から揚げが好きだ。

映画とサウナ。

2018年ベネチア国際映画祭の受賞結果で思ったこと。

2018-09-12 23:00:00 | 映画


日本時間のおととい、今年のベネチア国際映画祭が閉幕した。世界三大映画祭のなかでも、個人的に最も親和性の高い映画祭だ。他の映画祭に比べ、とっつきやすいアメリカやイギリス映画が評価されることが多く、馴染みある映画人の作品がコンペ部門に出されることも多い。最近だと、去年の最高賞が「シェイプ・オブ・ウォター」だったり、一昨年の女優賞が「ラ・ラ・ランド」のエマ・ストーンだったりと、その受賞結果がアカデミー賞とかぶるので、毎年、その動向に注目している。 

で、今年の受賞結果は以下のとおり。

金獅子賞(最高賞):「ROMA」(アルフォンソ・キュアロン監督)
銀獅子賞(審査員大賞):「女王陛下のお気に入り」(ヨルゴス・ランティモス監督)
銀獅子賞(監督賞):「The Sisters Brothers」(ジャック・オディアール監督)
女優賞:オリヴィア・コールマン 「女王陛下のお気に入り」
男優賞:ウィレム・デフォー 「At Eternity's Gate」
脚本賞:「The Ballad of Buster Scruggs」(ジョエル&イーサン・コーエン)
審査員特別賞:「The Nightingale」(ジェニファー・ケント監督)
マルチェロ・マストロヤンニ賞(新人賞):バイカリ・ガナムバル 「The Nightingale」

まずはナント言っても、アルフォンソ・キュアロンの待望の新作が最高賞を受賞したこと。彼の新作を首を長くして待っていたが、全編モノクロ、母国メキシコに戻って撮影した原点回帰のような映画だ。映画祭の今年の審査委員長は、彼の盟友ギレルモ・デル・トロであり、開催時の記者会見時、キュアロンの新作を指され「(同郷贔屓せず)公平にジャッジする」と言っていたが、最高賞にキュアロンの映画を選ぶ結果となった。選考は審査員の満場一致だったらしい。実際に映画祭で見た人のアーリーレビューも絶賛ばかりで、紛れもない傑作のようだ。

そして、この映画がNetflix製作であるということが歴史的な出来事だ。動画配信サービスの映画ということでカンヌ映画祭から締め出されたばかりだった。まあ、Netflixの偉業というより、Netflixがキュアロンのような偉大な映画人を口説き落としたことがすごいというべきか。キャリー・フクナガ(「マニアック」が楽しみ!)もそうだったように、広く自分の映画を見て欲しいという映画人の意向と、Netflixの意向が合致した模様だ。おそらく、アカデミー賞の作品賞にもノミネートされる、始めての動画配信映画になると予想される。もはや視聴形態で映画を区別する時代は終わった。

配信予定日は12月14日とのこと。自宅のテレビをつければ、いつでも見られることになる。ただし、この映画についてはドラマ映画であるものの、是非とも劇場で見たいものだ。Netflixには、日本の興行会社と巧く共存してほしい。

他の受賞作品の顔ぶれもとても興味深い。「ロブスター」「聖なる鹿殺し」など変態(?)映画を生み出してきたヨルゴス・ランティモス、豪華女優陣を揃えた時代劇「女王陛下のお気に入り」が大賞と女優賞を獲得、オリヴィア・コールマンはアカデミー賞の本戦にも候補入りしそう。「At Eternity's Gate」はジュリアン・シュナーベルが描くゴッホってめちゃくちゃ相性が良さそうだし、ゴッホ演じたウィレム・デフォーのパフォーマンスも気になる。西部劇をオムニバス形式で撮ったコーエン兄弟の新作も気になるし、「ババドック」で注目したジェニファー・ケント監督の新作「The Nightingale」も気になる。

いずれも日本公開はまだまだ先になりそう。
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SUNNY 強い気持ち・強い愛 【感想】

2018-09-12 22:00:00 | 映画


「女子高生を中心に日本が回っていた」1990年代後半。韓国のオリジナルを日本のコギャル時代に置き換える、それだけ聞けば面白そうなリメイク。意外にもオリジナルの要素をほぼ踏襲していて逆に驚いた。ほぼ同世代であるものの、懐かしさよりも恥ずかしさ。女子高生たちがわちゃわちゃ友情を育む様子、オジさんは恥ずかしくて直視できません(笑)。当時流行ったJポップを前面に押し出し、その背景でキャラクターたちを動かす様子はMVのように見えシラける場面も多いが、過去と未来が抱き合うファンタジーを加えたのは見事。平成の最後の年に本作が公開されたことは感慨深い。

公開初日の夜の回、座席が3割くらいしか埋まっていなくて驚く。この空き具合は、全国規模の映画では久しぶりだ。前の週に見た「銀魂2」とはエラい違い。おそらくターゲットが狭いと思われる。ひと昔前の「コギャル」に関心を持つほど、若い客層は寛容ではないのでは?実際、映画の内容も普遍性よりも当時のカルチャーを懐かしむ作りになっている。その時代を知る自分が見てもしっくり来なかった。ターゲットの真ん中にあたる、30代40代の女性は、映画館から離れているって何かの調査結果で見た気がするし。。。

「トレンディドラマ」が一斉風靡し、その象徴的存在である「ロンバケ」の主題歌「LA・LA LOVE SONG」から回想シーンが始まる(今思うとチャゼルの「ラ・ラ・ランド」と同じ名づけなのかな)。今さら感の強いフラッシュモブで女子高生たちが踊る。これが、バラバラでカッコよくない。メロディアスな音楽とダンスって相性が悪いのかも。期待よりも不安が募る出だしだ。

キャラクターやストーリーはオリジナルのままだ。主人公の顔芸、美貌が際立つメンバーと主人公の関係、仲良しグループが解散に至った経緯、明暗が分かれた人生、初恋相手との再会の様子、大人になったメンバーのダンスなど、印象深いシーンはそのまま踏襲されている。大根監督のオリジナルへの強い愛を感じる。最大の脚色は1990年代のコギャル文化に舞台を置き換えたこと。主人公が阪神淡路大震災の影響で都会に越してきたという設定が巧くハマる。

ルーズソックス、プリクラ、スピード、エンコー、ブルセラなど、時代の流行語をふんだんに盛り込む。当時、自分は男子校に通っていたため、ほぼ関わりのなかった風景だが、渋谷に出れば、同じ格好をした女子高生たちで溢れていたのを思い出す。大人になった主人子らが当時の自分たちを振り返るように、とにかく当時の女子高生たちはうるさかった(笑)。手元のコミュニケーション空間に没頭する今と違って、当時の女子高生たちは友達と会って騒いでなんぼの遊び方だった。映画を通して再現される、当時の女子高生たちの騒ぎをみても、自分は恥ずかしくなるばかりだ。本作に出演する若い女優陣が生まれる前の話、彼女たちはどんな気持ちで演じていたのか、気になる。

当時の女子高生たちが熱狂していた音楽といえば、小室ブランドだ。なので、本作の音楽を当事者である小室哲哉に発注したのは的確な判断だが、大根監督のアイデアというより、川村プロデューサーの意向が強かったと察する。TVドラマを含め、大根作品を見る限り、彼の趣味ではなさそうだし。逆に、副題のオザケンのチョイスは大根監督の趣味が濃そうだ。さすがに100%小室音楽ではないが、劇中の音楽はすべて当時流行った音楽で取り揃えられる。ここはオリジナルとの大きな違い。国産の音楽ではなく、洋楽を選んだオリジナルは、聴きなれた音楽として物語を邪魔することはなかった。本作の場合、一時の国産音楽に限定される。そして、その音楽をキャラクターたちよりも前面に出す。音楽を聞かせるためのミュージックビデオのようで寒い。

サニーの仲良しグループのなかで、池田エライザの存在感が浮く(彼女自身は素晴らしい)。彼女はまだ22歳で、他キャストとの年齢差はそれほどないのだが、身長差によって常にメンバーを見下ろしている。大人びたルックスも手伝い、同級生というより彼女たちを見守るお姉さんのようだ。突出した美貌により女子高生姿が1人だけ際立つ。彼女の『だっさ』が自覚なきM心を刺激する。実際に雑誌モデルという設定だが、にしても他メンバーとの外見の高低差が終始気になった。彼女は単体で画になる人だと思う。篠原涼子をはじめ、女優陣はみな好演だが、コメディ枠の脇役に徹した小池栄子、渡辺直美らの巧さも見逃せない。

オリジナルからの脚色はもう1つ。過去と未来のキャラクターを繋げたことだ。当時の彼女たちなくして、現在の彼女たちはいないわけで、未来の自分が過去の自分の悲しみに寄り添い、過去の自分が未来の自分の肩を後押しする。その象徴的シーンとして描かれるラストのダンスシーンに高揚する。当時、文化系な友人たちがこぞって聞いていたオザケンの曲。自分は嫌いだったけど、ダンスとのシンクロも素晴らしく、「名曲じゃないか」と感じ入ってしまった。

【60点】
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