du fromage(デュ フロマージュ)
チーズといえばフランスのBrie(ブリー)。癖がなく、やわらかく、白い姿には高級感さえ漂う。しかし私がその考えに至るには、こんな経緯がある。
実は私は、チーズが嫌いだった。ピザも大人になってから、それも我慢して食べる、そんな勢いだった。しかしある時、試練がやってきた。それはオーストリアのザルツブルグに滞在していた時のことである。
宿で出される朝食は、ゼンメル(ドイツの白パン)とチーズだけ。来る日も来る日も、それだけである。最初の三日は耐えた。しかし、やはりそれだけでは心もとない。四日目くらいから、チーズに手を出した。一つでいっぱいいっぱいだった。五日目には、別のチーズに手を出した。割とあっさりしていると感じたのはこの頃から。その後、毎朝いろんなチーズを口にし、自分がこれまでに食べたものとは全く違い、後味に全く嫌味がなく、食べやすいものであると発見した。二週間後、旅立つ頃にはすっかり「チーズ大好き」人間に生まれ変わっていた。
その後フランスに訪れた時、これ幸いと、あらゆるチーズを物色し、自分の好みのチーズを調べていった。その結果、誰もが認めるブリーチーズに至った、というわけである。
フランスに限らず、スペインの生ハムとチーズという組み合わせは最高である。スイスのチーズフォンデュは、ワインの香りとチーズのとろけ具合が食欲をそそる。塩味が独特のギリシャのフェタチーズは、チーズの深遠さを物語っていた。私たちが寝込んだ時、粥をすするという発想があるが、西欧の人はチーズを食すると聞いたことがある。あの美味いチーズなら、なるほど寝込んだ時でも口に入るかもしれない。
ただ、残念なことが一つだけある。それは、ザルツブルグで開眼し、パリで極めたと思っていたチーズを、イギリスではあまり食する機会がなかったことである。ブリーは世界のブリー。イギリスでも高級食品なのだ。結局よく食べていたのは、色も形も歯ざわりも、全てが画一的で庶民的な、イギリス産チェダーチーズであった。チーズでさえ、フランスとイギリスではこうも香りが違うのか…と感じた出来事である。
チーズが好きだと思っている人はもちろんのこと、苦手だと思っている人も、是非フランスのチーズを味わってみてほしい。そのまろやかな風味と共に、きっとフランス独特の香りを感じるはずだ。(y)