日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

大不況到来に思う、今再び「安全性低下」「偽装」への不安

2008-12-19 | 経営
ニュースは連日、不景気な話ばかり。こちらも不景気ネタを続けます。

今週初めに大不況の到来によってトレンドが変わる話をしました。当然のことですが、「価格-安」を求めるの傾向が強くなり、「質」の問題は徐々に端に追いやられていくのではないかと…。消費者が「価格-安」を求め、「質」は購買決定要素としてのポジショニングが下がるとしたら、やがて再びデフレの傾向が強くなるかもしれません。

一方の企業は、厳しい収益環境の中で消費者の求める「価格-安」に向けた競争を強いられることになります。ここで気をつけなくてはいけないのは、「価格ー安」と「質-高」は確実に、トレードオフの関係にあるということです。すなわち、より「価格-安」をめざした商品を作りだそうとすれば、一定割合で「質-高」は失われていくのです。

消費者側は「価格-安」を優先はするものの、今の時代の流れの中では危険を感じさせるような「質-低」は絶対に容認してくれません。どこまでが、消費者が受け入れられる「質-低」であるのか、その部分は十分に考えた上で「価格-安」戦略を練る必要がある点は絶対に忘れてほしくないと思います。今思えばの話ですが、前回の金融危機以降のデフレ傾向の中で、「なるべく安く」を実現するために一部安易に生産・加工を中国へシフトした食品業界。結果として「質」において安全性を脅かす部分にまで入り込むことになりました。こうなってしまっては、これは安全性への配慮を欠いたいき過ぎた価格低下戦略であったと結論づけざるを得ないのです。

もうひとつ今から懸念するのは、「価格-安」を目指すあまりの意図的な「質」の低下とその隠ぺいです。デフレ進行による価格低下競争の激化はそのまま製造コストダウン競争になる訳で、企業防衛のあまりついつい違法と知りつつ、“禁断の手段”に手を染めたくなる誘惑が経営者を襲う危険性もあると、今の段階から十分に理解をしておく必要があるのです。建築偽装、原材料偽装、産地偽装、消費期限偽装、使い回し偽装…、続発する「偽装」問題でも分かるように、“禁断の手段”は明らかなコンプライアンス違反であり(法令違反であるかどうかは別として)、結果として必ず企業の崩壊につながることなのです。

この点の防止をどうするのかですが…。
人間は弱いもので、これは経営者とて同じことです。つまり、窮地に追い込まれれば、「一度ぐらいはいいだろう」で“禁断の手段”に手を出してしまうことも、十分にありうるのです。そして「一度ぐらい」が経常化して、最後は内部告発によって事実が明るみに出て企業は崩壊する、最近の「偽装事件」のお決まりのパターンです。コンプライアンス違反を止められない一番の理由は、「トップの関与」に他なりません。すなわちトップの暴走抑制策を作ることが一番の防止策になるのです。

では、トップの暴走抑制策をどするかです。自らを律するためには周囲の監視の目を強化することが一番です。そのために目下のことろ一番有効な策は、外部「ヘルプライン」の設置ではないでしょうか。経営が関与しない中立な第三機関に内部通報の受付窓口を委託し、トップも含めた社内不正行為の抑止力とするとともに、組織の自浄作用を強化するのです。このような「外部窓口」があることで、トップの“禁断の手段”に傾きかけた誤った判断も思いなおすきっかけがつくれると思うのです。
(「こんな時に、金額はともかくヘルプライン契約で新たな出費などとんでもない」と感じられた方、そんな考え方が最も危険なのです。)

今回のような急激な景気下降局面では、企業は規模の大小を問わず存亡をかけてあらゆる戦術を検討することになります。このような重大局面にあってもビジネスに携わるすべての人は、「疎かにしてはいけないもの」「犯してはいけないもの」は何なのか、それだけは常に意識をし良識ある行動を心がけて欲しいと切に思います。