎず引き過ぎず、いいバランスで来ているように思います。あくまで着物=ドラマ本編より目立ってがちゃがちゃ邪魔せず、さりとてあるのかないのかわからないほど影が薄くなることもなく、先週=放送第3週ぐらいから、軽快なコミカル含みの、あるいはホームドラマ的にゆったりと暖色なアレンジヴァージョンも増えてきました。

 ただ欲を言えば、もう少し、いい意味での新奇さがあってもいい気がする。ときどき、このドラマと同スタッフの同枠ドラマで、ほぼ毎年、連続5作担当してきた岩本正樹さんの音楽と、色合いが混じることがあるのです。

帯ドラマ、特に昼の帯の音楽って、そんなに斬新でおサレである必要はない。基本的にはオールドファッションドで「どっかで昔にも聴いたような」感じでいいと思う。そのほうが安心して、物語の連綿たる流れに連綿と流されることができる。アクセントとしていままでと違うアレンジや、違う挿入・かぶせ方のタイミングがたまーに使われるのは、物語に起伏をつける上で好ましいのですが、昨日なかった、一昨日もなかった、先週も先々週もなかった、“いま生まれて初めて聴く”突飛な感覚が毎度毎度飛び込んでくると、もう帯ドラマではなくなってしまうのです。

それにしても、今作は、あえて同スタッフで“いままでになかった新しい昼ドラを”との前宣伝で始まったのだから、もうちょっと大胆な“羽岡カラー”を出してもいいような。監督からの「こんな人物像、こんなシチュ、場面に合う、こんな曲想を」とのオーダーも多少なりともあるのでしょうが、2月のNHKドラマスペシャル『風をあつめて』の羽岡さんの“昼帯への解釈”が、意外とマルチでなくモノなのかもしれない。結構、幅があるし、いろんなことができる、いろんな味がしていいジャンルなんですけどね、昼帯ドラマ音楽。

今月25日にサウンドトラックCDリリース予定ですが、是が非でも買わずにいられない展開を今後に期待です。

ドラマ本体のほうは、“何か起きそう、起きそう”の水面下テンションを続けながら、実際、現在時制で起こったのはチーズ異物混入事件と圭以(入山法子さん)御田園(戸次重幸さん)の挙式程度。“地の文”は過去に起きたこと、起きたことのウラ、誰がどんなハラでいるか等をちらつかせてはまた隠すのみ。

ただ、何かわかる、何かが水面から顔を出すたび、結果的には御田園の利に、思惑通りになっているのは注目すべき。白い女(入山さん二役)からフルネーム名指しで“悪魔”と書かれた圭以宛ての手紙、その白い女の正体判明によって圭以も晴香(京野ことみさん)も御田園への懸念を晴らし、異物混入事件にしても、マスコミやネットの攻撃から守ってくれた彼を、圭以が「立派な人」と結婚の意志を固める動機になっています。

圭以の父が生前御田園と取り交わしたという結婚の条件に関する覚書に代理人影山弁護士(大沢樹生さん)が異議を提示、御田園みずからが「ボクはそんなことにはこだわらないよ」「代理人同士の行き違いにすぎない」と異議を却下する顛末も、結局は圭以が「ちょっとでもアナタを疑った自分が恥ずかしい」と『走れメロス』みたいになって着地しています。

いまのところ、御田園が白い女の名指しの通り“悪魔”であるかないかは別にして、彼の望んだ方向にほぼ状況は進んでいます。

ただそれにしては、御田園の表情がいつもいまひとつ得心が行かなげで、満面の笑みでいい場面でも何か演技の笑顔っぽく、溜飲が下がってないというか、ぶっちゃけ何かにひそかに怯えてそうなのが気になるところ。御田園の利になるように、影山とそのパトロンでもあるレストランオーナー依子(中田喜子さん)が糸を引いていて、それも御田園本人と打ち合わせてやっていることとそうでないこととがある様子。当面は御田園を台風の目にして物語は回っていくでしょう。

圭以が結婚の意志を固め自分を遠ざけたと悟っていったん退場した弓月(姜暢雄さん)はヒロインの相手役としてのみならず、語り手、目撃者としてもまだほとんど機能していませんが、彼を挫折した元・バレエダンサーに設定したことの意味はこの先どこかで出てくるのかどうか。圭以の亡母・稀世がハープ奏者で、御田園が挫折したチェリスト志願者だったこと等と、何か接点はできるのか。人物の前身、前キャリア、特技などの設定って、物語に非常に重きをなす場合と、設定だけで放置され忘れ去られる場合とありますがね。

ひとつ言えると思うのは、放送前、媒体で“主役デビュー公演で負傷しダンサー生命を断たれた北川弓月”という設定を読んだとき、高所からの転落とか、緞帳に挟まれるとか、ライト等天井の吊るし物が落ちてきて的な、舞台につきもののアクシデントでの負傷かと思ったら、見せ場のジャンプで着地も決まって、次の動作へというとき「うッ!」と足首の異常に気づくという、言わば疲労骨折の描写だったのは少し意外でした。開幕直前も共演者ともクチをきかずストレッチに励むなど、弓月のキャラには“黙々と、ためてためて”という粘着気質が垣間見られる。ダンサーを目指すについて、大学進学と就職を勧める両親と口論し絶縁に至る場面もちょっとあったし、バレエダンサーって普通は幼稚園かそこらから習い始めて、身体が決まってくる思春期前後に、プロの道で通用するかどうかも決まるものなのに、弓月はかなり遅い入門で、同僚の何倍も何十倍も稽古して稽古してやっと這い上がった主役作品だったのでしょう。

弓月のこの晩熟性、粘着性は長丁場多話数の帯ドラマ“謎暴き役”として向いているかもわからない。茨の道だったはずのダンサー生活の中での友人関係、とりわけ、皆無だったはずはない女友達についていっさい触れられない、カスミでも食って生きていたかのような生活感の希薄さも、どこかで活きてくると信じましょう。

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現在進行ケイ

2011-04-23 21:04:55 | 昼ドラマ

さて、やっとじっくり書ける時間が来た。贔屓枠・東海テレビ制作昼帯の4月期新作『霧に棲む悪魔』、予定より1週遅れの11日(月)スタートで、第2週まで進みました。

近年は20054月期『危険な関係』に始まる“背徳三部作”を筆頭に、昼帯伝統の“ままならぬ恋愛”ストーリーをあくまで芯に据えながら、ドキハラサスペンスと謎解き・真相探しに知略計略犯罪ものの味をもからませた一連のシリーズで、一定の評価を得ている風岡大Pチームによる作品です。

狭い人間関係の中でのドロドロねちょねちょ、湿気っぽく高粘度な、利害情念からみ合いのイメージが強いこの枠の昼帯の中では、比較的“乾燥”した、異色な作品をいつもプレゼンしてきた同チームが、さらに敢えて「まったく新しい昼ドラ」と前宣伝してきただけあって、本作、かなり特異です。背徳三部作や、その系譜作と比べても歴然と特異。

何が特異って、22日(金)までですでに210話を消化したにもかかわらず、事件と言える事件がまだ何も起こっていないのです。

誰も死んでいないし、もちろん殺されてもいない。過去時制での病死や事故死が人物のクチから語られてはいるものの、事件性は仄めかされていません。財産狙いや復讐の計略もひとつも張りめぐらされないし、不倫、密通関係もなし。

そもそも、ヒロイン圭以(入山法子さん)が独身でやっと婚約してるのしてないのという段階で、両親もともに亡く、異父姉の晴香(京野ことみさん)などは独身プラス、男っけの片鱗すらまるで無し。完成安定したカップルというものが物語のセンターに出てこないので、不倫三角関係を軸にしたドロドロになりようがない。

「昼ドラ初の本格的ミステリー」という前宣伝が売りのドラマで、冒頭210話にわたって事件らしい事件が起きないというのは、作品として相当に特異だし、何より、大胆です。

序盤に食いついて継続視聴されてナンボの、多話数の帯ドラマの作り方としては「向こう見ず」とすら言ってもいい。

10話の間、すべては事件としてではなく、人物の心の中で起こっている。骨折しバレエダンサー生命を絶たれて自殺企図、深い森に踏み込んだ弓月(姜暢雄さん)が、全身白い服の謎の女(入山法子さん二役)と遭遇、傷の手当てをきっかけに束の間のキス抱擁。病院関係者と思われる男たちに追われて逃げ去った彼女が言い置いた言葉をたよりに、圭以の生家=龍村家が代々オーナーとなっている農場“龍の眠る丘”にたどり着いた弓月が見聞する事ども。圭以が白い女と瓜ふたつの容姿をしていたことがまず弓月を龍村家に引き留め、彼女の病没した父の希望で婚約者となったIT実業家御田園(戸次重幸さん)、亡父の双子の兄という引きこもり変人の玄洋(亡父遺影と二役榎木孝明さん)、農場と併設チーズ工場の支配人克次(逢坂じゅんさん)と出戻り娘で家事担当の美知子(広岡由里子さん)親子、出入りの運送業者鹿野(弁護士兼業?山﨑邦…ちゃうわー本村健太郎さん)らと知己を得るうち、圭以が継ぐ莫大な財産についても知る。

その一方、農場周辺に白い女の影がちらつき、彼女が圭以に宛て通りすがりの子供に託した手紙の「人の姿をした悪魔」という字句が圭以を動揺させ、亡母のメモリアルコンサートのため海外から帰国した御田園との関係にも波紋が。一方、白い女を忘れられず農場にとどまって働くようになった弓月に、ダンサー時代からファンだった晴香はひそかに恋心を抱き………

“白い女”という、弓月以外の人物は誰もまだ実在の人間として目視認識していない、この世のものですらあるかなきかの正体不明の存在を引き金として、一見平和で満ち足り何も問題なさげだった資産家一族と静かな山間の農場に、水面下でざわめきが起きていく。やがて過去の経緯や、人物たちの隠されていた欲望、情動をも明るみに出す。

しかし未だあくまで“水面下”。こんな方向に、こんな波紋が起きるのではないか、こんな人間関係や経緯が隠れていて、こんな案配に暴露されるのではないか…という気配をただよわせるだけで、この2週は終わっているのです。

客観的に見て、これは普通に騒がれるわと強いて言えば言えるのは、冒頭説明的に提示された、“新進ダンサー北川弓月、主役デビュー初日に舞台上で骨折、公演続行不可能に”“代役起用の後輩ダンサーが大成功をおさめ海外進出、弓月は表舞台から消える”という一連の出来事ぐらいでしょう。このへんはワイドショーや女性週刊誌程度なら食いつきそう。負傷前の北川弓月は、晴香やコンサート招待客の一部がファンを自称するぐらいには名を知られた存在で、デビュー公演の当日券が売り切れるほどの人気があった様子ですからね。

語られたことでこれ以外は、ぜんぶ当事者たちの“心の中”。他人が外から見て「そりゃ大変だね、問題だね」と言えるものではありません。白い女にかかわる弓月や圭以たちの思いわずらいは、ほとんど「思い過ごしだよ」のレベル。葛藤や衝突の種はかなり豊富にくすぶっていますが、ドラマのメインになるほどの確たる手ごたえはありません。

逆に言えば、これだけくっきりはっきり、作劇や脚本にドシロウトのいち視聴者でも心配になるくらい見事に“何も起きてない”状況を、10話の話に引っ張り維持した度胸、心意気はこのチーム大したものです。“昼ドラ初”“まったく新しい”を主張するだけの何ものかはある。

22日(金)放送の第10話で圭以が、御田園に婚約解消を申し出、「(具体的に他に思う人がいる等ではなく)私の心の問題なの」と言う場面がありましたが、この言葉がいままでのこの作品の世界を象徴しています。

心の問題で、現時点でいちばん深く描かれ噛み応えのある余韻をのこしているのは、僅かの時間を森の小屋で共有した白い女に惹かれ続けている弓月の思いでしょう。彼の白い女ラブには、どこかあの有名な“吊り橋理論”に似たところがある。人生に絶望し、ダンスの夢を追うために勘当状態な郷里の両親に宛てた遺書だけをバッグに入れて、いままさに縊首せんとしたところを、白い女に声をかけられて死に損なった。言い換えれば再び生き直す機会を、彼女こそが与えてくれたのです。

しかも彼女は負傷し足から流血していた。“足の怪我”にはことのほか繊細にならずにいられない弓月は、「何もしないよりはましだ」と自分の服を脱いでテーピングを。命にかかわるほどではない、女自身も気づいていない程度の傷ではありましたが“死ぬつもりだったのに人を助けてあげた”経験は、弓月に期せずして生きていることの重さ、貴重さを思い出させたに違いありません。生きているから痛みも感じるし、血も流す。人の痛みを想像することもできる。

自分に言わば、二度めの命を吹き込んでくれた女性が、何かを伝えたがっているなら聞いてかなえてやりたい。追われているなら匿ってあげたい、狙われているなら守ってあげたい。命の瀬戸際で味わった思いが、そのまま白い女への恋愛感情に変位して弓月の中に残ったのです。揺れる吊り橋を渡る最中のドキドキ、高テンションが、そばにいる異性へのそれと脳内翻訳されて、渡り切っても残ってしまうのとちょっと共通している。

相手が入山さんの扮するような神秘的なはかなげな若い女性でなくて、なんぼ真っ白な服を着ていてもそこらの小汚いおばさんだったらそうはならなかっただろう?とか野暮なツッコみは無しにしましょう。

しかも彼女の言葉に引かれて探しあてた“龍の眠る丘”で出会ったのは、同じ顔をした圭以。なおかつ白い女の影が近隣に出没、その圭以を案じる言動を残すに至って、弓月の心に“守るべきは白い女なのか圭以さんなのか?”“圭以さんを守れば白い女の意にも沿えることになるけど…”“何が心配なのか、どんな事情で何を言わんとしているのかやはりあの女にもう一度会って訊きたい”という、二重三重にもつれ合った焦がれが生まれたのです。

白い女と圭以の容姿が同じであること、しかも、無事かと案じ気にかけるベクトルが、弓月自身からと同じように白い女からも圭以に向いているらしいことで、弓月の漠然たる恋愛感情は、体温だけが高まって、輪郭や方向は彼自身もしかとはとらえがたいものになっています。

そんな弓月と、俄か住み込み牧夫と農場オーナーというかりそめの関係で身近に接するうち、「あなたが興味があり執着しているのは私ではなく白い女なのね」という苛立ち=(人も羨む資産家美人令嬢、恐らくは生まれて初めての)嫉妬を覚えはじめる圭以。

“一度死んだ人間”である弓月が、白い女がもたらしてくれた“第二の生”の中で、ヒロイン圭以の本当の意味での相手役にふさわしい心の姿勢、情熱のベクトルを持つのはいつ、どういう過程を経てか、これは大きな眼目となるでしょう。

何かが起こりそうだが現実には起こっていない。起こりそうと思う人間の心の綾、心の襞だけで2週。これだけ堂々と引っ張る、ある意味傲慢なくらい野心的なドラマ作り。見逃せませんよ帰趨が。

元・主役級バレエダンサーにしては、弓月役・姜さんの立ち姿や歩き格好がいまだ何かゴウライ…もとい格闘技系で、どうもエレガントでないとか、「見渡す限り」級の広大な農場で相当頭数の乳牛を飼育、全国からのネットお取り寄せ注文に応じるほどの物量のチーズを自家生産しているのに、牧草栽培から柵の修理まで克次さんひとりが一手に仕切っていて、職員の人数が異常に少ないとか、細けぇことは例によって寛大に脳内補完して、まずはこの特異さ、近来稀に見るアンビシャスな制作姿勢とともにじっくり玩味しましょう。

月河の年来の贔屓のこの枠、最近は「自分が嵌まってウォッチしなくても、こういうのを好む人が他にいっぱいいそうだからお任せ」と思うドラマが多くなっていましたが、久々に“作品に呼ばれる”と言うか、「自分が観なくて誰が観る!」と熱くなれるヤツが来ました。

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いまさら笑うな

2011-04-09 20:48:03 | 昼ドラマ

立ち上がり一週終わった『おひさま』、太陽の陽子(八木優希さん)の物語にしては親友ユキちゃん(荒川ちかさん)が奉公に出されてしまったり、最愛のお母さん(原田知世さん)が持病の心臓で亡くなってしまったりと涙の別れの話ばかりでしたが、現代に戻って若尾文子さんが「“太陽”もだいぶくたびれて、もう“夕方”ぐらいかしらねぇ」なんてうまいこと言ってくれると、物語のテンションは下がるんだけど、視聴感としてはホッとしますね。青春に戦争が挟まるヒロインだけれど、無事サバイバルして現代も安曇野にとどまり、現代の主婦斉藤由貴さんに「ステキです」と言われるような店を持って、当面ご家族関係なんかはまだ語られないものの、とりあえず自足して暮らしていると、冒頭からわかっている。安心安心。

今週は個人的には涙の別れより、陽子ちゃんが東京から越してきて以来目がハートマーク釘づけのタケオくん(勝隆一さん)に釘づけの一週間でした。何とかしてこっちを向いてほしい、声のひとつもかけたい気満々、5年生になってからはめでたく席も隣になってチャンスもありありなんだけど、一度も気づいてもらえない。しかも気づいてもらえないというそのこと自体、ドラマ上もまるっとスルーされているという。

今日(9日)なんか、お母さんの葬列で淋しそうだった陽子ちゃんに「元気出しなっ、これ、オラの宝物、なっ元気出しなっ」と自作の竹トンボを手に一生懸命ひとりリハーサルしながら近づいてきたのに、陽子ちゃんはすでにお父さん(寺脇康文さん)の似合わない寒いダジャレで爆笑中。せめてお兄ちゃんのどちらかでも、ご両親のどちらかでも「なんだタケオのヤツ」「陽子ちゃんに話しかけたいのか?」と見とがめてツッコみのひとつも入れてあげればまだ救われるのにね。

そうこうするうちにドラマ時制も昭和13年秋に進み、5年半の間に陽子ちゃんが井上真央さんになったのと歩調を合わせて、タケオくんも、特に眉のあたりがお父さん役・村松利史さんそっくりだった勝隆一さんから、お母さん役・角替和枝さんのほうに、当たり前にそっくりな柄本時生さんに成長。“タケオ”と役名がカタカナなのが、また大正生まれの農家のせがれっぽくてリアルなんですよね。年代が年代だけに兵隊にとられてしまいそうですが、ひと言ぐらい真情の言える場面があるといいな。柄本明さんファミリーからは『ゲゲゲの女房』のスガちゃん柄本佑さんに続く参戦。お兄さんは「夕顔畑に風が吹く」、今度は舞台が信州なので「蕎麦畑に風が吹く」ですね。

若尾さん陽子の述懐「“戦前”ねえ…私はあんまりその呼び方は好きじゃないの、私たちは“戦前”と思って生きてたわけじゃないから」にはまったく同感です。故・山本夏彦さんもエッセイでたびたび触れておられた。“戦前”と言う呼称も、“軍靴の音が高くなる一方の、非・民主的で不自由な暗愚の時代”という固定イメージも、所謂“戦後”しか知らない、“戦争”そのものも知らない時代の人間の、無知と傲慢が作った大きな誤りだと思います。

さて、陽子ちゃんパパのダジャレじゃないけど、『さくら心中』は無事(???)昨日8日をもって終了。劇中、1話につき2回のCMタイムが挟まることをうまく利用して話の焦点をちゃっちゃと切り替えながら、さくら(林丹丹さん)&陸雄(佐野和真さん)の頭でっかちマネごと心中ものの見事に玉砕の巻と、さくらを“寝取った”にっくき間男のはずの健(真山明大さん)とあっさりふじ川にて和解の一献、そこへリッキー“梓川賞”決定の電話に、豊香姉さん(小野真弓さん)は健の子を宿して芸者落籍(ひき)祝いと、子世代は一気のおめでたラッシュ、そして桜子(笛木優子さん)だけが独走のお涙モードで、花無き千年桜を残しこの世をあとにしました。

いやーよかった。いやホント。当初の桜子&比呂人(徳山秀典さん)純愛物語としても、桜子ひとりを見つめ続けた義兄・勝(松田賢二さん)の片思いストーリーとしても、まったくハッピーエンドとは真逆だったけれど、「ここまできたらこうでもなるよりほかしょうがないでしょう」というところへ、ラスト2話ほどでチカラワザ着地させました。さすがは腐っ………いやいやっ、お年を召されても脚本中島丈博さん。アノ伏線がココとココへ来て、これこれこうつながって、みたいな細けぇ整合性なんか、津波のように一切合財なぎ倒してゴールに持って来る潔さは余人の追従を許しません。この後はゆっくりお休みいただいて、忘れた頃の再会、いや忘れなくてもいいけど、とにかくまたお待ち申し上げております。

そしてさてさて、来週11日(月)からはこの枠新作『霧に棲む悪魔』が始まります。海外ミステリ(=ウィルキー・コリンズ『白衣の女』)翻案もの、風岡大Pに金谷祐子さん脚本、演出クレジットの一角には奥村正彦さんもしっかり加わっているとなれば、作風はある程度保証されているので、ヒロイン入山法子さん相手役姜暢雄さんらのキャスト組み合わせよりも、期待はこの枠初参戦、音楽の羽岡佳さんでしょう。

昼帯連続ドラマ、サスペンスもの、いずれも豊富なキャリアをお持ちですが、偶然にも2月にNHKの単発SPドラマ『風をあつめて』のクレジットで、“音と名前”が初めて一致した作曲家さんです。家族モノにして子育てモノ、しかも難病モノという、月河にとっては難行苦行以外の何ものでもない、むしろ積極的に“この世から抹殺したい”ジャンルのドラマだったにもかかわらず、不思議に呼吸や脈拍に沿うてくれるような、言わば“生物学的に心地よい”音楽のマジックに乗せられて、なんとなくチャンネルを据え置いてしまいました。

“この人の手になるオリジナル曲が、ドラマのあらゆる場面、心情と伴走で、3ヶ月、月~金聴ける”と思うと、放送前から心が躍る。そんな気持ちも久しぶりです。この枠は2009年『夏の秘密』以来、文芸原作ものとしては07年『金色の翼』以来の登板となる金谷さんの脚本も“中1年”で休養じゅうぶんと見ました。要注視。週5回の留守録設定、チェックに一分の気も抜けない季節の到来です。

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