から揚げが好きだ。

映画とサウナ。

ベター・コール・ソウル シーズン1 【感想!】

2015-10-08 08:00:00 | 海外ドラマ


Netflixに加入してから1ヵ月が経過した。
無料視聴期間が終わったが、引き続き、有料にて視聴を継続中。

理由は1つ、「Netflix」のオリジナルコンテンツが面白いからだ。
オリジナルの海外ドラマとドキュメンタリー番組をいろいろと観たので感想を残しておく。

まずは、待ちに待った海外ドラマ「ベター・コール・ソウル」。

感想は一言でいえば「期待通りの面白さ」。
もう一言、付け足すならば「秀逸な人間ドラマ」。

神ドラマ「ブレイキング・バッド」のスピンオフドラマかつ、同じヴィンス・ギリガンの手によるものであるため、その期待値は平均レベルをはるかに超えるのだが、その期待を裏切ることのない面白さと完成度である。ヴィンス ・ギリガン製作ドラマは、他の海外ドラマとは一線を画すなぁ~と再認識する。

「ブレイキング・バッド」の悪徳弁護士で、主人公ウォルターの強い見方であった「ソウル・グッドマン」が、まだ、別の本名「ジミー」として真っ当な弁護士として働いていた頃の物語だ。「ブレイキング・バッド」の前日譚なので、「なぜソウルが悪徳弁護士になったのか」という経緯が描かれるものだと思っていたのだが、その観点でのストーリー描写はほとんどない。シーズン1の本作で描かれるのは、1人の新米弁護士が、正義と困窮する自らの生活のために奔走する姿だ。なので、「ブレイキング・バッド」を知ってても、知らなくても、大差なく観られるような気がする。

また、本家「ブレイキング・バッド」 について、展開のダイナミズムとスリルのみでファンになっていた視聴者にとっては、肩透かしを食らう人も多いと思われる。逆に「ブレイキング・バッド」は好きじゃないが、本作は好き、という層も結構いるようで、それもわかるような気する。自分はどちらも好きだ。生きるか死ぬかのシリアスな展開で突き進んでいた「ブレイキング・バッド」に対して、どうにかして稼がなきゃと、貧乏暇なしの一介の弁護士を描く「ベター・コール・ソウル」。その温度差はまるで違うが、どちらも面白い。

普通のドラマは、ストーリーのために登場人物が機能するのが常であるが、「ブレイキング・バッド」や「ベター・コール・ソウル」は少し異なる。キャラクターを描く中で、ストーリーが後から追っかけ てくる感じだ。登場人物をどう活かすかが、ヴィンス・ギリガン製作ドラマの真骨頂であり、最大の魅力である。その点において「ブレイキング・バッド」や「ベター・コール・ソウル」は同じだと断言できる。もちろん、人間が持つ滑稽さに着眼したユーモアも満載だ。

「ブレイキング・バッド」で成熟された演出力、観る者の予想を凌駕する脚本力は、そのまま継承されており、文句のつけようのない完成度だ。TVドラマのレベルではありえないようなカメラワークや編集にも唸る。それもこれも主人公ジミーを個性、生き様をより際立たせて描写するためのものだ。ジミーの奮闘ぶりに時に笑い、時に涙する。自身のコンプレックスを恨み、プライドとエゴの狭間で苦悩し、知られざる親友との絆に救われ、正義のために戦う。弁護士という仕事を選んだ背景や仕事へのモチベーションが、「ブレイキング・バッド」で知る「ソウル」とはまるで違う。そんな彼が、「ジミー」から「ソウル」へと変わる展開はおそらく来年のシーズン2で明らかになると思われる。

そして、もう1人、「マイク」の存在も忘れてはならない。「ブレイキング・バッド」ではソウルから裏仕事を受ける「何でも屋」であったが、ソウルとマイクが手を組む前の話が本作で描かれている。ソウルと同様に、マイクのキャラクターも深堀されており、「なぜ彼がアルバカーキにいるのか」という経緯を辿った、第6話の内容が感動的で素晴らしく、「ブレイキング・バッド」ファンは必見である。

回数を重ねて見せることが目的ではなく、1話1話を1つのドラマとして完成させる。全話一挙視聴というNetflixの放送スタイルも手伝い、次回への興味喚起で引きずる必要はなくなった。その分を本作は観終わったあとの余韻に代替させる。この作りは、「ブレイキング・バッド」にも共通するところであるが、「ベター・コール・ソウル」はその色がより濃くなっている。

結果、本作を「つまらない」という「ブレイキング・バッド」ファンが出てくるのはやむなしではあるが、この面白さを享受できないのは非常に残念なことだ。

スピンオフドラマであるため、本作がシーズン2で終わってしまうのが非常にもったいないのだが、展開が大きく動き出すであろうシーズン2を楽しみに待つことにする。

【90点】

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アナーキー 【感想】

2015-10-08 00:40:39 | 映画


新作DVDレンタルにて。
今年のワーストワン映画は本作でほぼ確定。ヒド過ぎる。。。。
原題のタイトルとおり、「シンベリン」というシェイクスピアの戯曲を、現代に置き換えて映画化したもの。同じコンセプトの映画では、若きディカプリオが主演した「ロミオとジュリエット」を思い返すが、本作は目も当てられないほどの失敗作。 愛憎、裏切り、策略、誤解・・・等々、いかにもシェイクスピア劇といったテーマが次々と浮かび上がるが、登場人物によって語られる言葉は戯曲のままだ。「ロミオとジュリエット」は卓越したビジュアルセンスと振り切った演出により、現代劇をもって戯曲を表現することに成功したが、本作は何の工夫もなく、それを現代の日常に無理やりあてはめる。 違和感を通り越して、パロディ(ギャグ)を通り越して、結果、気持ちが悪い。「マジな顔して何をやってるの?」と、もれなく登場人物がお馬鹿キャラに見えてしまう。ある意味、奇跡的だ。腹が立ったのは、自分の好きな俳優たちがその巻き添えを食らったことだ。あんなに単細胞なエド・ハリス、あんなに気色悪いイーサン・ホークは観たことがなく、ファンとしては悪夢だったと忘れ去りたい。
映画はキャスティングで決まると信じていたが、最低限の脚本と演出力があってのことだと痛感した。
【0点】
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ウエイト 呪われし存在の重さ 【感想】

2015-10-08 00:39:01 | 映画


新作DVDレンタルにて。
体に障害を持ち遺体安置所で働く男と、その義理の弟で女になることを切望する男の話。孤独に生活する主人公が心を通わすのは、職場に運び込まれる遺体たちだ。その多くは事故や傷害事件などで体に傷を負っている。その血を綺麗に洗い流し、傷口をふさぎ、遺体に化粧を施すのが彼の日課だ。死者に対する敬意というよりは、主人公のフェティシズムが濃く視える。但し、それは性的志向とは異なり、男の手によって生み出されるアート作品のようだ。人間の淫らな性質と純潔な性質、または、グロテスクと美意識が共存するような独特な世界観に支配された映画。その筆致はキム・ギドクに通じるものがあるが、映画のテーマを特定しにくいのが特徴的で、解釈は無限に存在しそうだ。ラスト、主人公が義理の弟に捧げた愛の形に言いようのない感覚が襲う。観る人を完全に選ぶタイプの映画だったが、自分は面白かった。監督のチョン・ギュファンの他タイトルも観てみたいと思った。
【65点】
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パレードへようこそ 【感想】

2015-10-08 00:37:56 | 映画


新作DVDレンタルにて。
イギリスのサッチャー政権下にあった炭鉱ストライキ中に、その労働者を支援しようと立ちあがったLGSMの若者たちと、炭鉱田舎町の住人たちとの交流を描く。
嘘みたいな実話だ。オープンで前進的な同性愛者たちと、保守的でマッチョな労働者階級の人たちは、一見交わることのない水と油だ。その2つが手を取り合い友情を育み、さらには社会を動かす大きなムーブメントを起こしていた。。。新たな歴史の始まりはいつでも抵抗する人間たちの団結によって生み出されてきたことを実感するが、本作で描かれる史実の前段には異なる価値観をもった人間同士の繋がりがある。「共通の敵を持つ者は見方同士」というLGSMの動機は理解しやすく、彼らが起こした活動はとても勇気あるものであるが、それ以上に印象的だったのは、彼らの善意を偏見なく素直に受容しようとする炭鉱の人たちだ。しかも、その理解の先頭にいたのが年の離れたおじちゃんおばちゃんたちだ。「君たちは友情をくれた」の思わぬ名演説が素敵。同性愛者たちと労働者たちの間にあった壁が取り払われる過程が時に可笑しく、時に感動的である。おばちゃんたちのゲイワールド探訪シーンは少々やり過ぎだが、異なる人種間の理解と絆の形成は、観る者に活力を与えてくれる。欲をいえば、同性愛者の偏見派に、もう少しスマートなキャラクターを配したほうが感動もひとしおだったかもしれない。イメルダ・スタウントンとビル・ナイ演じる中年男女が、もくもくとサンドイッチを作りながら、知られざる真実を吐露するシーンが温かくて好きだ。
【70点】
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ラン・オールナイト 【感想】

2015-10-08 00:36:10 | 映画


新作DVDレンタルにて。
息子の命を守るために、マフィアのボスの息子を殺したことから、命を狙われることになる男の逃走劇。監 督ジャウマ・コレット=セラとリーアム・ニーソンの3度目のタッグだが、もはや安定の面白さ。冒頭からリーアム・ニーソンのダメオヤジっぷりに拍子抜けするが、それは展開への布石。失った親子の絆を取り戻そうとする、あるいは贖罪により息子家族を守ろうとする男の生き様に、ハードボイルドなアクションが懸け合わされる。かつての仲間が愛憎と「けじめ」により、命を奪い合うことになる宿命が切なくもあり、一味違うドラマになっている。兄弟分を演じたリーアム・ニーソンとエド・ハリスの存在感から醸される説得力が代え難い。リーアム・ニーソンの無敵っぷりは相変わらず嘘っぱちだが、中盤以降の逆襲劇の痛快さには勝てないというもの。やっぱりリーアム・ニーソンのアクションは強くなければ成立しないと再認識(よい意味で)。それにしても、リーアム・ニーソンはもう演技派路線に戻ることはないのだろうか。
【65点】
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ギリシャに消えた嘘 【感想】

2015-10-08 00:35:09 | 映画


新作DVDレンタルにて。
ギリシャでツアーガイドをしているアメリカ人青年と、観光で訪れ、その青年と出会い、殺人事件をきっかけに追われる身となったアメリカ人夫婦の逃飛行を描く。「太陽がいっぱい」や「リプリー」を想い出すクラシカルなサスペンスだったが、後で調べたら3作ともに同じ原作者ということで驚く。ストーリーラインはシンプルであり、3人の位置関係、感情の移ろいが鮮明に描かれており、ギリシャの陽光が燦々と降り注ぐ序盤から、運命に狂い出し、次第に暗転していく様がスリリングで面白い。疑念、嫉妬、エゴが交錯し、彼らの逃飛行の末に訪れる、入り組んだ遺跡群のなかに文字通りの「迷宮入り」。「消えた嘘」という邦題が言い得て妙だ。物語の終点に待ち受ける父性の情景にグッときた。何者にも化けてしまうオスカー・アイザックの力量と、白スーツと細いタバコ姿が似合うヴィゴ・モーテンセンのカッコよさにしびれる。
【65点】
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群盗 【感想】

2015-10-08 00:30:43 | 映画


新作DVDレンタルにて。
朝鮮王朝末期、圧政で民衆を苦しめる貴族に立ち向かう義賊たちの活躍を描く。随所に西部劇映画への明確なオマージュを提示する。正義の味方が悪を懲らしめるプロットは、西部劇と同じだが、アジアの時代劇との親和性は低い気がして、下手な真似ごとに見えてしまった。ワイヤーアクションを多用した豪快なアクションを楽しめるが、その描写にツッコミどころも多く、盛り上がりにいささか水を差す。物語の中心にあるのは、主人公である、復讐に燃える屠者から義賊になった男と、冷徹で非情、敵なしの剣豪である武官との対決だ。倒されるべき本作の悪役は後者の武官であるが、とても魅力的なキャラクターとして描かれており、主人公を完 全に食っている。武官の生い立ちに物語を遡るなど、主人公の背景描写よりも深く描きこまれており、監督の狙い通りのようだ。武官を演じる、カン・ドンウォンの淡麗なルックスと美しい所作、運命の悲哀を十分に感じさせる熱演が脳裏に残る。対照的にハ・ジョンウ演じる主人公にはもう少し違う魅力を持たせても良かったかも。
【60点】
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第88回アカデミー賞、ノミネーション予想。其の1

2015-10-06 08:00:00 | 日記


今年も残り3か月を切った。今月から、いよいよ北米ではオスカー狙いの注目作が怒涛のように公開される。なので、まだ完全に手さぐりの状態ではあるものの、勝手にノミネーション予想して盛り上がってみる。
★は当確予想。

【作品賞】
★「Carol」
★「レヴェナント:蘇えりし者」
 「Spotlight」
 「インサイド・ヘッド」
 「Sicario」
 「The Hateful Eight」
 「The Danish Girl」
 「Steve Jobs」
 「マッドマックス 怒りのデス・ロード」
 
「Carol」は女性版「ブロークバックマウンテン」みたいな感じで、前哨戦でも話題に上がっており、おそらく主要部門に絡むことが一番確実と思われる。昨年「バードマン」で賞レースを席捲したばかりのイニャリトゥの新作「レヴェナント:蘇えりし者」もトレーラーを見る限り、死角はなさそうだ。レビュースコアとしては突き抜けた「マッドマックス~」だが、入ってくれると嬉しいな。

【監督賞】
★トッド・ヘインズ(Carol)
★アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ(レヴェナント:蘇えりし者)
 トム・フーパー(The Danish Girl)
 クエンティン・タランティーノ(The Hateful Eight)
 トーマス・マッカーシー(Spotlight)

作品賞と表裏である監督賞なので、トッド・ヘインズとイニャリトゥは当確予想。その他は基本的に、過去のノミネート経験者が並ぶと思われるが、前哨戦で話題をさらった社会派ドラマ「Spotlight」のトーマス・マッカーシーが食い込むと予想。


【主演男優賞】
★レオナルド・ディカプリオ(レヴェナント:蘇えりし者)
★マイケル・ファスベンダー(Steve Jobs)
★マイケル・ケイン(Youth)
 エディ・レッドメイン(The Danish Girl)
 ドン・チードル(Miles Ahead)

毎年、ノミネート予想がラクな部門。圧倒的な存在感を放ち、鉄板なキャストが並ぶ。現状、ノミネートだけでなく、受賞自体も最も近いと思われるディカプリオ。顔面ではなく、その演技力でカリスマ「スティーブ・ジョブス」に挑むマイケル・ファスベンダー、お爺ちゃん枠として確実と思われるマイケル・ケイン。性同一性障害男子を演じたエディ・レッドメインも濃厚と思われるが、様子見。映画の監督も兼ねているドン・チードルも入りそうな予感。

【主演女優賞】
★ケイト・ブランシェット(Carol)
★ブリー・ラーソン(Room)
★エミリー・ブラント(Sicario)
 シアーシャ・ローナン(Brooklyn)
 リリー・トムリン(Grandma)

実力派は作品に恵まれれば 、もれなくノミネートされる。その意味でケイト・ブランシェットは確実。そんな中、実力派と言われながら、これまでノミネート歴のなかったブリー・ラーソンとエミリー・ブラントは、圧倒的なパフォーマンスで文句なしの候補入りになると思われる。

【助演男優賞】
★ベニチオ・デル・トロ(Sicario)
★ハーヴェイ・カイテル(Youth)
 トム・ハーディ(レヴェナント:蘇えりし者)
 セス・ローゲン(Steve Jobs)
 サミュエル・L・ジャクソン(The Hateful Eight)

この部門も過去の受賞者、候補経験者で埋まりそうな予感。ベニチオ・デル・トロのスペシャルな存在感とハーヴェイ・カイテルの枯れた味わいで当確予想。そんな中、コメディ映画で馴染みのセス・ローゲンが「ジョブス」を語るうえで欠かせない、ウォズニアック役を好演している模様で、たぶん入るんじゃないかなと予想。


【助演女優賞】
★ルーニー・マーラ(Carol)
★ケイト・ウィンスレット(Steve Jobs)
 ジェニファー・ジェイソン・リー(The Hateful Eight)
 ジュリー・ウォルターズ(Brooklyn)
 シャーリズ・セロン(マッドマックス 怒りのデス・ロード)

ノミネートではなく、受賞予想が最も堅いと思われる部門。それはルーニー・マーラ。すでに、他映画祭でも受賞歴があり、現時点で最もオスカーに近いと思われる。また、ケイト・ウィンスレットも久々のノミネートになる予想。巧い人はどの役でも巧い。「マッドマックス~」のシャーリズ・セロン、何とか入ってほしいなー。

また1か月後に2回目の予想を予定。
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アメリカン・ドリーマー 理想の代償 【感想】

2015-10-05 08:00:00 | 映画


昨年の北米公開作のうち、今年日本公開で注目リストに挙げていた最後のタイトル、「アメリカン・ドリーマー 理想の代償」を観た。原題は「A MOST VIOLENT YEAR」で邦題とあまりにも違うため、危うくスルーするところだったが、運良く、映画の日&公開初日に観ることができた。

前評判に違わぬ、重厚なドラマ。どこまでもシリアスな社会派映画であり、現代へと脈打つビジネス社会の縮図を見る。稀代のストーリーテラーだと確信している監督、J・C・チャンダーはもっと評価されて然るべきだ。

物語は1981年のニューヨークが舞台。その事業を一代で築き、オイルビジネスで成功を収めた若き実業家夫妻が主人公だ。彼らがさらなる事業拡大のために私財を投げ打って挑んだビッグプロジェクトの達成を目前に、奈落の底に突き落とされる危機を迎えるという話。

「最も暴力的な年」というタイトルのとおり、1981年はニューヨーク市における犯罪発生件数が最も多かった年だったという。会社の社長である主人公「アベル」の夢を阻むのは、その犯罪行為であり、暴力によってアベルが扱うオイルタンク車を際限なく強奪するというものだ。但し、この問題は深刻な事態ではあるが、本作で描かれるリスクの発端に過ぎず、彼らに致命傷を負わせる元凶はその先にある。

誰に迷惑をかけるでもなく、真っ当な社会人として生活する人たちに、ある日突然、謂われのない暴力が降りかかってきたらどうなるのか。。。当時のニューヨークにおいては、市民たちの安全を守るべき警察組織が十分な役割を果たせていなかった。その結果、その脅威への防衛策は、警察ではない第三者に助けを求めるか、自らの手で自衛をするかの2択となる。前者はギャングの手を借りることであり 、後者は武装し、暴力をもって暴力を跳ね返すことである。しかし、本作の主人公アベルは、そのどちらも選ばない。いずれの手段も法に触れるリスクを伴うものであり、公正なビジネスを目指すアベルの信条に反するからだ。

アメリカのビジネス社会の裏側には古くからギャングの存在が密着していた。それは暴力の歴史でもあり、手っ取り早い問題解決の方法として暴力が有効とされていたからだろう。スコセッシの映画でよく見るギャングの光景だ。しかし、本作ではそうしたギャングの姿が一切出てこない。いないのではなく、ギャングが必要とされないのだ。アベルの共同事業者である妻のアナは、ブルックリンのギャングの娘であり、アベルがギャングたちの手を借りることは容易であったはずだ。「これは戦争だから私に任せて」と言い放つアナの助言に対して、断固としてアベルは拒否する。犯罪のターゲットが、強奪に遭遇する従業員たちに留まらず、アベルとアナの家族にまで及ぶ事態に発展してもなお、その姿勢を貫く。アベルの姿は狂信的にも見える。

その動機は、アベルがそもそも高潔な人間であるから、という彼の個性だけで説明づけられるものではない。企業の事業活動は信用で成り立っており、今でいうコンプライアンス違反が、その信用を失墜させ、事業継続の最大のリスクになることをアベル自身が誰よりも知っていたからだ。それは実際に現代まで続くビジネスのセオリーであり、その正解を疑う余地はない。そんなアベルのクリーンなビジネススタイルは、対顧客に対する営業活動にも及んでおり、顧客の無知につけ込む営業ではなく、自社製品への自信と顧客への誠実さを売り込むという手法に活かされている。彼の類稀なる商才が発揮されるシーンも多く、オイルビジネス業界で新参者である彼らが勝者として上り詰めた過去を裏付ける。

しかし、本作が描くものはビジネスの教科書などではない。

「強奪する者は、自分の力で人生を切り開くことのできない臆病者の弱者だ」
強奪に遭い重傷を負った従業員に対して、仕事への復帰を鼓舞するアベルだったが、人間はそんなに強い生き物ではない。暴力を前にすれば萎縮し恐怖することは必至だ。恐怖は人間を制御不能にする。その結果、アベルの理想は届かず、コントロールが効かないところで、大きなほころびが発生してしまう。そのほころびに、狙い撃ちされた検事局からの脱税捜査、銀行からの融資差し止めなどの問題が加わり、アベルが築いた帝国は崩壊の危機を迎えることになる。

アベルとアナを演じたのは、オスカー・アイザックとジェシカ・チャステインだ。実力派2人の濃密な共演が強い磁力を発する。チャンダーの手による研ぎ澄まされた脚本との相性も抜群で、魅力的なキャラとして完成されている。派手な展開は少ないものの、彼らのおかげで展開に十分なスリルを感じることができる。また、アベルの腹心である弁護士役としてアルバート・ブルックスも出ており、脇役として手堅い存在感を示す。思えば、オスカー・アイザックとアルバート・ブルックスは「ドライヴ」でも共演しており、あの時とは180度違う役柄を見事に演じきっており、役者という職業の面白さを感じる。

アベルが貫こうとする理想に、非情な現実がまとわりつき、善と悪の選択を迫られる。何を捨て、何を守るべきか。襲撃の黒幕は誰か?という疑念に、一向に手がかりがつかめない焦り。移民としてアメリカの地に赴き、自らの手で築いた地位と夢は幻想だったのか。。。アベルの焦燥に呼応するように、80年代のニューヨークの乾いた光景が物語に一層の深みを与える。キャラクターの心象風景を表すかのような、照明による陰影の作り方も素晴らしい。

当時の情勢を知らないと租借しにくい展開や、伏線の回収が不十分に思えたりなど、「マージン・コール」「オール・イズ・ロスト」の過去2作と比べると少し、脚本の完成度は劣るようにも見えるが、ここ までの物語をオリジナルで生み出してしまうチャンダーの創造性はやはり傑出している。アベルとアナの個性の相違や、中盤の事故シーンで放った銃弾、ラストの「黒い血」など、劇中に散りばめられたメタファーの使い方・演出も効果的であり、これぞチャンダー映画の真骨頂という出来栄えだ。チャンダーは近い将来、きっとオスカー像を手にしてくれるはずだ。

【75点】
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岸辺の旅 【感想】

2015-10-03 19:42:19 | 映画


観終わってから黒沢清の映画だったことを初めて知る。なるほど~と納得した。
苦手な監督ではないのだが、本作は自分に合わなかった。

失踪した夫が3年ぶりに妻の元に現れ、夫がかつて世話になった人たちを訪ね歩くという話。

夫は妻に「俺、死んでるから」と告白し、妻もそれを承知のうえで一緒に旅をする。「幽霊と一緒に旅に出る」という見方をしては置いてきぼりを食らうと思った。死んだ夫は、普通に歩いて、普通に食事をして、普通に他の人とも接触ができ、コミュニケーションまでとれてしまう。「幽霊だから(なのに)~」という論理は鑑賞の足かせになるので、自分は早々にそのフィルターを取っ払った。ホラーを見せることに本質はないのだろうと思ったからだ。しかし、旅の道中の一節である、夫と同じ故人と出会うエピソードでは、「幽霊」としてのプロットはしっかり守られており、どっちに見方を寄せればよいのか戸惑う。。。

で、結局、考えることはやめ、スクリーンの映像をそのまま眺めることにした。「感じるままに観る」という観る側の感性に委ねられている部分が多いのだ。淡々として鈍行な展開に、じっくりとマを置いた描写が多用され、その余白から感じ取れるものを吸収する。しかし、自分にはそれができず退屈な時間だった。

本作で描かれるのは、故人の過去を辿ることでその人生を知り、愛する人の死を受け止める過程である。夫と妻が生死の境界を越え、互いの想いを対峙させ愛を確かめ合う。本作は純度の高いラブストーリーであるのだが、道中に用意されるエピソードが、彼ら以外の死生観までに範囲を広げるため、散漫な印象を受けてしまうし、そのエピソードごとの意味づけも結構難解だったりする。その反面、何気ない光景の中に、もっともらしいエモーショナルな音楽をつけることで特別なシーンへと観る側をナビゲートするなど、あざとくも思える作為が見えたり、何とも掴みドコロのない世界観だ。おそらく、それらをひっくるめて、黒沢清の感性に盛られた映画なのであり、鑑賞者はそれに同調できる感性を持っているか、あるいは寛容さと豊かな想像力を持っているかだ。

深津絵里の美しい名演と、蒼井優と火花散らす競演がハイライト。
日本よりも欧州の観客に受けそうなアート系映画といえるかもしれない。

【55点】
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アントマン 【感想】

2015-10-01 08:00:00 | 映画


洋画のゴールドラッシュが止まらない。2015年は映画ファンには堪らない豊作の年として語り継がれそうだ。

新たなマーベルヒーロー映画「アントマン」を観た。まさかのアクション映画。まさかのアドベンチャー映画。まさかのディズニー映画。。。。まさかづくしで、こちらの期待値を鮮やかに超えてくれた。

刑務所から出所した男が、ひょんなことから「アントマン」となって悪党たちの陰謀を阻止しようとする話。
マーベルユニバースとして括られるこれまでのアメコミヒーロー映画とは明らかに一線を画す。

まず主人公の造形だ。泥棒を繰り返し収容された刑務所から出所。妻とは離婚し、最愛の一人娘は新しいパパのもとで生活している。仕事にありつけず、娘の養育費も払えない。自分の人生に手一杯で完全に行き詰まっている。工学の知識に長けた凄腕の鍵開け職人である他は、特殊能力や超人パワーを持たない一般人だ。仮にマーベル映画で敵の襲来シーンがあるとすれば、逃げまどう人々のその他大勢に当てはまるだろう。主人公のアントマンにポール・ラッドを起用したことも手伝い、地味だが人間味のあるキャラクターになっている。

主人公がアントマンとして活躍するに至る経緯も、「世界を守る!」といった大義ではなく、泥棒を働いた結果の「やむなし」のことだ。シリアス路線を突っ走ってきたマーベル映画にあって、箸休め的に、ニュータイプのイケてないヒーローを描くのが狙いか?と勘ぐるが、それは半分正解で、半分不正解だった。正解は「ニュータイプでイケてるヒーロー」であり、アントマンは他のヒーローにはない魅力を放つ。

アントマンの能力と、それを最大限に生かした展開、アクション描写が素晴らしい。身長を自由なサイズに縮小できることで発揮される潜入能力と、共闘の仲間となるアリさんたちとの見事なコンビネーションにワクワクする。ミクロな世界で展開するアントマンのミッションは夢に見た大冒険の世界であり、不可能な局面を突破するスリルはまさにミッション・インポッシブルだ。肉体の縮小に反比例して、パワーは増幅されるという仕掛けであり、可笑しくも強い。身長を縮小するだけでなく、瞬時にサイズを変えられるものだから、神出鬼没な攻撃も可能だ。アベンジャーズメンバ ーとのまさかの対決シーンでその実力と可能性が遺憾なく発揮される。アイアンマン、ハルク、ソーなどの超人グループにはさすがに負けるだろうが、ホークアイやブラック・ウィドウ相手だったら、絶対アントマンのほうが強いよなーとか真剣に考えたりする。ただし、アントマンと絡むアクションシーンには、もれなくユーモアがくっついてくるのが前提だ。しかし、これが全然嫌じゃない。迫力と笑いの連打が見事に決まるからだ。

こうしたアントマンならではの能力もさることながら、グッと胸を掴まされるのがアントマンのモチベーションである。

「パパは子どもにとってヒーローでなければならない」。
そんな普遍的なメッセージが本作から見えてくる。アントマンこと、スコットのモチベーションの先には常に幼い一人娘の姿がある。自身の免罪から始まったスコットの思いはいつしか、大切な娘のために、何かを成し遂げることに変わっていく。肉体を縮小することのリスクを自覚し、ミッションのために捨て石になることも覚悟しているのがポイントだ。そこには、マイケル・ダグラス演じる初代アントマンとスコットの間にある、同じ一人娘を持つ者同士の、父性の共鳴が隠れている。自分のため、家族のために、ヒーローになろうというアントマンの姿は、「世界を守るため」と言いながら町中を粉砕する他のマーベルヒーローたちよりもずっと説得力がある。スコットが決死のミッションに挑む前夜、娘の寝顔を優しい眼差しで見つめるシーンに泣けてくる。

アクション×ユーモア×家族愛。この掛け算によって、本作がマーベル映画の新たな快作になっているわけだが、その土台にあるのが、ディズニー映画とのシナジーだ。ディズニーに吸収されて久しいマーベルスタジオだが、これほどまでディズニー映画の強みが活かされたマーベル映画はないのではないか。

まず、一人娘のチャームが効果的で、主人公の父性をより際立たせる 。成長期により2本の前歯が欠けたままのルックスで、なぜか、可愛いぬいぐるみよりも、不細工なぬいぐるみを好む趣味である。ダメなパパをいつでも慕う純粋さがあり、めちゃくちゃ可愛いのだ。そしてもうひとつ、アントマンに協力するアリさんたちの表現がよく出来ている。大量にモゾーと群れたり、知らぬうちに這い上がってくるような、気持ち悪く思われがちな負のイメージよりも、アリの勤勉さ、健気さにフォーカスする。主人公と同様に、知らぬ間にアリさんたちに感情移入してしまう。なので「アントニーー!!」で観ていてこっちも胸が張り裂けそうになる。
他にも、マイケル・ペーニャ演じるコメディパートを担うキャラクターなどは、ディズニーやピクサーアニメに必ず出てくる愛すべきサブキャラを髣髴とさせるなど、誰もが嫌味なく心地よく見られるディズニー映画、それを地でいくような作りにも見えた。

本作のキャスティングについては、ポール・ラッドとマイケル・ダグラスの他には全く事前情報を入れていなかったので、脇役に好きな俳優が多く出ていることに驚きテンションが上がった。本作のヒロイン役にあたるエヴァンジェリン・リリーや、悪役のコリー・ストール、主人公のパートナーとして活躍するマイケル・ペーニャ。みな、役柄にハマっているのは勿論のこと、楽しみながら、大いに振り切って演じているようだ。観ているこっちも楽しくなる。

監督がエドガー・ライトから、ペイトン・リードに交代された本作だが、交代して正解だったのかもしれない。名前の知らない監督だったが調べてみたら「チアーズ」や「イエスマン」などのコメディ映画を手がけていた監督で、笑いのツボをきちんと捉えていることに納得した。作り手のセンスよりも、自由な発想と、最大公約数の観客を魅了するサービス精神は、ハリウッドで馴らした映像監督でなければ実現することは難しかっただろう。とはいえ、脚本の影響か、映像の切り方やコメディ演出など、随所にエドガー・ライトっぽさが出ていて、それはそれで面白かったけど。

縮小だけでなく、拡大のプロットが出てくるあたりで、アントマンの論理が弱くなる気配もしたが、映像の面白さと痛快さで乗り切ってしまうあたりはホント凄い。そして何よりも笑顔で負われるラストが気持ちいい。これがハリウッド映画の秀逸さだ。

続編はとてもありがたいが、マーベルユニバースとしてアベンジャーズに加わることは、本作の良さが崩れてしまうようで自分は賛同しかねるなー。

【75点】
コメント (3)
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