から揚げが好きだ。

映画とサウナ。

マニアック 【感想】

2018-09-29 23:38:55 | 海外ドラマ


キャリー・フクナガが、再びテレビドラマのメガホンをとるということで、今年、最も注目していたNetflixドラマだ。
Netflixと初めて組んで製作した映画「ビースト・オブ・ノー・ネーション」は素晴らしかったし、主演はエマ・ストーンとジョナ・ヒル。どうしても期待してしまう。

9月26日、先週の金曜日、全世界同時リリースにて配信され、全10話を見終わった。

結果、フクナガ監督を贔屓目に見ても、期待ハズレだった。
「いつから面白くなるだろう」と思っていたら、終わってしまった。

物語は、エマ・ストーン演じる過去にトラウマを抱える女子と、ジョナ・ヒル演じる統合失調症の男子が、精神疾患を治す薬の集団治験に参加するという話。

デブ、ヤセ、デブを繰り返すジョナ・ヒルが、本作では彼史上最もスリムな体型を見せる。予告編で彼の姿を初めて見たときはかなり驚いた。シリアスな役柄を演じられるように、とのことだが、本作で彼が演じる「オーウェン」は大真面目なキャラクターだ。実家は裕福で周りの兄弟はエリート、彼は精神に不調をきたしており、なかなか定職につけない状態だ。本気でその病気に悩まされている。一方のエマ・ストーン演じる「アニー」は、家族との間に大きな悲劇を経験しており、悔やんでも悔やみきれない過去の記憶を抱える。そのトラウマの痛みを抑えるため、クスリ中毒になっている状態。

オーウェンが、治験に参加した動機は自身の病気を治すためであり、アニーは中毒の元となっているクスリが治験で使われる薬であることを知ったからだ。治験に参加するまでの3話目までは上々の滑り出し。精神病、クスリ中毒に悩む2人の世界を特殊効果を使いながら見事に映像化。その後、どんな物語が展開するのか、ワクワクする。

ところが彼らが出会い、治験に参加する4話目以降で興味は持続しなくなる。

治験はA、B、Cの3つのステージに分かれていて、そのステージごとに、薬を服用、人工知能の誘導によって催眠状態に入り、脳内で未知のドラマを体験して克服するというもの。その脳内ドラマが、現実世界のドラマと平行して描かれる構成だ。



脳内ドラマが各エピソードのメインとなっていて、あるときは、80年代のドタバタコメディの主人公、あるときはロードオブザリングなファンタジー映画の主人公、あるときはギャング映画の主人公だったりと、世界観が全く異なる物語が描かれる。個人単位での実験であるため、脳内で展開する物語も治験者ごとに分かれてしかるべきなのだが、アニーとオーウェンだけ、なぜか、同じ物語を共有するという事態になる。その謎の究明が本作の1つのミステリーになる。



1話目の冒頭、宇宙のなかで人類が生まれた奇跡を解説するシーンからはじまる。そこから想起するに、2人の出会いもまた奇跡の1つ、みたいな恋愛モノを予想するも、しかし、その気配は一向に出てこない。描かれる脳内ドラマは、脈略やパターンがなく、見えてくるとすれば、過去のトラウマや苦悩を投影した要素が差し込まれるくらいだ。どう転がっていくか、先が見えてこない不思議なドラマが続く。2人のスター性や、エピソードごとに変わるコスプレは楽しいものの、ブツ切りにされる物語単体でみても、面白い展開が用意されているわけではなく、とりあえず面白くなるのを待って付き合う感じだ。次のエピソードが早く見たくなる衝動も起きない。で、結局、最終話までそのままの流れで終わってしまった。2人が脳内で意識を共有していた理由もほったらかしのまま。そりゃ、ないよ。ドラマの尺としては短い40分前後なので、視聴を続けられることができたが、見なくても良かったと思った。シュールな笑いが散りばめられているので、シンプルにコメディとして見るのが正解か。

治験の舞台となる実験室をはじめとして、出てくる美術やアイテムがユニークなのは面白い点。近未来の設定と思われるが、ドラマで大きな役割を担う人工知能やハイテク機器のデザインが、かなりローテク。おそらく1970年代とかにSFドラマを撮ったら、こんな仕上がりになっていたと思われ、全体的にレトロ感を漂わせている。また、実験室の所長らしき人が日本人(神田瀧夢)だったりするので、会話の一部が日本語で交わされたり、実験室にはなぜか盆栽が置かれたり、治験者が寝る場所がカプセルホテルの形をしていたり、随所に日本らしい光景ががみられる。だから何!?だけど。



次作の「007」の監督が決まったばかりのキャリー・フクナガ。そのネットニュースのコメント欄をみると、日本の「007」ファンは彼が日系人であることばかりに注目し、「007」が「日本」っぽくなるのでは!?なんて憶測が飛び交っているが、その先入観のまま本作を見てしまうと勘違いされるだろう。

「闇の列車、光の旅」以降、彼の映画、ドラマを追いかけ、すっかりファンになっていたが、本作で連続ヒット記録は途絶えた。前作テレビドラマの「TRUE DETECTIVE/二人の刑事」の感動、再び!とはならなかった。ジャンルを縛らず傑作を生み続けてきた、彼ほどの映像作家が、このドラマの完成度で納得したとは到底思えない。また、エマ・ストーンとジョナ・ヒル、2人がそれぞれ演技派として成長して久々の共演だったのに、この仕上がりでは何とも味気ないではないか。

【60点】