弁理士『三色眼鏡』の業務日誌     ~大海原編~

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【知財記事(商標)】炭治郎の羽織の柄、拒絶査定

2021年10月05日 08時28分16秒 | 知財記事コメント
おはようございます!
今日も快晴!快適な気候の@湘南地方です。

今日も新規動画公開!
商標第6回「商標登録できてから気を付けるべき5つのこと」です。

さてさて、今日はこんな記事。

(ハフポスト日本版より引用)
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【鬼滅の刃】炭治郎の柄は「いわゆる市松模様」。商標出願に拒絶査定。集英社の反論は届かず

大ヒット作品『鬼滅の刃』で、主人公の竈門炭治郎(かまど・たんじろう)が着ている服の柄の商標出願に、9月24日付けで「拒絶査定」が出た。特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」で公開されている。

炭治郎の柄は「いわゆる『市松模様』の一種と理解される」として、商標登録できないことを伝える「拒絶理由通知書」を特許庁が出して、集英社が意見書で反論していた。しかし、特許庁の見解は覆らず「普通に使用されている装飾的な図柄を超えているということはできません」と判断を示した。
(以下略)
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(引用終わり)

鬼滅の刃関係で集英社が出願している“羽織柄”は全部で6件。
そのうち登録になったのは、富岡義勇胡蝶しのぶ煉獄杏寿郎の三人の柄。

一方で今回記事で取り上げられているように「拒絶査定」となったのは
竈門炭治郎禰豆子我妻善逸の三人の柄。

それぞれ見比べると、“繰り返しの地模様”かそうでないか、という点の差が大きい。
実際拒絶査定においても
「本願商標は、黒色と緑色の正方形を互い違いに並べ、連続反復的に配置した構成からなる、いわゆる「市松模様」の一種と理解される」(炭治郎)
「本願商標は、ピンク色の地の上に、黒色の線で表した多数の六角形と菱形を結びつけるように、連続反復的に配置した構成からなる、いわゆる「麻の葉模様」の一種と理解される」(禰豆子)
「本願商標は、上から下へ色が濃くなる黄色の地の上に、18個の白色の正三角形が縦と斜めに整列するように、連続反復的に配置した構成からなるものであって、自他商品の識別機能を果たすべき特徴的な部分を見出すことができない」(善逸)
とされており、「連続反復的」との認定がされ、だから商標として機能しない、という結論となっている。

これは、商標審査基準とも符合するもの。

===
商標審査基準 第3条第1項第6号 の「7.」

7.地模様からなる商標について
商標が、模様的に連続反復する図形等により構成されているため、単なる地模様として認識される場合には、本号に該当すると判断する。
ただし、地模様と認識される場合であっても、その構成において特徴的な形態が見いだされる等の事情があれば、本号の判断において考慮する。

===

つまり、「連続反復する図形」によって構成されており、その構成のなかの図形も特徴的な形態とは言えない、ということで
基準に従って拒絶、ということ。
地色のグラデーションや外枠の存在等に基づいて「連続反復」にあたらない、という主張は、認められなかった。

(当職所感)
IPビジネスという観点からは、むしろこの3キャラの模様は意地でも保護したい(したかった)だろうなぁ、と(いや義勇さんもしのぶも煉獄さんも人気あるけど)。
審査段階で展開した純粋な6号非該当主張は、さすがに厳しいと思う。使用による顕著性主張に基づく6号非該当でいく方が可能性が高いと思うが、
ただ既に第三者の非ライセンス品も市場に溢れている状況下にあって、
不服審判請求した場合に、使用による周知性を主張しうる状況が果たして残っているのだろうか…?というところも悩みどころか。。

一方で、識別標識としてのマークに化体した業務上の信用を保護する、というのが基本構成の商標法にあって、
“デザインを模倣する他社”に対する武器として半永久権となる商標権を持たせるのが果たして妥当なのか?というと、
本来的に制度が意図しているところとはちょっとズレている。
これらの出願が権利化したとき、その指定商品であるカバンや被服に付されたこれらの模様に対して権利行使が行われる、
或いは他社としてはこれが権利として成立している事実を踏まえて、それらの模様の採択を回避する、ということが起こりえる。
世のキャラクタービジネスを支えるのはこうした「本来的でない」権利行使と、そのトラブルに巻き込まれる不利益を想定した未然のリスク回避行動である。
そりゃ確かに被服にこの模様を付したら、形式上は「商標の使用」とはなる。しかしそれが出所識別標識として認識されるかというとそうではない場面の方が多い。

義勇さんやしのぶさんや杏寿郎さんの柄が登録になったのは、逆に「反復継続的」ではない=出願の標本のかたちのものと構成も含めて類似でなければ商標として類似しない、
言い換えれば、デザインのテイストが似ている(例えば炎をモチーフにした柄を用いる)だけでは商標としては類似にならない=権利範囲としては適切に画定されているから、ということもできる。
要は、炭治郎らの柄について登録を認めてしまうと、その類似範囲があまりに広くなりすぎるのだ。

この手の案件は、出願人の思惑と第三者の思惑(と代理人の苦悩)、法律上の規定と世の中の解釈、これらがないまぜになって、あれこれ語られることになる。
注目を集めるコンテンツに関するものである以上仕方ないと言えば仕方ないわけで。

商標登録を認める、ということは、それ以外の人の自由を制限する、ということでもある。
だから3条の審査基準はかなり厳格に、また個別具体的なケースも取り入れて規定されているわけで、
今回のケースはある意味「審査基準をそのまま適用した事例」であって、(少なくとも審査段階での)結論としては驚かないもの、と言える。

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