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パディントン2 【感想!】

2018-01-27 08:00:00 | 映画


2018年1発目のホームラン映画。前作に続いての傑作。
人間の言葉をしゃべる熊との共生というファンタジーから見えるのは、人を信じることの尊さだ。陽気な映像に潜んだ、真心たっぷりのメッセージに何度も涙腺がゆるむ。礼儀正しく、正直に、親切に、そして一生懸命に生きるパディントンを愛さずにはいられない。彼に関わる人たちがことごとくハッピーになるのも素直に受け入れられてしまう。悪者を作らず、あくまでファミリー映画としてのスタイルを崩さないのが素晴らしい。脚本も実に良く練られていて、とりわけクライマックスにおける笑いとスリルを内包した伏線回収が圧巻だ。遊び心満載の映像は精巧かつ、とにかく楽しい。ヒュー・グラントのコメディパフォーマンスも最高。楽しくて感動して胸がいっぱいになった。

前作ですっかりブラウン家の一員となったパディントンが、育ての親であるルーシーおばさんに贈る誕生日プレゼントを巡り、奮闘する姿を描く。
翌週に小学生の甥っ子と見に行く約束だったが、どうしても字幕版で見たかったので先に見ることした。結果、リピート鑑賞も大歓迎な映画だった。

前作からの変化はパディントンとブラウン家の家族関係は勿論のこと、町に暮らす人たちとの間にもナチュラルな友情が芽生えていることだ。前作で見えたメッセージは「寛容さ」であり、異なる文化や価値観をもった人たちを受け入れ、互いに共生することの豊かさを描いていた。本作ではパディントンと町の人々との間に「当たり前」の関係性が出来上がっている状態でスタートしていて、パディントン自身が町の人たちの絆を結ぶキューピット的な役割も担っている。現実離れした理想形ともいえるが、本作はこうでないとダメだ。



今回の物語のきっかけとなるのは、ルーシーおばさんに贈る誕生日プレゼントだ。前作でパディントンをペルーから送り出した育ての親であり、彼女がイギリスへ訪れる夢をパディントンに託した形でもあった。本作ではルーシーおばさんとパディントンが初めて出会った回想シーンが描かれる。それは命がけの大変なエピソードなのだが、あくまでシリアスな空気を避ける本作にあって、どこか「のほほん」とした絵本の世界観を優先する。但し、見ているこっちは早々に涙腺が緩んでしまう。2人の絆がいかに大きなものであるかを印象付ける。そして、パディントンにとってルーシーおばさんはかけがえのない大切な人であり、ルーシーおばさんへ感謝の気持ちを伝えたいという想いが痛いほど伝わるのだ。

誕生日プレゼントに選んだのは、イギリスの名所を巡る飛び出す絵本である。絵本を贈って、ルーシーおばさんにイギリス旅行の気分を味わってもらうことが狙いで、心のこもったナイスチョイスといえる。パディントンが飛び出す絵本を初めて目の当たりにする場面、絵本の中でルーシーおばさんと一緒にイギリス旅行を空想するシーンが何ともドリーミーで引き込まれる。美しくて可愛くて、パディントンの喜びが心地良い高揚と共に伝染する。パンフ情報によると、監督が特にこだわったシーンで、パート1の成功があって実現できたとのことだ。こういうことに膨らんだ製作費を費やすべきであり、正しいパート2の作り方だ。

その絵本を巡ってパディントンは様々な騒動を起こす。絵本は高価な売り物であり、熊とはいえ、アルバイトをしてお金を稼がねばならない。真面目で一生懸命働くがどうしても間が抜けているため、何かと失敗が続く。前作に続き、そこで発生するコメディアクションが相変わらず可笑しい。モフモフな熊なため、いくらでも「萌え」に走れるはずなのに、その視点に媚びることはなく、予測できない発想の動きでユーモアを作り出す。本作では前作以上にパディントンのアクションが激しいものになっていて、編集やカメラワークの美技も手伝って大いに楽しませてくれる。また、彼のドジによって生まれた思わぬ副産物が後半に効いてきたりする。

今回もパディントンのコスチュームは赤い帽子に紺のダッフルコートだ。少しくすんだレトロな風合いが素敵で抜群に似合っている。本作では、新たに囚人服コスチュームが追加される。パディントンが誤認逮捕によって、まさかの刑務所入りを経験するのだ。「刑務所に入るほどの犯罪かい!」というツッコミはどこ吹く風であり、そのファンタジーな展開に大いにノる。囚人服もパディントンが着てしまえば可愛いパジャマに早変わりだ。その一方で、刑務所で待ち受けるのはこれまで経験したことのない孤独と冷え切った人間関係、そして、まずいメシ。この悲惨な状況を打開するのはパディントン自身であり、必殺の「マーマレード」パワーが炸裂する(笑)。



パディントンが刑務所を幸福な空間に変える。ブレンダン・グリーソン演じる刑務所のボスの感情を動かしたことがきっかけで、先入観を持たないピュアな性格と、誰にでも敬意をもって接する紳士さのなせる業だ。その考え方の根底にあるのは、人を信じる精神と感じた。どんな人にでも良心があって、それを信じる価値があるということ。劇中何度も出てくる「親切は自分に戻ってくる」(見返りという意味ではない)とはよく言ったもので、他人を信じ大切にすることが自分の人生を豊かにしてくれるというメッセージと受け取れる。パディントンがいれば、世の中から戦争がなくなるのに、というのは思い過ぎだろうか。

刑務所生活のあとに訪れるのが、クライマックスの汽車の追いかけっこだ。これがまたとんでもなく秀逸。前半に描かれていた些細な小ネタや、これまで積み上げてきたパディントンの経験が、めまぐるしいアクションのなかで一気に伏線となって回収されていく。そのあまりの鮮やかさに思わず発奮してしまった。それをドヤ顔で魅せるのではなく、しっかりユーモアを効かせているのがイイ。ヘンリーお父さんのチャクラの覚醒に爆笑。コメディセンスが冴えている。驚きや笑いだけでなく、パディントンの収監中も無実を晴らすために奔走していたブラウン家の面々との、強い絆がエモーショナルに描かれる。もう涙なくしては見られないほどに感情を揺さぶられてしまった。

前作に続き、ベン・ウィショーの低音気味で温みのある声がパディントンにぴったりだ。彼のアフレコシーンをパッケージの特典映像に入れてほしい。また、CGで作られたパディントンの脇役として周りを固める役者陣たちの献身的な演技も光る。前作の序盤、ひとりぼっちで駅に佇んでいたパディントンを一番気にかけていたブラウン家のメアリーお母さんは、本作でも我が子のような愛情をパディントンに注いでいる。好奇心旺盛でチャーミングな一面もあるメアリーを、前作に続きサリー・ホーキンスが好演している。また、本作で新たに登場するヒュー・グラントのパフォーマンスが絶品だった。もともとラブコメで一斉を風靡した人だが、かつての輝きを取り戻すかのような絶好調ぶり。落ち目の役者という、ややブラックユーモアの効いたキャラクターを存分に楽しんで演じているようだ。ヒュー・グラントは本作の演技により、しっかり英国アカデミー賞の助演男優賞にノミネートされた。もちろん、本作は作品賞にもノミネートされている。前作に続いてメガホンをとったポール・キングはすごい才能をもった人だ。



もはや「パディントン」は自分の中で、愛と平和のアイコンとしてが確立された。ファミリー映画とは子ども向けではなく、小さい子どもから大人まで楽しめる映画だということを再認識させる映画でもあった。ロッテントマトで史上最高スコアを更新したというのも納得の完成度。にも関わらず、アメリカでは興行的に失敗しているようで、英国コンプレックスでもあるのだろうか。日本でも自分が見た映画館では公開初日なのに空席が目立っていて残念に思えた。大半が吹き替え版で見ているのかもだけど。

パディントンがラストに発した、シンプルで想いのこもったセリフに再び涙腺が緩む。その後のエンドロールでは、ゴージャスで楽しいヒューグラントの「ワンマンショー」が流れて、最後の最後まで楽しませてくれる。ひたすら楽観的で、陽気。この映画の多幸感はかなり得難い。

【85点】
コメント (2)
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