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映画とサウナ。

アントマン 【感想】

2015-10-01 08:00:00 | 映画


洋画のゴールドラッシュが止まらない。2015年は映画ファンには堪らない豊作の年として語り継がれそうだ。

新たなマーベルヒーロー映画「アントマン」を観た。まさかのアクション映画。まさかのアドベンチャー映画。まさかのディズニー映画。。。。まさかづくしで、こちらの期待値を鮮やかに超えてくれた。

刑務所から出所した男が、ひょんなことから「アントマン」となって悪党たちの陰謀を阻止しようとする話。
マーベルユニバースとして括られるこれまでのアメコミヒーロー映画とは明らかに一線を画す。

まず主人公の造形だ。泥棒を繰り返し収容された刑務所から出所。妻とは離婚し、最愛の一人娘は新しいパパのもとで生活している。仕事にありつけず、娘の養育費も払えない。自分の人生に手一杯で完全に行き詰まっている。工学の知識に長けた凄腕の鍵開け職人である他は、特殊能力や超人パワーを持たない一般人だ。仮にマーベル映画で敵の襲来シーンがあるとすれば、逃げまどう人々のその他大勢に当てはまるだろう。主人公のアントマンにポール・ラッドを起用したことも手伝い、地味だが人間味のあるキャラクターになっている。

主人公がアントマンとして活躍するに至る経緯も、「世界を守る!」といった大義ではなく、泥棒を働いた結果の「やむなし」のことだ。シリアス路線を突っ走ってきたマーベル映画にあって、箸休め的に、ニュータイプのイケてないヒーローを描くのが狙いか?と勘ぐるが、それは半分正解で、半分不正解だった。正解は「ニュータイプでイケてるヒーロー」であり、アントマンは他のヒーローにはない魅力を放つ。

アントマンの能力と、それを最大限に生かした展開、アクション描写が素晴らしい。身長を自由なサイズに縮小できることで発揮される潜入能力と、共闘の仲間となるアリさんたちとの見事なコンビネーションにワクワクする。ミクロな世界で展開するアントマンのミッションは夢に見た大冒険の世界であり、不可能な局面を突破するスリルはまさにミッション・インポッシブルだ。肉体の縮小に反比例して、パワーは増幅されるという仕掛けであり、可笑しくも強い。身長を縮小するだけでなく、瞬時にサイズを変えられるものだから、神出鬼没な攻撃も可能だ。アベンジャーズメンバ ーとのまさかの対決シーンでその実力と可能性が遺憾なく発揮される。アイアンマン、ハルク、ソーなどの超人グループにはさすがに負けるだろうが、ホークアイやブラック・ウィドウ相手だったら、絶対アントマンのほうが強いよなーとか真剣に考えたりする。ただし、アントマンと絡むアクションシーンには、もれなくユーモアがくっついてくるのが前提だ。しかし、これが全然嫌じゃない。迫力と笑いの連打が見事に決まるからだ。

こうしたアントマンならではの能力もさることながら、グッと胸を掴まされるのがアントマンのモチベーションである。

「パパは子どもにとってヒーローでなければならない」。
そんな普遍的なメッセージが本作から見えてくる。アントマンこと、スコットのモチベーションの先には常に幼い一人娘の姿がある。自身の免罪から始まったスコットの思いはいつしか、大切な娘のために、何かを成し遂げることに変わっていく。肉体を縮小することのリスクを自覚し、ミッションのために捨て石になることも覚悟しているのがポイントだ。そこには、マイケル・ダグラス演じる初代アントマンとスコットの間にある、同じ一人娘を持つ者同士の、父性の共鳴が隠れている。自分のため、家族のために、ヒーローになろうというアントマンの姿は、「世界を守るため」と言いながら町中を粉砕する他のマーベルヒーローたちよりもずっと説得力がある。スコットが決死のミッションに挑む前夜、娘の寝顔を優しい眼差しで見つめるシーンに泣けてくる。

アクション×ユーモア×家族愛。この掛け算によって、本作がマーベル映画の新たな快作になっているわけだが、その土台にあるのが、ディズニー映画とのシナジーだ。ディズニーに吸収されて久しいマーベルスタジオだが、これほどまでディズニー映画の強みが活かされたマーベル映画はないのではないか。

まず、一人娘のチャームが効果的で、主人公の父性をより際立たせる 。成長期により2本の前歯が欠けたままのルックスで、なぜか、可愛いぬいぐるみよりも、不細工なぬいぐるみを好む趣味である。ダメなパパをいつでも慕う純粋さがあり、めちゃくちゃ可愛いのだ。そしてもうひとつ、アントマンに協力するアリさんたちの表現がよく出来ている。大量にモゾーと群れたり、知らぬうちに這い上がってくるような、気持ち悪く思われがちな負のイメージよりも、アリの勤勉さ、健気さにフォーカスする。主人公と同様に、知らぬ間にアリさんたちに感情移入してしまう。なので「アントニーー!!」で観ていてこっちも胸が張り裂けそうになる。
他にも、マイケル・ペーニャ演じるコメディパートを担うキャラクターなどは、ディズニーやピクサーアニメに必ず出てくる愛すべきサブキャラを髣髴とさせるなど、誰もが嫌味なく心地よく見られるディズニー映画、それを地でいくような作りにも見えた。

本作のキャスティングについては、ポール・ラッドとマイケル・ダグラスの他には全く事前情報を入れていなかったので、脇役に好きな俳優が多く出ていることに驚きテンションが上がった。本作のヒロイン役にあたるエヴァンジェリン・リリーや、悪役のコリー・ストール、主人公のパートナーとして活躍するマイケル・ペーニャ。みな、役柄にハマっているのは勿論のこと、楽しみながら、大いに振り切って演じているようだ。観ているこっちも楽しくなる。

監督がエドガー・ライトから、ペイトン・リードに交代された本作だが、交代して正解だったのかもしれない。名前の知らない監督だったが調べてみたら「チアーズ」や「イエスマン」などのコメディ映画を手がけていた監督で、笑いのツボをきちんと捉えていることに納得した。作り手のセンスよりも、自由な発想と、最大公約数の観客を魅了するサービス精神は、ハリウッドで馴らした映像監督でなければ実現することは難しかっただろう。とはいえ、脚本の影響か、映像の切り方やコメディ演出など、随所にエドガー・ライトっぽさが出ていて、それはそれで面白かったけど。

縮小だけでなく、拡大のプロットが出てくるあたりで、アントマンの論理が弱くなる気配もしたが、映像の面白さと痛快さで乗り切ってしまうあたりはホント凄い。そして何よりも笑顔で負われるラストが気持ちいい。これがハリウッド映画の秀逸さだ。

続編はとてもありがたいが、マーベルユニバースとしてアベンジャーズに加わることは、本作の良さが崩れてしまうようで自分は賛同しかねるなー。

【75点】
コメント (3)
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