ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

農業改革の後退

2016-12-05 13:10:00 | 経済・金融・税制

農政改革は停滞する。

農政改革とは農協改革に他ならない。自民党の若手のホープとされる小泉進次郎が前面に立って推し進めてきた農協改革は、今回のTPPの失敗により大きく後退するはずだ。

正直言って、若手の小泉には力不足、役不足であった。それほどに、農協と自民党農林族の関係は固い結束で結ばれている。農協は自民党議員の集票組織であるだけではない。

本来の農協は、農業に従事する人たちの共済組織であった。しかし、問題なのは、全国の農協を配下に置く全農である。全農は膨大な資金力を有する金融機関であり、保険(共済)会社であり、そして流通組織でもある。その業務は多肢にわたり、農業に従事する人で、農協と無縁でいられることは困難である。

そして、その巨大さ故に、官僚たちの天下り先であり、農家だか不動産経営者だか分からぬご老体の名誉の椅子を提供する場でもある。彼らが一体となって、縄張りに侵入してくる輩を排除する排他的組織でもある。

この農協を傘下に置きたくて、いろいろと画策しているのが、財務省である。巨大な金融機関でもあるJAだが、実は監督官庁は財務省ではない。農林水産省であることが、財務省にはどうにも我慢できないらしい。

決して口外しないが、住専問題に端を発した不良債権だが、この処理が遅れた最大の原因が農協である。住専は農協からの資金出資を受けていたがゆえに、住専を簡単に潰すことが出来なかった。

それゆえに不良債権の処理が大幅に遅れ、結果として不良債権そのものが増えてしまい、処理がますます難しくなった。そのことを恨みに思う財務官僚は少なくない。

かつて、父の小泉純一郎は厚生族といわれながら、裏では隠れ大蔵省派と揶揄されていた。事実、小泉首相はその在任期間中、大蔵省の意向に大きく背くようなことはしていない。

それに倣ったのか、息子の進次郎は財務省の意向を受けて、農政の中核たる農協改革に乗り出した。しかしながら、この農協改革に最も反対したのは、自民党農政族である。自由な経済活動(アメリカ的な・・・ではあるが)を掲げるTTPの流れもあり、改革有利と思われていた。

実際、安倍首相が公然と農政改革に前向きの姿勢を出していたことから、進次郎はかなり強硬に農政改革に立ち向かった。しかしながら、TPPが言い出しっぺのアメリカの撤退により、改革推進の空気はぶっ飛んだ。

かつて小泉純一郎は自民党の中にあって反主流ゆえに冷や飯を喰らい、その立場の弱さゆえに悲哀を舐めた苦労人であった。それゆに、常に党内のバランスを読み、自分の置かれた立場を考慮して、きわどく生き残ってきた。

いくらYKKなどとマスコミから持て囃されても、日和見を止む無くされる弱小政治家であることに変りはなかった。しかし、忠コ、金丸の死により経世会に弱体化が見えた機を逃さなかった。

派閥の親分が稀に見るボンクラ森であったことも幸いした。森は小渕首相の死後、ちゃっかりと首相の座に居座ろうとしたが、世間がその勝手さを許さなかった。この森という政治家は、驚嘆に値するほど世情に疎い。

急死した小渕の後継があまり上手くいかなかったのも幸いして、小泉純一郎は「自民党をぶっ壊す」と世間に期待を持たせて選挙に勝って首相の座に付いた。これは奇跡といっていいほどの僥倖であることは、YKKの残りの政治家たち、その他の反主流派の政治家の末路をみれば明らかであろう。

小泉純一郎が生き残れたのは、反主流派として冷や飯を食っていた期間に、じっくりと雌伏して機を伺っていた忍耐の時期があればこそだ。ところが、今回、農政改革を託された息子の進次郎には、その苦労がない。

だから機を誤った。まさかトランプが当選して、TPP離脱などとは予想すらできなかった。クリントンからオバマへと続いた自由貿易、規制緩和路線が、ここにきて後退するとは思わなかっただろう。

それゆえに、小泉進次郎は詰め腹を切らされる立場に追いやられた。農政改革は今後も必要ではあるが、この場を乗り切るためには、誰かを人柱にせざるを得ない。果たしてこの苦境から、どう生き延びるのか。

もし、生き延びられたら、この若手政治家は一皮剥けると思いますが、その可能性はいささか厳しいようにも思えます。なによりも、農政改革の先送りは、日本の農業を大きく後退させる可能性が高いことこそ、真の危機なのですがね。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする