地球散歩

地球は広いようで狭い。言葉は違うようで似ている。人生は長いようで短い。一度しかない人生面白おかしく歩いてしまおう。

クリスマス

2007-12-22 22:48:11 | ペルシャ語

كريسمس(クリースマス)

厳格なイスラーム国のイメージが強い現在のイラン。ゆえに、この地における過去の宗教的習慣が、実はクリスマスの起源となっていると言ったら驚かれる方も多いだろうか。あるいは、過去の「ペルシャ」という国と、現在の「イラン」という国の文化の間に、一定の断絶を認める方もおられるかもしれない。

イスラーム化以前の古代ペルシャでは、ゾロアスター教が民族的宗教であった。日本ではいわゆる「拝火教」として知られる宗教である。ゾロアスター教は、アフラマズダー(光明神)を最高神とする宗教だが、それ以前から存在する神格も、自らの中に取り入れながら成立していった。そのひとつが、ゾロアスター教においては天使という存在に降格した「ミスラ(ミトラ)」である。ミスラは古代イラン=インドに共通する神格であり、本来は「契約」を司る司法神であったが、太陽神としての側面も持つ。正統なゾロアスター教神学では神としての地位を否定されたものの、民間ではミスラ信仰が盛んであった。特にミスラの太陽神としての姿は、人々の間で大変な人気があった。この信仰が、ペルシャ文化とヘレニズム文化との交流により地中海世界にもたらされ、後にローマ帝国で隆盛を極めたミトラス教の原型であると考えられている。

キリストの聖誕祭として祝われるクリスマスが、実際にはキリストの誕生日と一致しないことは有名な話であるが、それは後にキリスト教を国教としたローマ帝国が、ミトラス教徒を懐柔するため、彼らの習慣をキリスト教に取り入れた結果と言われている。本来12月25日は、ミトラス教徒にとって冬至を祝う日だった。冬至は、ミトラス教の母体となった古代ペルシャにおいて、太陽の「死と再生」の儀式を行うための重要な意味を持つ日である。太陽の再生とは、この日を境に昼が夜よりも長くなることを意味する。

また、キリストの公現(生誕)の際、祝福に訪れたとされる「東方の三博士」が、ペルシャの聖職者「マギ(ギリシャ語ではマゴス)」であったことをご存知の方は多いだろう。

現在世界中で盛りあがりを見せるクリスマスの背景に、ダイナミックな古代の文化交流の跡が隠されていることを知るのは興味深い。そして、クリスマスを太陽の再生の日と捉えれば、夜の長い真冬の一日も、特別の意味を持って心に響いてくる。
現在、イスラーム指導体制下のイランでは、クリスマスを祝うことは勿論奨励されない。しかしここ数年、子供達の間でクリスマスの飾り付けをするのが人気だという。嬉々とした表情でクリスマスの準備をする子供達の笑顔は世界共通。文明の衝突ばかりに目を向けがちだが、他文化にも敬意を表し、その習慣を愛する人々の姿は、クリスマスのイルミネーションよりも輝いて見える。(m)

写真はテヘランのアルメニア人が経営するお店。ショーウィンドウはすっかりクリスマス・モード。『地球散歩』にも煌くクリックをお願いします!
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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ちょっと時期を逸してしまいましたが(^^; (マーク)
2007-12-28 14:15:25
そもそも、イスラム教とキリスト教はつながりが深いですよね。。。。

解釈の違いではすまない部分もありますが、こうしたクリスマスみたいなものを通して、お互いのことを少しでも理解しあえるようになると、ちょっとは平和になるかもしれませんね。。。
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ええ~!? (yuu)
2007-12-28 22:00:46
ええ~知らなかった!!!
ミトラス教というのも実はよく分かってなかったけど、つまり冬至の日として祝っていたのですね。それをキリスト教が踏襲した形になってる…
どの宗教も、取り入れやすくするために地元の神様と統一視したり取り込んだりして発展していったものとは知っていたけど、代表的な祝日もこんな風に成り立って行ったというのはすっごく面白いです!!
人々が行き交って、宗教も行き交って…
宗教が教えてくれることの一つに、柔軟性って言うのもアリかもしれないな…と思った、衝撃的な記事でした♪感謝です^^
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マークさん (mitra)
2007-12-29 22:46:03
マークさんがおっしゃるとおりです。
お互いの違いでなく、共通点や共感を覚えられる部分に着目することができれば、争いは減って行くはずなのです。尤も、互いに反目したがるのは政治家たちであって、民間のレベルでは、他国や他民族の文化に興味を持ったり敬意を表したりしている人が殆どだと思うのですが。権力者の力が絶大な場合、残念ながら言葉で言うほどには物事は簡単に行かないですよね。
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yuuさん (mitra)
2007-12-29 22:56:36
「宗教が教えてくれることのひとつが柔軟性」、とても良い言葉ですね!
様々な文化はいつの時代も、もともとそこにあった、あるいは周囲に存在する文化や文明を吸収しながら発展して行ったし、それぞれ単一では成り立たなかったものだと思います(当たり前のことですけど)。だからこそ、お互いの文化・文明に関心を持ち、敬意を払うべきですよね。
中でも宗教は(宗教そのものというよりも、政治と結びついた場合)、争いの種にもなりますが、理解のきっかけともなるものだと思っています。
ある宗教のことを理解しようとすると、その背景に他の民族の文化や風習も見えてきて、そんな時、物事と物事との相違点ではなく、深い繋がりを感じさせられるから・・・。
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