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『失敗の本質』 戸部良一、他

2018-01-08 15:35:19 | Books
失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)
戸部 良一,寺本 義也,鎌田 伸一,杉之尾 孝生,村井 友秀,野中 郁次郎
中央公論社


初回刊行は1984年、今回読んだ文庫版も初版は1991年。
もはや組織論のバイブルのようになっている本著。
読んだのは初めてだったが、この本をベースにした日本軍の組織特性についての論考をいろんなところで読んだり聞いたりしているので、新たな知見を得るというよりは、知見を改めて整理して現在に生かすという点で収穫を得ることができたと思う。

全体に、研究論文の形式でまとめられており、特に本書の3分の2を占める第1章では、日本軍の「失敗例」の事例研究のケースとして、6つの戦局が精緻に記載され、単に戦記として読んでも興味深い。

日本軍の「失敗」を体系的に取りまとめ、その本質を普遍化して捉え直す試みは第3章にて行われている。
以下、要点を記す。

第1に、日露戦争の成功体験に基づき、陸軍の
では白兵銃剣主義、海軍では艦隊決戦主義というパラダイムに固執してしまっていたこと。
兵器・装備などのハードウェア資源の蓄積は、この基本思想に最適化される形で蓄積され、また、ソフトウェアの面でも、現場での日常のリーダーシップを通じて行われる組織学習を通じて、パラダイムが伝承されていった。

第2に、この全く違う方向を向いた基本パラダイムを持つ陸軍と海軍とを統合する機能を欠き、統合的価値の共有に失敗したこと。

そして第3に、外部環境・内部環境の変化に適応して、これらパラダイムをアップデートしていく自己革新組織たり得なかったこと。
凡そ適応力のある組織は、その内部に多様性や不均衡を内在させることにより、ダイナミクスを生じさせる構造になっている必要がある。
日本軍は、そのような自己革新性を悉く欠いていた。
・人事昇進は年功序列で抜擢人事はなかった。
・暗記と記憶力を強調した教育システム(陸軍士官学校、海軍兵学校)を通じて養成されたエリートは不確実な状況に弱かった。
・現場の指揮官に人事権が与えられず、戦闘単位の自律性を制約した。
・業績を評価するよりも、プロセスや動機を重視した。
・合理性を否定し、精神主義による自己超越を求め、資源に余裕がなかった。そのため、逆説的だが、重大局面で消極行動に走る傾向が見られた。
・異端者は嫌われ、ボトムアップによるイノベーションは困難だった。
・失敗の蓄積・伝播を組織的に行うリーダーシップやシステムが欠如していた。

何より重要なこと。
これら日本軍の組織特性を、現在の日本の組織ははたして克服できているのか?
以下、最終節から引用する。

戦略については、⑴明確な戦略概念に乏しい、⑵急激な構造的変化への適応がむずかしい、⑶大きなプレイク・スルーを生みだすことがむずかしい、組織については、⑴集団間の統合の負荷が大きい、⑵意思決定に長い時間を要する、⑶集団思考による異端の排除が起こる、などの欠点を有している。そして、高度情報化や業種破壊、さらに、先進地域を含めた海外での生産・販売拠点の本格展開など、われわれの得意とする体験的学習だけからでは予測のつかない環境の構造的変化が起こりつつある今日、これまでの成長期にうまく適応してきた戦略と組織の変革が求められているのである。とくに、異質性や異端の排除とむすびついた発想や行動の均質性という日本企業の持つ特質が、逆機能化する可能性すらある。

繰り返すが、これ、バブル経済前夜の1984年に書かれた文章である。
バブル後の日本経済・社会の低迷を予見したかのような、その先見的な慧眼に驚き、感服するとともに、その後30年以上が経過しても、日本的組織の本質を変えることができていない闇の深さに嘆息を禁じ得ない。

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