のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

1月24日

2010-01-24 | KLAUS NOMI
音楽は家で聴く派でございますので、いわゆるMP3プレイヤーの類は持っておりません。
こんなのがあったら欲しいんだけどなあ。10個ぐらい。
ずらっとならべてTotal Eclipseを輪唱してもらうの。



というわけで
本日はクラウス・ノミの誕生日でございます。

さて、相も変わらず日々ノミサーチに余念のないのろ、先日ヤツの名前でブログ検索をしておりましたら、こんな論文にぶちあたりましたですよ。

Project MUSE - Women and Music: A Journal of Gender and Culture - "Do You Nomi?": Klaus Nomi and the Politics of (Non)identification

本文はこちら。
"Do You Nomi?": Klaus Nomi and the Politics of (Non)identification | Women & Music | Find Articles at BNET

「クラウス・ノミと(脱)同一化の政治学」。
早速読んでみますというと、以下のような内容でございました。

まずは導入。
ノミが同時代の人々を魅了した要素というのは、ひとつには、本来なら全く異質な世界に属しているもの同士を組み合わせたようなその容貌(ステージ上でもプライベートでも)、ひとつには幅広い声域とオペラからシンセポップまで及ぶレパートリー、そしてもうひとつには、彼が既存のアイデンティティモデルに依らない、自由な自己像を創造したという点で、このことは今もファンの心を惹き付けてやまない、しかしここにはもっと複雑な問題がからんでいる、と。

そして「アイデンティティ」という広義に使われる言葉を、ここで論じられる文脈に沿って「個々人が、既存のある社会的グループに所属していると認めうるような、文化的帰属感覚」(例えば、そのグループの成員と似たような恰好をする等の行動を伴う)と定義する。価値観を共有するグループに身を置くという点で、アイデンティティとは優れて社会的・政治的な観点を含む上、ちょうど言語がその使い手の思考や行動様式を規定するのと同様に、アイデンティティはそれをまとう人物を規定し、ある型に押し込める側面を持っていると論じる。
ここで再びノミ登場。ヤツがいかにあらゆるアイデンティフィケーションから逸脱した存在であったかを、同時代人の証言を引きつつ論考したのち、思想家ジュディス・バトラーによる以下の言葉を引用。
If we are not recognizable, if there are no norms of recognition by which we are recognizable, then it is not possible to persist in one's own being, and we are not possible beings; we have been foreclosed from possibility.
「それが何者であるかを認識/承認できないようなもの、つまり、それによって認識/承認されうるような名詞(のろ注:例えば犬、鳥、人間、男性、女性...等)を持たないものが存在を継続することは不可能だ。存在とは可能性ではなく、可能性からの阻害なのだから」という訳にでもなりましょうか、こなれない日本語で恐縮でございますけれども。

続いて、ノミのようにラディカルに既存のアイデンティティを拒否する存在は、つまる所、他者からの承認を得られず、阻害される運命にあるのではないかと述べる。
結論としては、既存のアイデンティティモデルに組み入れられるのは窮屈だが、かといってノミのように徹底的にアイデンティフィケーションを拒むことは、即ち他者からの承認を望めない、社会的に阻害された存在となることであり、いずれ立ち行かなくなる生き方である、そこで我々が取りうる道は、脱同一化、即ち既存のアイデンティティを新たなものへと作り替えていくことである。

...といった論旨。
うむ、そうですね。そうはそうではございますが。
脱アイデンティティを論じるのに、ノミというモデルはあまりに極端ではございませんか。極端だからこそ彼を選んだのかもしれませんけれど。
それから、映画『ノミ・ソング』の美的な終幕に即して、ヤツの早すぎる、しかも悲惨な死は、アイデンティフィケーションを拒む者に下される間化と社会的阻害の象徴のようだ、という述べるくだりは、論文としてはあまりにも情緒的なおっしゃりようでございます。たとえ象徴的に見えたとしても、ヤツが「歌う変異体クラウス・ノミ」というキャラクターに託して社会的同一化を拒否したことと、謎の流行病だったエイズによって早逝したことの間には、何の因果関係もございません。

思うにノミの早すぎた死について、ファンが取りうる観点とはおおむね以下の2つに大別されましょう。
a.もっと生きていたらもっといろんなことをできただろうに、不慮の死によってその可能性が断たれてしまった。
b.あまりにも不器用なその生き方ゆえ、居場所のないこの世からそっと退場していくより仕方がなかった。
のろは前者なんでございますが、この論者は後者の観点をとりつつ、人をある型に押し込めるアイデンティフィケーションへの対抗者としてのノミを論じていらっしゃるのであり、その意図の誠実であることには疑いの余地がございません。
また、人が他者を認識するにあたって性識別は重要な要素であり、人は常に他の人間を「女性である人間」あるいは「男性である人間」として認識しようとするため、ステージ上でもプライベートでも性的に曖昧な存在だったノミに対して、人々が「そもそもあれは人間なのか」といういささか突飛な疑いを抱いたのも無理からぬことである、と論じたくだりはなかなかに興味深いものでございました。

何より、ヤツのことを真面目に、しかも好意的関心を持って論じてくださるというのは、まことに嬉しいことではございませんか。
ここ数年、ファッション界ではノミにインスパイアされた作品が毎年のように発表されておりますし、巷で話題のレディ・ガガさんをはじめ、音楽界にも、ヤツからの影響を公言しているアーティストが登場しております。
単なる時代のあだ花、一発屋の奇形的人物としてではなく、リスペクトに値するアーティストとしてヤツの名が語られるのは、全くもって正当なことと申せましょう。もっともレディ・ガガについては、ノミファンからの「形だけ真似てもダメなんだよ!」というお叱りの声を耳にしないではございませんが。のろは彼女についてはあまり存じませんので、何とも申せませんけれども、彼女のおかげでクラウス・ノミというの名のメディア露出度が上がったという点だけでも、たいへんありがたいことと思っております。

そんなわけでノミ、
あなたが聴いていようといまいと、今日は世界のあちこちで、あなたのためにハッピーバースデーが歌われることだろうよ。

お誕生日おめでとう、クラウス・ノミ。


ノミにインスパイアされた作品
2006年の記事↓(ジバンシーなど有名ファッションブランドへの影響が言及されています)
Alien Status - New York Times

2009年春↓
Runway Review: Jean Paul Gaultier Couture Spring 2009 : Glam Damn It New York

00010m.jpg (image)

2009年秋冬↓
+JOE: GARETH PUGH / KLAUS NOMI

Men’s Fashion | The Ghost of Klaus Nomi - T Magazine Blog - NYTimes.com

↑の Gareth Pughとノミの関連についての記事↓(2010年)
Gareth Pugh Spring 2010 Ready-to-Wear Collection

2010年春↓
IS MENTAL: Do You Nomi?

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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
いちばん左端の (はじめましてのひと!)
2010-01-30 13:42:38
布のタキシードのipodが欲しいです!
あのもしかして、リンゴのマークのあれ傘の柄ですか!??

あと、ノミ誕には間に合わなかったんですけど、図書室にトータルパフォーマー入りましたー!!
結構前からおねがいしてたんです(笑
まだP58までしか読んでないんですけど、なんかドキドキしますねこれ^^これからどうなるか楽しみでございます!!!
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Unknown (のろ)
2010-01-30 22:44:55
いやあ、「布の」タキシード、とわざわざ断らねばならないあたり、まことにノミクオリティですね。

>リンゴのマークのあれ
そうです、傘のあれです。気付いていただいてありがとうござます。
ついでに申せば再生/一時停止マークは蝶ネクタイマークになっております。

>図書館にトータルパフォーマー
おめでとうございます!いい図書館だ!
読み進めて行かれると「ひょえぇ」と思われる部分もあるかとは思いますが、きばって読んでくださいまし。
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ひょえぇぇぇ (はじめましてのひと!!)
2010-02-01 17:37:15
図書館じゃないっす!図書室inスクールです!
ですからP164~174とかが規制に引っかかって
私が返却したと同時に処分されそうな気がします;;;絶対されます;;;;
でもお話はとっても面白くて好きです。二次創作みたいなかんじですよね
なんだかジェットコースターみたいな本でした!読み終わってから長いことポーっとなるかんじで
本のカバーからは想像もつかないモノスゴイ世界でした!!以上です!
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おおっと、 (のろ)
2010-02-04 22:28:53
どうも、返事が遅くなってすみませんでした。

>規制に引っかかって
そんな検閲制度があるのですか?ううむ、それは面白くないですねえ。
しかし性描写がイカンというなら、今や青春小説として知らぬ者とてない『ノルウェイの森』や中国の古典小説『金瓶梅』、かなり変態的な川端康成の『眠れる美女』なんかどうなるんでしょーか。

>なんだかジェットコースターみたいな本でした!
そうですね。何だかこう、疾走感がありますね。
ワタクシはこの疾走感という奴が大好きで(ノミの曲でもRubberband Laserが特に好きだったり)、夜更かしして一気に読んでしまいました。
現実のNYという街を舞台にしてはいても、そこに倒錯とファンタジーとがみっちり絡み付いて、めまいを起こさせるような不思議な作品世界が描き出されておりました。
もっとも、ノミのことを全然知らずに、さわやかな表紙の印象に惹かれて手に取った人はさぞボーゼンとなさったことではありましょうが...笑
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