日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

SONY株主総会に見る「委員会設置会社」の功罪

2008-06-20 | 経営
IRの教材としている毎年の個人的恒例行事、ソニー株式会社の株主総会に行ってまいりました。

ソニーの株主総会と言えば、出井前社長。トップ在職時に個人株主重視のIR策を明確に打ち出し、株主向けの強いアピール政策をとった結果、在職10年間に大崎の旧本社体育館での数百人規模の総会をホテルの大会場を3~4か所同時設営する7000人規模の総会にまで成長させた、“総会の達人”でありました。

出井氏の総会での立ち振る舞い、的確かつ情感あふれるコメントは実に見事でした。業績不振で引責した05年の総会においても、氏はソニーイズム溢れる真摯な対応に徹し、開会当初は極度に張りつめ攻撃的な質問を繰り返していた会場を、2時間の後には、十分になごませかつ会場一体の“応援団ムード”まで作り上げてしまうその“名人芸”に、心から感心させられ感動すら覚えたものです。

氏の退任が05年。今年は現在のストリンガー=中鉢体制になって3度目の総会となります。ストリンガー=中鉢体制以降の総会はと言えば、やはり英国人ストリンガー会長の言葉の壁もあり、また小粒な技術者イメージの中鉢社長からは、どうもソニーイズムが感じられない、終わってみればいつもどこか不満な総会が続いています。今年に関して言えば、質問が集中した「配当問題」と「トップ5名の個別報酬開示要求問題」に対する受け答えの歯切れの悪さに、特に顕著でした。

ストリンガー会長をして「個別報酬開示は日本的な経営を踏まえて控えている」とまで言わしめた、出井時代には決してなかった「前向きな姿勢」を感じさせない、何かに気を遣っているかのような受け答えは、明らかにソニーイズム(=フロンティア・スピリット)に反するものです。「何かに気を遣っているような受け答え」は、悪く言えば慇懃な印象さえ与え、まるで当局の管理に気を遣い思ったことも決してストレートには口にしない、銀行のような雰囲気さえ感じたのです。

総会の雛段を見ながら、社内経営陣に気を遣かわせ“ソニーらしさ”を奪っているもの、それはもしかすると今年で導入から丸5年を経た「委員会設置方式」の取締役会ではないのだろうか、と思いました。「委員会設置方式」は、03年に日本の企業としてはトップを切ってといえるタイミングで、出井体制下のソニーが取り入れた欧米型の経営管理体制です。経営管理と業務執行を完全に分け、多数の社外取締役による経営の監視体制を確立させたガバナンスの強化策には、市場からも「さすがソニー」と絶賛されたものでした。

しかしながら、取締役の大半を社外取締役で占め、言わば「経営監視体制」を強化したとも言えるこのやり方は、結果として“他人の目”で見る経営に対する管理の厳しさが浸透することになり、ガバナンス的にはプラスである半面、自由で快活なソニーの社風を現経営陣の経営マインドから奪ってしまったのではないかと思われるのです。

出井氏がトップを務めていた当初の2年は、まだ制度も走り出しであり、その影響も少なかったのかもしれません。現ストリンガー=中鉢体制の3年間は、明らかに大きな変化が生まれていると感じされられます。年々手堅さを増す株主総会での受け答えからは、現経営者のスケールの問題も確かにあるのかもしれませんが、「委員会設置方式」浸透の影響は否めないのではないかと思っています。

03年以降大手企業では「委員会設置方式」導入が相次ぎ、導入は優良企業の証であるかのような扱いすら受けている昨今ですが、ソニーのような個性的かつ先進的企業においては、このように必ずしもプラスばかりに働いているとは言い難い訳で、制度そのものの問題点とは言わないまでも、若干の疑問点は感じざるを得ません。

現体制下では、毎年株主総会で「ソニーらしさの復活」「技術のソニーの復権」を口にする株主が“応援団的立場”から相次いで質問に立っています。業績面では復活を遂げてきた同社ですが、マインドや風土に及ぶ真の「ソニー復活」のカギは、ここまでソニーを支えてきた技術の問題ではなく、事務系社長出井氏が残した制度問題をいかに凌駕していくかにかかっているのかもしれません。