のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

『山口薫展』

2014-01-21 | 展覧会
何必館で開催中の山口薫展へ行ってまいりました。

山口薫というがかの作品を始めて見たのはいつのことであったか、定かではございませんが、画家の名前と作品をはっきり覚えたのは氏の作品2点が展示されていた2007年の『天体と宇宙の美学展』(滋賀県立美術館)においてであったかと。
2点とも、氏が晩年によく描いたという、太陽あるいは月の下に、画面の方向を向いてたたずむ馬たちをモチーフとした作品でございました。その寂しくもあり、どこか温かくもある、磨りガラスのような感触の表現に、ワタクシはいたく心を動かされたのでございました。

何必館にて昨年11月から開催されていた没後45周年展、美術館自体が小さいこともあってか、展示されている作品数は決して多くはございません。しかし卓上の静物を描いた小品から、抽象表現にぎりぎり近づいた詩的な風景画、牛と少女のいるおっとりとした叙情漂う作品から、愛犬を描いた素描など、いろいろな作品を見る事ができまして、晩年の油彩画しか知らなかったワタクシには貴重な機会となりました。

それに、何といっても絶筆「おぼろ月に輪舞する子供達」が見られただけでも、足を運んだかいがあったというものでございます。(↑一行目のリンク先トップに掲載されています)

何だかたまらない絵なのです。たまらない気持ちになるのですよ。
透き通っていて、しらじらと冷たいような、茫洋として温かいような、明るくて悲しい、何か。かそけさ。
子供たちのすぐ側まで降りて来たように大きなおぼろ月、月と同じかたちになって踊る子供ら、それを静かに見守る馬たち、真ん中に集められたやさしい色合いの花々(だと思う)。全てが、何と言ったらいいか、やはりたまらない、としか言えないのでございます。

この絶筆に限らず、山口氏はワタクシにとって、その作品の魅力を言語化するのがたいへん難しい類いの画家であるということを、今回つくづく思いました。それでもあえて言うならばその魅力は、例えば果物のほのかな香りのようなものでございます。
技量を誇るわけでもなく、何がしかのメッセージを強く主張しているわけでもなく、これといって特別ではないモチーフを扱いながらも、目に触れたとたんに、ふと胸を突かれて深々と吸い込みたくなるような何かが、そこにはあるのでございます。

そんなわけで
残り香を楽しむような心地で美術館を後にし、南座向かいの駐輪場へと自転車を迎えに行ったらば、1時間そこそこしか停めていないのに200円請求されたショックで残り香の大半は吹っ飛んでしまったわけでございますが、とにかく年初めによいものを見せていただいたものよ、としみじみする展覧会でございました。




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