メジャーリーグ全球団で永久欠番となっている「42」。
そのきっかけとなった黒人初のメジャーリーガー「ジャッキー・ロビンソン」を描いた映画を観た。
映画自体は作家性を感じる演出に乏しく、とても平坦で平凡な作り。
良い人は良い人で、悪い人は悪い人として描かれる。
単純明快で、深読みする必要はなく、観たままの映画。
映画をいろいろ観ている人間としては面白みに欠けたが、
俯瞰して考えると、これはこれでありだと思った。
歴史の転換点とも言える偉大な史実の映画化である。
誠実に再現すれば、それなりに感動できるというものだろう。
そして、何よりそのわかりやすさから、
子どもからお年寄りまで観ることのできる映画になった。
史実を語り継ぐ映像作品として、とても意義にあるものになったと思う。
中学、高校生向けの歴史・道徳教材としても流行りそうだ。
本国での高評価もそういったところが大きかったのではなかろうか。
初の黒人メジャーリーガーとして激しい差別に合うロビンソンが
立ち向かうために持ち続けていたのは「やり返さない勇気」。
そのよりどころが「自尊心」であることが印象的だ。
そして、ロビンソン本人の弱さも丁寧に描いたことで、
偉大な人物を生身の人間として見せることに成功している。
本作で初めて見たロビンソン役のチャドウィック・ボーズマンは
好演であることは間違いないが さほど印象に残っていない。
余計な先入観を持たせなかったという点では正解だったと思われるが。
ロビンソンを導いた球団オーナー演じたハリソンフォードが素晴らしい。
本作の見どころは彼に集約されそう。彼が演じた人物自体も、
もう1人の「世界を変えた」人物と言って良いだろう。
インディン・ジョーンズでの泥臭くエネルギッシュだった頃のイメージは皆無。
見事にデブって、油断すると入れ歯が外れそうなシワシワ爺さんになっている。
これはあとで知ったことだが特殊メイクによるものとのこと。自然な仕上がり!
観る人によればハリソンフォードだと気づかないかもしれない。
言い換えれば、これまでのハリソンフォード像を完全に封印し、
「42」という新たな世界に生きる老齢キャラに見事なりきっている。
独特な抑揚をつけた話し方には力強さがあり、1つ1つの言葉に重みと深みがある。
「世界を変えろ」と主人公を後押しするシーンに素直に感動である。
オスカー好きとしてはどうしても言及してしまうが、
助演男優ノミネーションの可能性は高く、
これまでの功績を加味して受賞もありえそうだ。
2時間という上映時間はあっという間だった。
それだけ夢中になったというより「もう終わりなのか」という不足感に近い。
感情に訴えかけそうなシーンも、そのまんま見せるので盛り上がらない。
こちらの想像力に委ねる余白が欲しかった。
先週の王様のブランチでリリコが「見終わったあとの爽快感ハンパない」と言っていた。
好みの問題だろうが、違う監督が演出していたら、より感動的な映画になっていたと思う。
【65点】