日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

日本水連の官僚的“御用体制”を突き崩した“黒船”「スピード社」

2008-06-11 | ニュース雑感
話題のスピード社水着問題。日本水連は昨日ようやく北京五輪に向けた苦渋の決断をし、その内容を発表しました。

結論は北京オリンピックでは、水連指定の国内3社以外の水着でも選手の意向で好きな水着を選んでよい、というもの。我々一般人から見れば、「選手が自分の好きな水着を着れる」という至極当たり前の結果に落ち着いた形です。なぜこんなおかしな事態に至ったのか、その理由を探っていくと、ここにも日本的な官僚文化の悪影響が見てとれるのです。

そもそも、水連指定の3社とは、ミズノ、デサント、アシックスのスポーツ用品最大手の3社です。その3社にオリンピック用スイムウェアの発注を集中させ、指定業者として独占権を与える代わりに水連への有償、無償の莫大な支援を引き出すというやり方なのです。まさに“御用商人方式”そのもの。“お上”とのパイプという無形の価値を創造し、特定の資力ある少数業者に出入りの権利を付与する江戸時代から脈々と続く、日本的官僚の「既得権ビジネス」とまったく同じ構造がそこにあるのです。

水連はどのような方々が実質運営している組織なのか存じあげませんが、少なくともどこかの官庁(文部科学省? )の息がしっかりかかった“公的機関”でしょうから、表向きの「顔」はともかく実際の運営は「官」の関与が少なからずあるハズです。「官」が入れば決まって形づくられるのは、市場原理無視の「既得権ビジネス」による管理構造の創造と利権の確保です。囲い込まれた特定企業同士は表向きの競争を続けながらも、お互い共同戦線を張りながら「特定少数独占体制」を守ろうとするのです。

そうなると、市場原理は働かなくなり健全なマーケット形成や業界発展にも支障をきたすようになります。今回のスピード社問題はまさに、鎖国状態のオリンピックスイムウェア市場に市場原理の後楯によって突如割り込んで来た“黒船”だったのです。

昨年まで、英スピード社が開発したレーザーレーサーのような、体の凹凸を人工素材で埋めかつ強力な体系矯正をおこなうようなものが、国際水連に認められるかどうか微妙な状態が続いていたと聞きます。日本の“御用”3社も当然高い関心をもって見ていたことには違いないのでしょうが、各社北京前には多額のコストがかかるこの分野の開発には本腰を入れない、という“暗黙の合意”の下、「静観」を決め込んでいたことは想像に難くありません。

技術的にみても世界最高峰の3社ですから、時間をかけて開発していれば、スピード社並の商品をつくることはさした問題ではなかったハズ。“御用企業”の立場を守るために多額の支援負担を強いられた結果としての、足並み揃えでの出費抑制目的の「開発先送り」「静観」だったとすれば、まさに市場原理を忘れたこの愚行、水連自身が作り出したもの以外の何ものでもないということになります。

優れたモノは利用者に支持され、必ずマーケットを動かします。それが市場原理というものなのです。今回、スピード社のレーザーレーサーが、“御用3社”独占の流れに待ったをかけたのは、まさに市場原理だった訳なのです。

“お上”の誤った保護政策による既得権ビジネスの展開によって市場原理を逸脱することは、特定事業者の利益が意図的に守られる分、利用者が必ず損をするのです。これは、日本の携帯電話ビジネスはじめ、過去の多くの事例がいみじくも教えてくれます。今回はその損をする利用者が、北島康介をはじめとした「水泳オリンピック日本代表選手」たちであり、北京で金メダルを期待する世論というマーケットの声に後押しされて、誤ったやり方にスポットが当たり矯正されるに至ったのです。

過保護な“護送船団方式”による市場原理を無視した競争抑制政策が、結局拓銀や長銀などの破綻の悲劇を招いた金融界の例を出すまでもなく、官僚的発想の「御用企業方式」のビジネスは、利用者にとって「百害あって一利なし」。他のスポーツ団体はじめ官の息が少しでもかかった組織の皆さんは、この機会に自分たちと企業とのかかわり方が市場原理にかなったものであるかどうか、「既得権ビジネス」形成になっていないかどうか、ぜひとも自問自答して利用者・受益者の利益を損なうことにならないよう、正しい目で検証・矯正をして欲しいと思います。