ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

わらの女 カトリーヌ・アルレー

2012-05-14 13:13:00 | 

溺れる者は、藁をもつかむ。

警句として使われる言葉だが、正直あまり好きな言葉ではない。当然だと思うからだ。

私は溺れた経験こそ、ほとんどないが、それでも雪崩に巻かれたり、逃げ場の無い北アルプスの稜線上で雷雲に囲まれたりと、結構危ない経験はしている。

だから実感として分る。命の危険がひしひしと迫る状況下ならば、藁だって何だってつかみたくなるのが人間の本能だと思う。危機的な状況下で、的確な判断を下し、そ

れを実践することは相当な訓練を積まなければ無離だと思う。

だから相手を騙そうとする時は、危機的な状況を演出して、相手がパニックに陥るように導くことが大切だ。相手が混乱すればするほどこちらには有利になる。

表題の作品において、犯人が作り上げた騙しの構図はミステリー界屈指の悪辣さだ。鴨にネギを背負わせて、タレまで濃厚にぶっかけて、じっくりやんわりといたぶる。

しかも勧善懲悪ではなく、しっかりと逃げおおせる。無実の哀れな鴨を刑務所に残して、だ。あまりに悪辣で、容赦なく、絶望的な犯罪の構図。

楽しめる作品ではないと思う。だが一度読んだら忘れられないことも確かだ。溺れる者は、藁をもつかむ。分っちゃいるが、それでもつかんでしまうのが人間。

その人間の弱さをとことん追求した傑作だと思うが、好きな作品だとは言えませんね。あまりに残酷に過ぎるよ。

なお、この作品は映画化されていますが、小説と映画では最後が異なります。もし映画しか見てないようなら、あまりの違いに驚かれると思いますよ。

コメント (2)
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