弁理士『三色眼鏡』の業務日誌     ~大海原編~

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栽培技術は「知的財産」

2016年06月07日 06時49分37秒 | 実務関係(著作権・価値評価・周辺業務)
おはようございます!
今日はちょっと早めの書き込み。
どんより曇り空な湘南地方です。

さて、今日は こんなニュース

(Sankei Bizより引用)
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熟練農家の栽培技術、知財で保護 農水省と慶大が指針策定


農林水産省と慶応大が、熟練農家の栽培技術を知的財産と位置付け、
権利保護の指針を策定したことが6日、分かった。
情報通信技術(ICT)の活用で施肥など生育管理のノウハウをデータ化し、
産地の生産性向上を支援するビジネスが広がり始めていることに対応した。
生産者の技術を適切に保護して収入増を図る。

農水省の補助事業として慶応大の神成淳司准教授が中心となって検討会を開き、取りまとめた。
近く公表し、農家とデータを利用する事業者との契約の際に活用を促す。

高品質な農産物を生み出したり、収穫量を上げたりする熟練農家のノウハウは、
以前はまねをするのが難しかったが、最近はICTの発展で温度や水の管理、施肥、
防除の回数や時期などをデータ化することが可能になった。
これらを他の農家や新規就農者に提供することで、作業の円滑化や作物の品質向上を支援するサービスが始まっている。

指針では、こうした技術を「新しい知的財産」と定義。熟練農家が正当な対価を得られるようにすること
が重要とする一方、過度な保護により事業の普及が妨げられないよう配慮が必要として、両者の契約での留意点を明記した。

具体的には、熟練農家が権利を知的財産として保護する場合、栽培ノウハウを「営業秘密」と位置付け、
文書によって特定する必要があるなどと指摘。ライバルの産地や外国への情報流出を制限したい場合は、
データの提供範囲を明確にしておくよう促した。

熟練農家が受け取る対価に関しては、データ利用者の売り上げの一定割合とする方式や、
一定期間ごとに定額とする方式を想定。事業の形態を見極めて規約を設定する必要があるとした。
サービスの利用者が栽培技術に改良を加えた場合、知的財産権の帰属をどうするかは当事者間で別途、協議するなどと解説した。

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(引用終わり)

この准教授、農水のHPでこんな記事でも載っている。
一言で言えば「熟練農家の判断能力の継承」なのだそうだ。
栽培方法のマニュアル化、とは一線を画する。
“長年の経験が必要とされていた「何となく」を、短期間で習得できるようにする”、
なるほど、それが実現できるのであれば技術承継もスムーズに進むし、後継者の負担もその点では軽くなる、かもしれない。

どうしても記事のタイトルがミスリーディング(たぶん意図的に)なんだけど、
実際は、熟練農家が自分のノウハウでロイヤリティ取ってウッハウハ、ということではない。
そうではなく、暗黙知を形式知化する、というアプローチの一環と理解すべきところ。
※「知的財産」と「知的財産権」とを勘違いさせたいのかな?とも勘ぐってしまう。
 熟練農家にとって“他より上手に作れる腕”というのは無形資産であり、競争優位を生み出す差別化要因。
 つまりもとより「知的財産」。
 ただ、その保護方法について新たな枠組みを作るのかな?と記事は期待をさせるけれど、
 書かれていることは「営業秘密」と位置づけ文書によって特定する、とあるにとどまり、
 既存の不正競争防止法の枠組みの範疇にとどまるものであって、
 特殊な制度を導入する訳ではないように、この記事では読める。
 ★この辺りは、追報をケアしておくことにします。

ホリエ○ンが「寿司職人が何年も修行するのはバカ」的な発言を昔していたけれど、
自らの歩んできた道がゆるくないことを誇示しようと、無益な苦労をルーキーに強いるというのは
今の時代にはなかなかそぐわない、のかもしれない。
というより、先代が20年かけて身につけてきたものを同じように20年かけるのでは、
業界として進歩がないことになりそう。
ITだろうがAIだろうがショートカットできるところ、省力化できるところはした方が
余剰のリソースを新たなフロンティアに振り向けることができ、進歩する。

ただ素人ながらに怖いかな、と思うのは、
肌感覚で感じなければいけないところまでIT頼りになってしまうと、
生き物としてのヒト本来の感覚が磨かれないのではないか?という点。
「何となく」というその感覚を、非言語的な方法で継承(というかたぶん鍛錬)してきたのであれば、
その部分が軽視されてしまうような取り組みにはならないことを願いたい。
どんな便利なツールが導入されても、
継承はヒトとヒトとの間で行われるものだし、いのちをはぐくむ営みに関するものなのだから。







コメント
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