のろや

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1月24日

2012-01-24 | KLAUS NOMI
本日は
クラウス・ノミの誕生日でございます。
もうね、1月24日って書くだけでも嬉しいのです。あほだ。

さておき
調べてみるとこの日は宇宙科学関係のイベントが、けっこう色々と起きているんでございます。
1985年、スペースシャトル「ディスカバリー」打ち上げ&米国防総省の機密ミッションにて情報収集衛星を軌道上に乗せる。
1986年、ボイジャー2号、天王星に最接近。またこのちょうど7年前の1月24日には、先輩のボイジャー1号が木星の全体写真を撮影しております。
1990年、日本初の月探査機「ひてん」打ち上げ。
そして2004年には、NASAの火星探査機「オポチュニティ」が火星に着陸。オポチュニティさんは現在もあちらで火星の風土観測を続けていらっしゃるそうです。いつかスリー・ポイント・ヘアの火星人が散歩しているスナップ写真が送信されて来てくれることを、心待ちにいたしましょう。

そう、見てくれは奇抜、発想はヘンテコリン、真剣さはこの上なく、天上の歌声に、思いきってチープな舞台装置と、全体としてわりと常軌を逸しているノミではございますが、ただやみくもに目立ちそうなことをしていたのではなく「宇宙からやって来た歌うミュータント」というきちんとしたコンセプトがございました。そのコンセプトは「クラウス・ノミ」としてステージデビューした時から一貫しており、残された2枚のアルバムにおいても貫かれております。

「ナチからエジプトの奴隷まで」、とにかくパフォーミングしたい奴をかき集めたという「ニュー・ウェーヴ・ボードヴィルショー」の何でもありな空気のただ中で、クラウス・スパーバーがあえて宇宙人というペルソナを選んだのは、もちろん自身や友人たちのSF好きのせいでもありましょうが、彼の世の中への「馴染まなさ」ゆえでもあると思えてなりません。
馴染まない、といっても社会不適応ということではございませんで、自分では普通にしているつもりなのに、なぜか周りから浮いてしまう、ということでございます。異常ってんじゃないけれど、悪い人ではないけれど、あの人、ちょっと変だよね。私達はそういう人物のことを、宇宙人、と呼ぶのでございました。

映画『ノミ・ソング』から当時Adix誌のアラン・プラット氏に証言していただきましょう。

After talking him a while, you realize overwhelming feeling that "What a nice person", and y'know, "What a nice guy". It ws just nice to sit in his apartment which was an ordinary little place and watching him being ordinary guy. But he never really very ordinary.
しばらく彼と話してみたら、僕はすっかり感じ入ってしまった。「何て気持ちのいい奴なんだろう」って。彼のアパートはごく普通の、こぢんまりとした部屋で、そこでごく普通の人として振る舞う彼と一緒に入るのは、とても楽しかった。もっとも彼は普通にしていても、やっぱり少しヘンだったけど。

また皆様ご承知のとおり、ヤツは性的にも音楽的にも、いわば2つの異なるものの中間地帯におり、どちらの領域にも属しつつ、どちらにも属しきってはいない存在でありました。
子供の頃はからかわれることもあったという高いデコをあえて強調するようなあのヘアスタイル同様、日常における微妙な「ヘン」さ、馴染まなさといったものをあえて極限まで押し進め、属さない者、馴染まない者が演じる自己パロディ像として昇華したものが「宇宙人ノミ」という存在だったのでございましょう。



↑「2ヶ月ほど前に亡くなったクラウス・ノミ」と言っていることから、おそらく1983年秋に収録された番組でございますね。3:07~3:25、4:01~4:12、そして4:56~6:00にノミの姿が垣間見えます。
しかし80年代ニューヨークのイケイケな風俗がレポートされる中、ひとりLightning Strikesを絶唱するヤツの見事なまでの浮きっぷりといったらどうです。

テクノ・ポップ (THE DIG PRESENTS DISC GUIDE SERIES)でも「こんな格好が流行っていた訳ではけっしてなく、この人は始めっからこの姿だった」と書かれているように、ヤツのヘンさは「今見るとヘンだけど、80年代にはわりと馴染んでた」などという生半可なものではございません。ヤツの存在は80年代であろうと70年代であろうと2010年代であろうと、ひとしくヘンであり、ひとしく衝撃的で、ひとしくもの悲しく、そしてひとしく、奇妙に美しい。
それはあの、「教会へ行く火星人」のような格好をした、ちっぽけな人物、誰も見たことのないようないでたちで、誰も聴いたことのないような歌を歌うこのひとが、時代も場所も関係なく、全ての「属さぬ者・馴染まぬ者」たちの面影を宿しているからなのでございましょう。


というわけで
お誕生日おめでとう、クラウス・ノミ。



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4 コメント

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Unknown (Lusopeso)
2012-02-05 14:19:07
すみません。
色々あってノミ様の誕生日をすっぽかしました。ごめんよノミ様。

しかしtwitterのノミ様botを管理してると彼の人気の根強さを感じ嬉しくなります。
画像もtwipicにたくさんアップしてます。
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Unknown (のろ)
2012-02-06 22:41:25
Lusopeso様、いらっさいませ。
ごめんよといえばワタクシもヤツには謝らねばならないことが色々あるような...。
しかし残された映像や証言から見るかぎり、ヤツは繊細とはいえサービス精神旺盛で気のいい人物だったようですから、あの世でばったり出会った時は、BGMにタンホイザー序曲でも流しながら片膝ついて芝居気たっぷりに謝ったら、何であれノリで許してくれるような気もします。

>彼の人気の根強さ

ワタクシを含め死後にその存在を知ったファンも多いと思うのですが、一度はまるとなかなか抜け出せないというか抜け出す気にもならない、いともディープな魅力ゆえでしょうか。またLusopeso様のように継続的にノミ情報を発信してくださるかたがいるからこそ、ノミフォロワーも報われようというものです。
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Unknown (ぷよ)
2012-03-08 00:18:05
初めまして。偶然ノミの事を思い出し検索していてこちらに辿り着きました。
彼の存在を知ったのは私が中高生の頃聞いた「スネークマンショウ」のアルバムに収録されていた「The Cold Song」
ノミは坂本龍一氏が当時押していたアーチストでFM東京の坂本龍一氏の番組で何度も放送されていました。
歌詞の意味もわからずただただその物悲しい旋律と気が遠くなるほど美しい歌声に子供ながらに虜になったことを思い出します。
奇しくも彼の命日は私の誕生日であり何かの縁を感じずにはいられません。
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いらっさいませ (のろ)
2012-03-08 23:22:15
ぷよ様、はじめまして。
ノミのことを同時代で知っておいでの方にご訪問いただけるとは、まことに光栄です。

ワタクシがヤツのことを知ったのは、音楽そのものよりもまず「エイズで死んだ最初の有名人」という事実や、奇抜にしてシックな宇宙人モードや、あの白塗りの仮面のような顔からは想像もできないほどシャイな微笑みによってであり、彼の音楽に触れたのはそうした諸々の知識を得た後のことでした。つまりワタクシはノミのことを知った時点で、ただ純粋に楽曲としてのヤツの歌を知る機会を、永遠に失ってしまったのです。

前知識や先入観のない状態であの歌声を聞くことができ、しかもその芸術性に感応する感性をお持ちであったとは、ああ、何と羨ましいことでしょう。さらには暦の上での繋がりもおありだなんて、これを縁と呼ばずして何を縁と呼びましょう。...う、羨ましい。

ところで
>ノミは坂本龍一氏が当時押していた...
この一文を受けてワタクシの中の坂本龍一株が急上昇いたしました。YMOの曲がそれほどカッコいいと思えないワタクシにとって、氏は「戦メリとラストエンペラーの坂本龍一」だったわけですが、これからは「戦メリとラストエンペラーとノミ推しの坂本龍一」として認識されることでしょう。
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