日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

経営のトリセツ32 ~ 社長は“社内サービス業”に徹する時代

2008-06-12 | 経営
「ホスピタリティ」のお話は以前少し書いたかもしれませんが、大切なことなので今一度。今回は「組織内ホスピタリティ」という観点から。

サービス業における近年の成功のキーワードのひとつに「ホスピタリティ」があります。「ホスピタリティ」とは、「思いやり」とか「丁寧にもてなすこと」などと訳されるようです。「高くても質がいい」とか「良くて安い」とか、時代時代で高く評価されるサービスの基準は移り変わります。「ホスピタリティ」は、ひたすら「安く」を追い求めたデフレ時代の終焉とともに、デフレに疲れた時代の要請として消費者の心理状態に起因して必然的に表れたトレンドでもあるのです。

なぜいきなりサービス業のトレンドの話をしたのかですが、従業員一人ひとりは職場を離れれば一消費者であり、サービス業のトレンドの創造・構成要員です。ですから、企業の経営者は業種を問わず社内の人の管理を円滑にするためには、サービス業のトレンドに学び、一消費者である従業員の人たちが今どんな事やモノを望んでいるのか、好んでいるのか、好感をもっているのか等を知る必要があると思うのです。すなわち、従業員を顧客に見立てて今のサービス業の姿を自身にダブらせリーダー像を作り上げることが、成功する経営者への近道だと思えるのです。

バブル崩壊後「停滞」と「デフレ」の時代には、成果主義とそれに根ざしたリストラが幅を利かし、組織内のギスギス感は過去の日本で例をみないほどの状況におよびました。疲弊した組織の中で景気がようやく回復の兆しを見せた頃から、働く人の多くが組織に求めたモノは、消費経済のトレンドとも符合する“失われた10年”に忘れ去られていた「優しさ」だったのです。すなわち、今組織を元気づけ前に前に進ませるものは、強力なリーダーシップよりも部下により近しい考えでコミュニケートできるリーダーの資質ではないのかということ。すなわち今求められているのは、「ホスピタリティ」あるふれるリーダー像ということになるのです。

「サーバント・リーダーシップ」の考え方もまさにそれです(http://blog.goo.ne.jp/ozoz0930/e/fa4bfde40c76b1fe918ea6bac1f80eb2 参照)。書店のビジネス書籍コーナーに所狭しと並べられる「コーチング」関連の本の数々も、伝えたい内容は部下とのコミュニケーションという、過去「鬼になれ!」と言われた指導者に対して「相手の立場で話をせよ」「目線を揃えて考えを聞き出せ」と「ホスピタリティ」を説いているのです。

では、経営者は具体的に何をするべきなのか?です。
例えば、評価制度で言うなら、定量評価偏重の「成果主義」は方向修正が必要でしょう。成果に対する評価を捨てる必要はありませんが、いかに定性評価を上手に加味した「体温を感じさせる評価制度」に移行するかがポイントかもしれません(持論としてこの点は明確なモデルパターンがあるのですが、長くなるのでまたの機会に譲ります)。

人事施策で言うならば、「多く休ませては損」「休む暇があったら働け」はもう捨て時です。休む時は休ませ、オンとオフの両立を手助けし、生活の充実感から仕事に対する新たなエネルギーを生ませるように仕向けてあげる、そんな配慮ある人事制度の見直しも有効な施策のひとつでしょう。「ライフワーク・バランス」などという言葉が、ごくごく一般的に使われるようになった今、このような人事施策の見直しは経営として積極的に考えるべき問題になっていきてもいるのです。

もうひとつ、経営者として重要な「ホスピタリティ」は「人を育てる」という気持ち。ここで、前回とのつながりが見えましたね。「人の教育にカネを惜しむな」「人材教育は継続してこそ意味がある」等々、詳しくは前回(経営のトリセツ31)参照です。

「サーバント・リーダーシップ」の考え方は個人的には大変共感するところ大なのですが、これを紹介した社長方からは「経営者が召使は行き過ぎじゃないの」という抵抗感を示す声も聞こえています。ならば、「サーバント=召使」までは求めません。せめて、従業員の方々を顧客と見立てた「サービス業」と考えましょう(基本は同じことなのですが…)。中小企業の社内活性化は、「ホスピタリティ」をキーワードにして社長自ら対従業員は「サービス業」に徹すること。まずは、できるとこから手をつけてみてください。社長一人でも始められる「社内ホスピタリティ」はたくさんあります。