日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

TDKリコール製品火災に思う、メディアと経済団体の役割

2013-02-25 | ニュース雑感
TDKのリコール中の加湿器が、長崎老人施設の死亡火災事故の原因になったのではないかという問題について、企業と関係団体の社会的責任あり方の観点から少し考えてみます。

問題の製品は98年9月から販売を開始、その後発火の危険性が判明したため99年1月にリコールを届け製造・販売を中止したと言います。リコール後のアナウンス活動は、新聞告知、折り込みチラシなどでおこない(これがどの程度のものであったのか詳細は把握しておりません)、その後はホームページでの呼びかけに専念する形となったとか。

この対応が果たして十分なものであったのかが問題の焦点となっているようですが、企業の製品リスク管理の中でもかなり難しい危機対応であると思われます。一方で製品事故の防止はモノづくり企業の果たすべき責任としてその最上位に位置するものでありながら、他方で同時に自社製品のリコールを継続的に大きく世間にアナウンスすることは大きなコスト負担と企業イメージの著しい低下リスクを確実に負うことであり、TDKの判断もその狭間で揺れていたのではないかと推測されるところです。

同じような死亡事につながったリコール製品であるリンナイのガス給湯器やパナソニックの石油ファンヒーターの場合には、一酸化炭素中毒という人命直結のリスクの高さを感じさせるものでありますが、製品の「発火の恐れ」を果たしてどうとらえるべきなのか、も判断の難しいところではあります。TDKの擁護をするわけではないのですが、「発火」も大きなリスクであることには違いないとはいえ、イコール「死に至るリスク」であると捉えた対応まではしにくかったのも偽らざる事実ではないでしょうか。

実際にネットで「発火、リコール」で検索をかけるとかなりの数の製品情報があがってきますし、その中で耳にしたことのあるものはほんの一握りに過ぎないということにも驚かされるところであります。私も検索で上がってきた全部のリコール製品をチェックしたわけではありませんが、この中のひとつやふたつが我が家に存在してもおかしくはないのかなとも思え、潜在的な事故リスクはどこの家庭にも潜んでいると感じさせられるところです。

もちろん製品を製造したメーカーには、企業イメージよりも事故リスク回避を優先した最大限のリコールアナウンスの努力は当然に求められることであるとは思いますが、十分な効果を得る行動をとるためにはメディア広告費等莫大なコストが必要になるのであり、一企業の限界を補てんする意味で社会的役割を担っている関係機関には積極的な協力を要請したいところであります。その最たる先が、大手メディアと経済団体でしょう。

大手メディアはその社会的な役割から考え、製品リコール告知については1回の記事掲載のみではなく専用紙面を作る等無償での継続アナウンス協力をしてはどうでしょうか。欠陥製品を製造したことは当該企業の責任ではありますが、この製品によって最終的に被害を被るのは国民であり、大手メディアは国民生活を守るという観点から、自己の広告ビジネスを離れて紙面提供する姿勢があってもいいのではないかと思うのです。また、これに先立って経済産業省がリコール製品リスク・ランクを決め、ランクによって掲載頻度を変えた対応を大手メディアに要請する等の国としての支援があってもいいかもしれません。

もうひとつは経済団体の協力です。経団連のような大手企業がメンバーに名を連ねる経済団体は、加盟企業のリコール問題についてメンバーの不祥事対応につき積極的な対応をすべきなのではないかと思うのです。具体的に何をするのかですが、先の大手メディアスペースを使ったアナウンス素材の制作や定期的な専門折り込み資料の制作と全国民への配布など、一企業レベルでは継続が難しい施策に取り組むなどやれることはたくさんあると思います。経済団体はメンバー企業の既得権擁護活動に腐心するのはもはや時代遅れであると早く気がつくべきであり、その存在価値を示すためには消費者視点での活動に軸足を移していくべき時代になっていると思うのです。

リコール製品の回収漏れによる事件は本当に痛ましい限りですが、いかに大企業と言えども一企業にできることにはおのずと限界があり、当事者企業がいかに反省の弁を述べ再発防止を宣言しようとも、他の企業への大きな波及効果まではおよそ期待できないでしょう。メディア、業界団体、官僚等々、個別企業と消費者の間に入って我々の生活を守るべき立場にある人たちが、利益度外視でその社会的役割を再認識して、できる限りの対応を前向きに考えて欲しいと切に願うところです。

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