夢は食べられない。
真剣にそう思っている。夢にうかれ、夢にとりつかれ、夢に自滅する人生なんて真っ平ごめん。本気でそう考えて生きてきた。
叶わぬからこそ夢。手に届かないからこその夢。遠くから眺めてこそ美しいのが夢。そうに違いないと信じ込んで生きてきた。
意識して夢に冷淡であるべく生きてきた。
夢が嫌いなわけではない。むしろ、私の本性は夢見がちな楽天家でさえある。だからこそ敢えて夢に距離を置いてきた。そうでないと、何時夢に呆ける怠け者の本性が顔を覗かすか分からないからだ。
そんな私でも夢に恋い焦がれ、夢の実現に真摯に努力を重ねる姿に感動を覚えないわけではない。やもすれば、羨望よりも嫉妬が勝るかもしれない。あるいは自己嫌悪かもしれない。だから、あまり夢には係りたくない。
ただ、困ったことに仕事柄、夢を実現しようと意気込む気鋭の起業志望者に会うことが偶にある。なるべく心を凍てつかせて話を聞くように努めている。冷静に客観的に話を聞くと、創業のプランの甘さなどの欠点が見えてしまうのが辛い。
だが、水を差すようなことは控えている。夢をつかもうと第一歩を踏み出した者に、余計な忠告は耳に入らない。どんなに誠意を尽くして説明しても納得してくれない。夢に賭け、夢をわが手につかもうとする情熱が、他人の忠言なんぞ価値を認めはしない。
当然である。きっと今まで散々言われてきたことだからだ。その逆風を乗り越えてきたからこそ、夢を実現する第一歩を踏み出したのだ。今さら後に引けようか。
それが分かるので、今は余計な差し出口は叩かぬことにしている。ただ黙って話を聞き、実務的な助言に終始する。内心の不安や懸念を顔に出さず、穏やかな表情を保って送り出す。
本当は成功して欲しい。これは嘘偽りのない本音だ。これまでに夢に賭け、夢に破れ、敗退していった者たちを少なからず見てきただけに、心から成功を祈りたい。
だが現実は甘くない。誰にでも成功の機会はあるが、誰にだって失敗の陥穽は待ち受けている。本当の勝負はこれからだ。失敗して夢を諦めるのは致し方ないが、それでも夢を諦めずに、再起を誓う者たちもいる。
敢えて言おう。失敗を知らずして成功は勝ちえない、と。失敗した時にこそ、その人の真価が見て取れる。失敗を恐れるものは、成功の栄誉をつかむことはない。失敗から学ばぬ者は、やはり成功の祝杯を飲み干すことは出来ない。
失敗するにせよ、成功するにせよ、夢の行先を傍らで見守ることは、案外つらい。これまでもそうだったように、これからもその葛藤は続くのだと覚悟はしているのだが、それでも迷うあたりが私の気の弱さなのだろう。
表題の作品は、幼い頃の夢を実現した弟と、途中で夢を諦めた兄の物語を描いた漫画だ。隠れたヒット作として知られていたが、ついに映画化までされてヒットしている。私は漫画のほうをじっくり読んできたので、映画はどうよと思っていたが、かなり評判は良いらしい。
たまたま機会があって映画館で観てきたが、上手にまとまっていたことに感心した。多分、原作を知らなくても十分楽しめると思う。でも、映画だけで楽しむのは、あまりにもったいない。是非とも原作の漫画も読んで欲しいです。
私は夢に冷淡ですが、夢がない人生なんて空しいとも思っているのです。まぁ、私の夢は決して叶わぬものであることも分かっているのですがね。