そもそも論者の放言

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『サピエンス全史』 ユヴァル・ノア・ハラリ

2017-12-17 22:24:43 | Books
サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福
ユヴァル・ノア・ハラリ
河出書房新社


サピエンス全史(下)文明の構造と人類の幸福
ユヴァル・ノア・ハラリ
河出書房新社


第1章からガツンと目を覚まさせられる。
我々は、自分たちホモ・サピエンスが唯一の人類だとばかり思っているが、それは完全に誤った認識である。
ホモ・エルガステルからホモ・エレクトスが生まれ、ホモ・エレクトスからネアンデルタール人が誕生し、ネアンデルタール人が我々ホモ・サピエンスに進化した、というような、一直線の系統図に並べるイメージで捉えてはいけない。
約200万年前から1万年前ごろまで、この世界にはいくつかの人類種が同時に存在していた。
ちょうど今日でも、キツネやクマ、ブタには多くの種があるのと同じように。
過去1万年間に、ホモ・サピエンスは唯一の人類種であることにすっかり慣れてしまったので、我々はそれ以外の可能性について想像を巡らすことが難しくなっているだけなのだ。

そして、もう一つ。
かつてホモ属は食物連鎖の中程に位置を占め、ごく最近までそこにしっかりと収まっていた。
人類は数百万年にわたって、小さな生き物を狩り、採集できるものはなんでも採集する一方、大きな捕食者に追われてきた。
ホモ・サピエンスの台頭に伴い、過去10万年間に初めて、人類は食物連鎖の頂点へと飛躍した。
人類があまりに急激に食物連鎖の頂点に上り詰めたがゆえ、生態系は順応する暇がなかった。
そしてサピエンスは、つい最近まで食物連鎖の負け組の一員だったため、自分の位置についての恐れと不安でいっぱいで、いまだに残忍で危険な存在となってしまっているのだ。

サピエンスが、地球上でこのような特異な存在となった壮大な過程が、「認知革命」「農業革命」「人類の統一」「科学革命」という重大なターニングポイントとなるフェーズごとに語られて行く。

認知革命は、7万年前から3万年前にかけて見られた、新しい思考と意思疎通の方法の登場のこと。
これによって、サピエンスは「社会」を構成し、「集団」の力を駆使できるようになる。

農業革命は、人類にとって大躍進だったようなイメージがあるが、それは夢想に過ぎない。
人類は、農業革命によって手に入る食糧の総量をたしかに増やすことはできたが、食糧の増加は、より良い食生活や、より長い余暇には結びつかず、むしろ、人口爆発や飽食のエリート層の誕生につながった。
平均的な農耕民は、平均的な狩猟採集民よりも苦労して働いたのに、見返りに得られる食べ物は劣っていた。

紀元前1000年紀に普遍的な秩序となる可能性を持った3つのもの、「貨幣」「帝国」「普遍的宗教」が登場し、全世界と全人類を、一組の法則に支配された単一な集団として想像できるようになった。
ちなみにここでいう「宗教」には、自由主義や共産主義、資本主義、国民主義、ナチズムといった、自然法則の新宗教も含まれる。

紀元1500年頃、ヨーロッパ西部で、地上のあらゆる生命の運命を変えることになる重大な転換点、科学革命が始まる。
近代科学の最大の特徴は、進んで無知を認める意思にある。
そこに、科学の発見が新しい力を与えうるという考え方が加わり、どんな問題も(死すらも)克服できるという確信が生まれる。
科学は、帝国、資本と親和し、相互にフィードバックループを形成しながら発展していく。
大航海時代以降、ヨーロッパの帝国主義は、新たな領土とともに、新たな知識を獲得することを目的とするようになる。
近代以前、将来を信頼しないがゆえに、信用が発生せず、経済成長しなかった社会は、科学革命により「進歩」という考え方が注入されることにより、将来を信頼し、信用を発生させることにより、経済成長する社会へと生まれ変わった。

ここまで、サピエンスが歩んできた足跡を経て、著者の最後の問いにたどり着く。
科学文明は果たして人間を幸福にしたのか?
科学が生命の領域に浸出し、シンギュラリティへと到達しようしている「超ホモ・サピエンスの時代」はどのような未来をもたらすのか?

ここで、本書の中で示唆された、歴史の持つ重大な2つの特徴が想起される。

1つは、歴史は「二次」のカオス系であること。
「予想」することに反応して結果が変わるので、正確に予想することがけっしてできない。
従って、歴史を決定論で語ることはできない。
それでも我々が歴史を研究するのは、未来を知るためではなく、視野を広げ、現在の状況が必然的なものではなく、未来に多くの可能性があることを理解するためである。

そしてもう1つ、歴史の選択は人間の利益のためになされるわけではない、ということ。
文化は一種の寄生体であり、人間は図らずもその宿主となっている。
宿主が寄生体を新たな宿主に受け継がせられるだけ長く生きさえすれば、宿主がどうなろうと寄生体の知ったことではない。

最後の問いへは誰も答えることができないが、この「サピエンス全史」という人類の知の大全というべき一冊が多くの人に関心をもって読まれることで、可能性のある多くの未来のうち、より幸福な将来がサピエンスに訪れることを願うしかない。

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