ここ数年、相続税の相談を受けると気が重くなることが少なくない。
何度も書いているが、相続があっても、相続税が発生するようなことはごく希なことだ。4%程度の確率に過ぎない。その原因は二つある。一つは基礎控除(5000万円プラス法定相続人一人につき1000万円)が手厚いことだ。
もう一つの要因が、不動産評価の特例にある。例えば土地の評価額(路線価)が一億円だとしても、居住用の減額特例(小規模宅地の減額特例)を受けると、要件さえ満たせば2割の評価で済む。つまり8000万円が減額されるので、預貯金等他の相続財産と合わせても楽々基礎控除の枠に入り、結果非課税となる。
もっとも財務省は、この基礎控除を減額して相続税の納付が増えるよう狙っているが、改正法案自体は継続審議状態で今年の国会を通過するかどうかは、いささか不透明だ。
ところが、小規模宅地の減額特例は国会で詳細を審議することがないせいか、年々要件が厳しくなっており、この特例を受けられないケースが増えてきている。まだマスコミ等にはあまり知られていないようだが、けっこうな問題となっている。
相続税は、人が死んだことにより生じる税金だ。実のところ、人が死ぬとき自宅で死ぬケースはそれほど多くない。大体100人に5人程度が家で死に、事故などで外で亡くなる場合を除けば、そのほとんどが病院等で死ぬこととなる。
病院で亡くなる場合はいい。問題は「等」の部分、すなわち老人ホームで死んだ場合だ。これが税務上、大問題となる。
例えばだ、ある高齢者が配偶者に先立たれ、子供は遠方に住んでいる上、幼い子供を抱えて余裕はない。年々一人暮らしがつらいが、狭い子供の家に世話になるのは現実問題無理だ。そこで少し高いが保証金などを払って老人ホームに入ることにした。
ちなみにこの老人ホームは、介護付き終身利用型有料老人ホームであり、隣地に病院が併設されている。また部屋は個室(38平米)あり、プライバシーも守られるタイプで安心して入居できる。
さて、実際入居してみたが、やはり高齢から何度か隣の病院に入院することはあっても、自宅に戻ることはなく、その老人ホームで亡くなることとなった。親を見舞う時に、自宅を聡怩オていつでも戻れるようにしていた子供たちは、高額な老人ホームであったが、それで良かったと納得していた。
ところがだ、その後相続税の申告の後、いささか厄介な事態に陥った。税務署から調査の知らせがあり、自宅において調査官から申告内容に問題があるので修正して欲しいと言われてしまったのだ。
まず問題の一つは、老人ホームに入居する際の保証金だ。約款をよく読むと、毎年15%づつ償却され、一定期間内に退所した場合には、未償却の保証金が返戻されることとなっていた。実際、これは相続人である子供さんの口座に入金されている。
この減額されて返金された保証金は相続発生時(死亡時)にはなかったものだから、遺族は申告不要だと思っていたそうだが、請求権はあるのだから立派な相続財産である。これは致し方ない。
だが、最大の問題は自宅の評価額であった。このお宅は古い家だが立派な日本庭園を構えた高級住宅地にある。老人ホームに居たとはいえ、住民票はこちらにあり、この家に長年住みづづけていたことも間違いない。
だから小規模宅地の特例の一つである居住用の8割減額を適用して申告していた。ところが税務署が言うには、この方の場合、住まいは老人ホームであるから特例の適用は認められないそうだ。
お子さんたちは、税務署の言い分に納得がいかず、最終的には裁判に至った。
実のところ、このようなケースでの争いが全国で多発した。その判決が平成22年、23年に幾つも出たが、結論から言うと大半が納税者敗訴であった。つまり国側(税務署)の主張が認められたのだ。
では、国側(税務署)が負けたケースとはいかなる内容だったのか。(正確には裁判ではなく、国税不服審判所の裁決です)
それは老人ホームへの入所が強制的である場合だ。現在、痴呆老人などが徘徊するような時は、条例により特別養護老人ホームへ強制的に入所されるようになっています。これは自らの意志による入所ではないので、病院への入院と同様に自宅はあくまで家であり、一時的な老人ホームへの滞在だと考えられる。それゆえ、特養老人ホームで死亡したとしても、生活の本拠はあくまで家である。税務署はそのように考えているようです。
これは国税庁のHPの質疑応答集にもアップされています。
私自身、いろいろと思うことはあり、必ずしも納得してはいませんが、現行の税務がこのような考えで行われてる事実は正しく認識したうえで仕事をしなければならないと考えています。
それゆえ、相続の相談を受けると、いささか気が重くなってしまうのです。だって、高齢等で痴呆までいかなくても自宅介護が難しく、やむなく老人ホームに自らの意志で入る高齢者は少なくないことを良く知っているからです。これを住まいの本拠を老人ホームに移したとして、居住用の特例から除くのは、いささか情がない気がしてならない。
困ったことに、今後もこの悩みは増える一方だと思う。それなのに、世間一般ではまるで知られていない問題でもある。やっぱり気が重いなぁ。
何度も書いているが、相続があっても、相続税が発生するようなことはごく希なことだ。4%程度の確率に過ぎない。その原因は二つある。一つは基礎控除(5000万円プラス法定相続人一人につき1000万円)が手厚いことだ。
もう一つの要因が、不動産評価の特例にある。例えば土地の評価額(路線価)が一億円だとしても、居住用の減額特例(小規模宅地の減額特例)を受けると、要件さえ満たせば2割の評価で済む。つまり8000万円が減額されるので、預貯金等他の相続財産と合わせても楽々基礎控除の枠に入り、結果非課税となる。
もっとも財務省は、この基礎控除を減額して相続税の納付が増えるよう狙っているが、改正法案自体は継続審議状態で今年の国会を通過するかどうかは、いささか不透明だ。
ところが、小規模宅地の減額特例は国会で詳細を審議することがないせいか、年々要件が厳しくなっており、この特例を受けられないケースが増えてきている。まだマスコミ等にはあまり知られていないようだが、けっこうな問題となっている。
相続税は、人が死んだことにより生じる税金だ。実のところ、人が死ぬとき自宅で死ぬケースはそれほど多くない。大体100人に5人程度が家で死に、事故などで外で亡くなる場合を除けば、そのほとんどが病院等で死ぬこととなる。
病院で亡くなる場合はいい。問題は「等」の部分、すなわち老人ホームで死んだ場合だ。これが税務上、大問題となる。
例えばだ、ある高齢者が配偶者に先立たれ、子供は遠方に住んでいる上、幼い子供を抱えて余裕はない。年々一人暮らしがつらいが、狭い子供の家に世話になるのは現実問題無理だ。そこで少し高いが保証金などを払って老人ホームに入ることにした。
ちなみにこの老人ホームは、介護付き終身利用型有料老人ホームであり、隣地に病院が併設されている。また部屋は個室(38平米)あり、プライバシーも守られるタイプで安心して入居できる。
さて、実際入居してみたが、やはり高齢から何度か隣の病院に入院することはあっても、自宅に戻ることはなく、その老人ホームで亡くなることとなった。親を見舞う時に、自宅を聡怩オていつでも戻れるようにしていた子供たちは、高額な老人ホームであったが、それで良かったと納得していた。
ところがだ、その後相続税の申告の後、いささか厄介な事態に陥った。税務署から調査の知らせがあり、自宅において調査官から申告内容に問題があるので修正して欲しいと言われてしまったのだ。
まず問題の一つは、老人ホームに入居する際の保証金だ。約款をよく読むと、毎年15%づつ償却され、一定期間内に退所した場合には、未償却の保証金が返戻されることとなっていた。実際、これは相続人である子供さんの口座に入金されている。
この減額されて返金された保証金は相続発生時(死亡時)にはなかったものだから、遺族は申告不要だと思っていたそうだが、請求権はあるのだから立派な相続財産である。これは致し方ない。
だが、最大の問題は自宅の評価額であった。このお宅は古い家だが立派な日本庭園を構えた高級住宅地にある。老人ホームに居たとはいえ、住民票はこちらにあり、この家に長年住みづづけていたことも間違いない。
だから小規模宅地の特例の一つである居住用の8割減額を適用して申告していた。ところが税務署が言うには、この方の場合、住まいは老人ホームであるから特例の適用は認められないそうだ。
お子さんたちは、税務署の言い分に納得がいかず、最終的には裁判に至った。
実のところ、このようなケースでの争いが全国で多発した。その判決が平成22年、23年に幾つも出たが、結論から言うと大半が納税者敗訴であった。つまり国側(税務署)の主張が認められたのだ。
では、国側(税務署)が負けたケースとはいかなる内容だったのか。(正確には裁判ではなく、国税不服審判所の裁決です)
それは老人ホームへの入所が強制的である場合だ。現在、痴呆老人などが徘徊するような時は、条例により特別養護老人ホームへ強制的に入所されるようになっています。これは自らの意志による入所ではないので、病院への入院と同様に自宅はあくまで家であり、一時的な老人ホームへの滞在だと考えられる。それゆえ、特養老人ホームで死亡したとしても、生活の本拠はあくまで家である。税務署はそのように考えているようです。
これは国税庁のHPの質疑応答集にもアップされています。
私自身、いろいろと思うことはあり、必ずしも納得してはいませんが、現行の税務がこのような考えで行われてる事実は正しく認識したうえで仕事をしなければならないと考えています。
それゆえ、相続の相談を受けると、いささか気が重くなってしまうのです。だって、高齢等で痴呆までいかなくても自宅介護が難しく、やむなく老人ホームに自らの意志で入る高齢者は少なくないことを良く知っているからです。これを住まいの本拠を老人ホームに移したとして、居住用の特例から除くのは、いささか情がない気がしてならない。
困ったことに、今後もこの悩みは増える一方だと思う。それなのに、世間一般ではまるで知られていない問題でもある。やっぱり気が重いなぁ。