日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

来年も続く?景気下降局面のトレンド「節約」と「自己啓発」

2008-12-05 | マーケティング
日経MJ紙「今年のヒット商品番付」、トーハン調べ書籍の「年間ベストセラー」がそれぞれ発表されました。

東の横綱は「ユニクロとH&M」、西の横綱は「セブンプレミアムとトップバリュ(いわゆるプライベート・ブランド商品)」でした。まず、不況になるとその安さゆえ売上を伸ばすユニクロ。H&Mは安いのにデザインの豊富さがウリのスウェーデン発の新ブランドです。一方西のプライペート・ブランド商品は、宣伝広告費やパッケージデザイン費などを大幅にカットし、コストダウンを図ったもの。今年は品数も大幅に増えて一気にスーパーの主役に躍り出る勢いでした。この東西横綱、どちらも「安くても高品質」が商品特性です。今年の消費トレンドを一言で言うなら「節約志向」といった感じでしょうか。

その他もランキング上位にこの流れは強く、東の大関に「低価格小型パソコン」、西の小結には「プレミアムローストコーヒー」(マクドナルドの120円のこだわりコーヒーです)が名を連ねており、「安くても高品質」「節約志向」の商品が居並ぶ結果となりました。まさに景気の下降局面入りを絵にかいたような傾向と言えそうです。

景気自体は上半期から下降気味ではあったものの、悪化を確実なものにしたのは秋の「リーマンショック」以降のハズなのですが、年間を通しての結論がこの傾向。心理効果のなせる技とでも言うのでしょうか。かなり冷え込んで年末をむかえたのは動かし難い事実のようです。さらにこの12月のボーナスシーズンから、いよいよ消費者が懐で感じる景気悪化の実感が始まる訳で、この先行きどこまで消費マインドが落ち込むのか、ちょっと怖い気がしてしまいます。

一方トーハンが3日発表した書籍の「年間ベストセラー」を見てみると、トップこそハリポタですが、文芸本は陰に追いやられ売れスジ傾向は明らかに「自己分析」「自己開発」「自己啓発」です。トップテンでは、2位に自己啓発モノである「夢をかなえるゾウ」が入り、また「自己分析」に属するJ.Jamais著の血液本が一挙4冊もランクイン。その他、脳学者茂木健一郎氏の「脳を活かす勉強法」も10位に入っています。

確かに、最近の書店の店先の“平積み”は、「自分を○○する!」「成功する人の○○」「○○力」…などの書籍ばかりが目につき、やたらめったらに売れているようです。本田直之氏のレバレッジシリーズや出せばヒット勝間和代氏の著作も、このジャンルに入るものばかりです。なぜ、「自己分析」「自己開発」「自己啓発」本が売れるのでしょう。実はこれ、景気の流れとも無縁ではないように思います。

昨年来のサブプライム問題に端を発した景気下降局面入りは、一面で先の「ヒット商品ランキング」にみる「節約」傾向を確実に生み出しつつ、一方でいつ来るやも知れぬ“底なし不況”に備えて、自己を知り自己を鍛えて乗り切る以外にない、という“国民的決意”を生み起こしてきたのではないかと思えるのです。その意味では、過去に例がないほど皆が生き残りをかけ自己の磨き上げに努力しているのかもしれません。

これから来年に向けて、ボーナスや給与の減額や雇用調整による失業率上昇などから、景気の悪化はいよいよ国民一人ひとりの「実感局面」に入っていきます。この年末に一年を振り返って示された傾向は、来年はますます明確な形になっていくように思えます。来年に向け「節約」と「自己啓発」は、引き続きマイナス局面にあるであろう消費動向を上向きに引っぱる数少ないキーワードになるのではないでしょうか。