のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

『いのくまさん』

2007-01-02 | 展覧会
四国は香川県にございます丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
今年は1月1日から開館しております。
元旦から美術館開けてたって誰が行くんだって。
のろが行くんですよ。

と いうわけで猪熊弦一郎展 『いのくまさん』に行ってまいりました。

お正月恒例、青春18きっぷ活用の日帰り旅でございます。
乗り換え間違いも響きまして(瀬戸内の美しい海景を4回も拝めました笑)、所用時間は片道6時間ほど。
ま、おかげで『冷血』をすっかり読み終えることができました。
昨日のうちにご報告しようと思っていたのですが。さすがに疲れきっておりましたもので。





いのくまさん美術館、
のろの好きな美術館のひとつでございます。
まずもって正面の外観が素敵でございます。↓ぜひともワンクリックで拡大してご覧下さい。
香川の観光写真集 - 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館

建物はJR丸亀駅を出てすぐ右手、ほんとうに すぐ 右手にございまして
駅を一歩出て右を向くというと、こんな素敵なモノたちがばばーんと迎えてくれるのです。
上のリンク先には、館内の写真もございますね。
展示室の中央に丈の低いショーケースがございますでしょう。
あそこに展示されているのは、いのくまさんが世界各地で集めたさまざまなモノ(かわいらしいんです、これがまた)や
無数に制作されたらしい、小さなオブジェ(かわいらしいんです、これもまた)たちでございます。

建物のつくりもちょっとユニークでございます。
エントランスから3Fまで吹き抜けとなっておりまして、
各展示室の天井も充分に高く、たいへん開放的な雰囲気です。
3Fのから2F展示室の作品を見下ろすこともできます。
広々とした白い壁面に、いのくまさんのあんな作品こんな作品が並んでいるさまは
実に心楽しくなる光景でございます。

いのくまさん作品の常設展示の他に、年に何回か企画展も催しておいでなのですが
今回の企画展は、絵本絵本『いのくまさん』を取り上げたものでございますので
全館 いのくまさん一色 でございました。
「一色」ったってそこはいのくまさんですから、多用で幅広い表現と色彩を楽しむことができます。
そこへ持って来て谷川俊太郎氏の

こどものころから えがすきだった いのくまさん。 
おもしろいえを いっぱいかいた


といった、ほのぼのトツトツとした文が大きな文字で壁面にプリントされております。
鑑賞者は、まさに絵本の中に入り込むかのように、展示室へと迎えられるのでございます。

子供向けの展示なのかって。いえいえ、そうではございません。

のろは大学で美術教育を受けたことなどもございませんし
アートとはなんぞやと常々考えているわけでもなく
要するに以下に述べますことどもも、全くのシロート考えなのでございますが
アートの いち側面 として「他者 た ち 」や「私 た ち 」のものであるこの世界から
「自分」の世界をもぎとる、という側面があると思うのです。

ちと専門家に頼って坂崎乙郎氏を引用させていただくと
「この世界のなかに、この世界と異質のものを築く」
「現実空間のなかに、自分の宇宙を築く」

(『絵とは何か』 河出文庫 1992)
てなことでございます。

そして本展の鑑賞にあたってのろの頭に何度も去来したのは、まさにこのことでございました。
本展は、カラフルで楽しげなおもちゃ箱であると同時に
「自分の宇宙」を築こうとするいのくまさんの戦いの軌跡でもあります。
同一人物の作品とは信じがたいほどに大きく変化する表現スタイルや
常設展示の方にある、かなりマチスっぽい肖像画なども考え合わせると
その戦いが決して容易ならざるものであったことは、想像に難くはございません。

いのくまさんの生み出した楽しい形や鮮烈な色彩で目を楽しませながらも
いま、ここにいる、自分、の、表現 を求め続けることにかくも熱心であったいのくまさんの情熱を
のろはひしひしと感じたのでございました。

とはいえ、独自の表現を希求する情熱と同じくらい、いやそれ以上に
描く喜びに満ちあふれたいのくまさんの作品に、正月元旦からどっぷり浸かって
のろはこの上なくおおらかな気分で美術館を歩み出て
また6時間かけて我が家へと帰還したのでございました。



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