※閉館したようです。
泥湯温泉にある3軒の宿のうち「豊明館」だけは、あまりに静まりきった佇まいゆえに営業しているのか判然とせず、あるいは訪れても敷地にチェーンが張られていたため、私は今まで訪れたことがありませんでしたが、ネット上では比較的新しい入湯記がいくつか見受けられたので、佇まいにビビッて訪問しなかったのは私の勇気が無かったため、チェーンが張られていたのは運が悪かったため、と判明し、某日改めて行ってみることにしました。
ちゃんと「入浴だけでもできます」と記された看板だって表に掲示されているんですね。こういうわかりやすいものを見落とす私の節穴だらけの視覚には自己嫌悪を催します。
玄関の横には木工品を陳列販売しているコーナーがありました。付近には木地山という場所があって、その名の通り嘗ては木地師が多く暮らしており、今でも湯沢市は秋田県で最もこけし職人が多いんだそうですが、この店頭に並んでいる木工品は木地師と何か関係あるのでしょうか。そういえばお隣の旅館は「小椋旅館」ですが、小椋姓は典型的な木地師の姓名であり、祖先を追ってゆくと近江国(滋賀県)愛知郡小椋庄にたどり着くことは、民俗学の世界では有名な話です。
玄関で入浴を乞うと、奥の方から耳の遠いお爺ちゃんが現れ、料金の支払いと引き替えにこのマッチを手渡してくれました。さも当たり前のようにこのマッチをいただきましたが、ネットで調べると、このマッチは当施設おなじみのものなんだそうですね。
浴室の入口は玄関とは別の、こちらの扉でした。中に入ると、そこは小さな休憩スペースとなっていますが、この時は誰もいませんでした。
壁には工芸品やらポスターやらいろんなものが飾られていましたが、その中でも目を惹いたのが懐かしい「なめ猫」のポスターでした。私も子供の時は「死ぬまで有効」の免許証を持ってましたっけ。たしか以前はここに大門刑事(渡哲也)のポスターが貼られていたはずですから、ここにポスターを貼っている人は明らかに面白さを狙ってチョイスしていますね。
入浴についての注意書きには「長くても40分から1時間 あまり長湯しると体に良くない様です」と喚起されていました。とにかく入りすぎはダメよ、ということですが「長湯しる」という書き間違いがちょっとユニーク。
脱衣室は至って簡素で、くくりつけの棚があるばかり。湯治宿っぽいこの雰囲気、好きです。
浴室も装飾性の無いシンプルな造り。シンプル・イズ・ベスト。静かに黙ってお湯に浸かる、ただそれだけのために存在する空間。東北の山奥の鄙びた温泉宿はこうでなくっちゃいけませんよね。
浴槽は四角い内湯がひとつのみ。床には羽目板が敷かれており、排水はその隙間から下へと落ちてゆきます。浴槽は3~4人サイズで、底はスノコ状。室内には木材が多用されて温かみと柔和さが感じられ、また綺麗に維持されているので、とても気持ち良く使えました。
浴槽の底には灰色の沈殿が溜まっており、誰も入っていない状態ですと画像左(上)のようにお湯が上澄みになるので底まではっきり黙視できますが、私が湯舟に入ってお湯が攪拌されると沈殿が一気に舞いあがって、画像右(下)のように底が全く見えないほどネズミ色に濃く混濁しました。透明度は15cm~20cmほどでしょうか。混濁の前後の画像をこのように比較すると、その違いがよくわかります。一度濁るとなかなか沈殿してくれないようですので、他にお客さんがいないタイミングに訪れたからこそ、こうした透明な状態の湯舟を見られたのかもしれません。
男女両浴室の仕切り壁下部中央からちょこんと突き出た湯口からトポトポと源泉が注がれており、そのお湯からは明礬らしい匂いが漂い、口にするいかにも酸性明礬泉らしい収斂する酸味が感じられますが、蔵王や草津のようにストレートに舌や口腔を刺激せず、どこかにワンバウンドしてテンポが遅れてくるような、ちょっぴりマイルドさを伴っているような酸味でした。なお源泉のみでは熱いため、ホースから水でチョロチョロと加水されています。
人が湯船に入るとオーバーフローしますが、そうでない時は浴槽側面の穴から排湯されています。浴室の床に着色や汚れが見られないのは、このためだったんですね。
浴室から裏手の廊下にまわって奥へ進むと、こんな打たせ湯が仕切りを挟んで男女一本ずつ設けられていました。こちらのお風呂は「滝の湯」という名前ですが、その由来はこの打たせ湯なのでしょうか。
湯屋の裏手を望むと、奥の方へ黒いホースが伸びていました。あの先が源泉湧出地帯なんでしょうね。
今回は終始一人占めでお風呂を楽しめました。泥湯のお湯には古く鄙びた雰囲気が良く似合います。湯上がり後にお爺ちゃんへ挨拶しに行くと、お爺ちゃんは玄関横の座敷で高鼾をかいており、起こすのは忍びないのでそのまま無言で退館させていただきましたが、そんなのんびりとしたお爺ちゃんの人柄が象徴するように、実に長閑なお風呂でした。
滝の湯
酸性-アルミニウム-硫酸塩泉 75.3℃ pH2.1 溶存物質1077.8mg/kg 成分総計1421.5mg/kg
H+:8.01mg, Na+:10.0g, Al+++:40.0mg, Fe++:14.9mg,
S2O3--:0.6mg, HSO4-:165.3mg, SO4--:617.8mg,
H2SiO3:195.2mg, CO2:343.3mg, H2S:0.4mg,
秋田県湯沢市高松字泥湯沢25 地図
0183-79-2362
立ち寄り入浴時間不明
300円
備品類なし
私の好み:★★★
泥湯温泉にある3軒の宿のうち「豊明館」だけは、あまりに静まりきった佇まいゆえに営業しているのか判然とせず、あるいは訪れても敷地にチェーンが張られていたため、私は今まで訪れたことがありませんでしたが、ネット上では比較的新しい入湯記がいくつか見受けられたので、佇まいにビビッて訪問しなかったのは私の勇気が無かったため、チェーンが張られていたのは運が悪かったため、と判明し、某日改めて行ってみることにしました。
ちゃんと「入浴だけでもできます」と記された看板だって表に掲示されているんですね。こういうわかりやすいものを見落とす私の節穴だらけの視覚には自己嫌悪を催します。
玄関の横には木工品を陳列販売しているコーナーがありました。付近には木地山という場所があって、その名の通り嘗ては木地師が多く暮らしており、今でも湯沢市は秋田県で最もこけし職人が多いんだそうですが、この店頭に並んでいる木工品は木地師と何か関係あるのでしょうか。そういえばお隣の旅館は「小椋旅館」ですが、小椋姓は典型的な木地師の姓名であり、祖先を追ってゆくと近江国(滋賀県)愛知郡小椋庄にたどり着くことは、民俗学の世界では有名な話です。
玄関で入浴を乞うと、奥の方から耳の遠いお爺ちゃんが現れ、料金の支払いと引き替えにこのマッチを手渡してくれました。さも当たり前のようにこのマッチをいただきましたが、ネットで調べると、このマッチは当施設おなじみのものなんだそうですね。
浴室の入口は玄関とは別の、こちらの扉でした。中に入ると、そこは小さな休憩スペースとなっていますが、この時は誰もいませんでした。
壁には工芸品やらポスターやらいろんなものが飾られていましたが、その中でも目を惹いたのが懐かしい「なめ猫」のポスターでした。私も子供の時は「死ぬまで有効」の免許証を持ってましたっけ。たしか以前はここに大門刑事(渡哲也)のポスターが貼られていたはずですから、ここにポスターを貼っている人は明らかに面白さを狙ってチョイスしていますね。
入浴についての注意書きには「長くても40分から1時間 あまり長湯しると体に良くない様です」と喚起されていました。とにかく入りすぎはダメよ、ということですが「長湯しる」という書き間違いがちょっとユニーク。
脱衣室は至って簡素で、くくりつけの棚があるばかり。湯治宿っぽいこの雰囲気、好きです。
浴室も装飾性の無いシンプルな造り。シンプル・イズ・ベスト。静かに黙ってお湯に浸かる、ただそれだけのために存在する空間。東北の山奥の鄙びた温泉宿はこうでなくっちゃいけませんよね。
浴槽は四角い内湯がひとつのみ。床には羽目板が敷かれており、排水はその隙間から下へと落ちてゆきます。浴槽は3~4人サイズで、底はスノコ状。室内には木材が多用されて温かみと柔和さが感じられ、また綺麗に維持されているので、とても気持ち良く使えました。
浴槽の底には灰色の沈殿が溜まっており、誰も入っていない状態ですと画像左(上)のようにお湯が上澄みになるので底まではっきり黙視できますが、私が湯舟に入ってお湯が攪拌されると沈殿が一気に舞いあがって、画像右(下)のように底が全く見えないほどネズミ色に濃く混濁しました。透明度は15cm~20cmほどでしょうか。混濁の前後の画像をこのように比較すると、その違いがよくわかります。一度濁るとなかなか沈殿してくれないようですので、他にお客さんがいないタイミングに訪れたからこそ、こうした透明な状態の湯舟を見られたのかもしれません。
男女両浴室の仕切り壁下部中央からちょこんと突き出た湯口からトポトポと源泉が注がれており、そのお湯からは明礬らしい匂いが漂い、口にするいかにも酸性明礬泉らしい収斂する酸味が感じられますが、蔵王や草津のようにストレートに舌や口腔を刺激せず、どこかにワンバウンドしてテンポが遅れてくるような、ちょっぴりマイルドさを伴っているような酸味でした。なお源泉のみでは熱いため、ホースから水でチョロチョロと加水されています。
人が湯船に入るとオーバーフローしますが、そうでない時は浴槽側面の穴から排湯されています。浴室の床に着色や汚れが見られないのは、このためだったんですね。
浴室から裏手の廊下にまわって奥へ進むと、こんな打たせ湯が仕切りを挟んで男女一本ずつ設けられていました。こちらのお風呂は「滝の湯」という名前ですが、その由来はこの打たせ湯なのでしょうか。
湯屋の裏手を望むと、奥の方へ黒いホースが伸びていました。あの先が源泉湧出地帯なんでしょうね。
今回は終始一人占めでお風呂を楽しめました。泥湯のお湯には古く鄙びた雰囲気が良く似合います。湯上がり後にお爺ちゃんへ挨拶しに行くと、お爺ちゃんは玄関横の座敷で高鼾をかいており、起こすのは忍びないのでそのまま無言で退館させていただきましたが、そんなのんびりとしたお爺ちゃんの人柄が象徴するように、実に長閑なお風呂でした。
滝の湯
酸性-アルミニウム-硫酸塩泉 75.3℃ pH2.1 溶存物質1077.8mg/kg 成分総計1421.5mg/kg
H+:8.01mg, Na+:10.0g, Al+++:40.0mg, Fe++:14.9mg,
S2O3--:0.6mg, HSO4-:165.3mg, SO4--:617.8mg,
H2SiO3:195.2mg, CO2:343.3mg, H2S:0.4mg,
秋田県湯沢市高松字泥湯沢25 地図
0183-79-2362
立ち寄り入浴時間不明
300円
備品類なし
私の好み:★★★
こんなレトロな雰囲気のいい旅館があったとは驚きです。「なめ猫」のポスターが貼ってあるなんて笑っちゃいますよね。
この豊明館さんって結構、私のツボにハマってますよ(*^^)v。泥湯に行ったら真っ先に訪問してみたいです。
最近は色々と忙しくてあまり遠くへ行けてませんが、K-Iさんのレポを拝見させていただいて、久しぶりに北東北へ行きたくなりました。
今度是非入ってみたいです。^・^
このたび泥湯の温泉卵を買ってみました。殻が真っ黒です。これは何の成分なのでしょうか・・・
でも次の日から少しずつ色があせてきて薄い茶褐色になりました。家に持ち帰り室温において起きましたら残念ながら4日くらいで変質してしまったようです。
鳴子の温泉卵は、鳴子の近くにある東北大学の何とか研究所の方が保存について調べたところ、殻の空気穴(?)に温泉の鉱物が詰まり密閉状態になるとのこと。
だから缶詰と同じ状態で何か月ももつと鳴子のお土産屋さんが言ってました。
泥湯のそれは当てはまらないのでしょうか~
卵の食あたりは怖いので危ないところでした。
>泥湯の温泉卵
箱根・大涌谷の黒タマゴが有名ですが、温泉卵の殻が黒くなるのは、鉄分と硫黄が結合して硫化鉄になるからですね。従いまして泉質によって黒くなったりなりにくかったりするかと思います。鳴子の温泉卵は長期間もつんですか?知りませんでした。ちなみに大涌谷の温泉卵は賞味期間2日ですが、温泉地によっては1週間以上大丈夫な温泉卵を売っているところもありますから、これもやっぱり泉質が左右するんでしょう。面白いですね。
ふきゆ荘はしばらく日帰り不可なんですか。情報ありがとうございます。造成泉とはいえ中山平では珍しい白濁湯で、しかも銅の含有量が多いことも特徴的ですが、再び日帰りでも利用できる日が来ることを祈っています。
そういえば最近は鳴子の湯めぐりチケット利用OKの宿が減少してきましたね。これも震災の影響でしょうか。
「ここは公衆浴場法第1条の入浴施設ではありません云々」と書かれた森林管理署による立て札なら以前からありましたが(尤も、その注意書きも、結論としては、何が起きても管理署は責任取りませんよ、という内容にすぎないんですが)、また新たに別の看板が立てられたんでしょうか…。だとしたら、確かにちょっと気になりますね。
新たなものではなくてよかったです(^^)
今年はもう奥々八九郎には行けそうにないので、来年に再び行きたいです。