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「クリント・イーストウッド―ハリウッド最後の伝説」 マーク・エリオット

2010-04-29 00:03:40 | Books
80歳を目前にして、まさに映画人としての最高潮を迎えているクリント・イーストウッド。
映画界の重鎮にして大権力者の伝記を、本人がまだまだ現役である現時点で世に出そうとした勇気をまず賞賛したい。

もちろん内容は下世話なゴシップに終始するような低俗なものではありません。
イーストウッド本人が自身について寡黙であるがため、おそらく周囲にいる人間の口述や著述を取材し、そして何より彼の映画作品を丹念に観込んで書かれたものであることがよく伝わってくる500ページの力作。

改めて痛感するのはイーストウッドが遅咲きの映画人であること。
「ローハイド」とマカロニ三部作で西部劇のスターになったのが30歳代後半。
その後、演出家としての活動に力を入れていくものの、「ダーティハリー」シリーズの大ヒットがありながら、テレビシリーズとヨーロッパ製似非ウエスタン出身という出自もあって映画界では軽んじられ、「許されざる者」で念願のオスカーを手にしたときには60歳を過ぎ、「ミスティック・リバー」以降驚異的なペースで傑作を連発し、映画評論家からの絶賛を受けるようになったのは70歳を越えてから。

この伝記を読むと、彼がその生涯を通じて自身のスタンスを変えることのない孤高の人、信念の人であることがよく分かる。
一方で、彼は聖人君子ではない。
特にその下半身は奔放で、妻がいながら共演女優とは次々と関係を持ち、結婚は2度だけだが5人の女性との間に7人の子をもうけ、長年の愛人ソンドラ・ロックとは泥仕合を演じる。
映画作りでも時に暴君のように振る舞い、カーメル市長として政界進出したのも増築が認められず、アイスクリーム条例が許せなかったからという気まぐれな理由から。
だが、そのような譲ることのない自己中心性ゆえに、この稀代の芸術家が生まれたという気もするのであります。

クリント・イーストウッド―ハリウッド最後の伝説
Marc Eliot,笹森 みわこ,早川 麻百合
早川書房
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