のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

『コンテイジョン』

2011-11-17 | 映画
このごろ時間的に余裕のないお仕事が舞い込むなあ。
生粋の怠け者にはつらいや。

とはいえ出先で中途半端な時間に用事が済んでしまい、たまたまその出先が映画館の隣だったりしたものですから、せっかくだからと『コンテイジョン』を観てまいりました。こんなことだから余裕がなくなるんだ。

映画『コンテイジョン』予告編


予告編を見ますと感染パニックもののようでございますが、本作が描いているのは伝染病の恐ろしさやそれに立ち向かう医療関係者の英雄的な振る舞いよりも、むしろふとしたきっかけから雪崩のように崩れて行く人間社会の脆さでございます。派手な演出がないだけにいっそう、こうしたことは明日にでも起こりうるのではないかと思わしめるリアルな恐ろしさが、底冷えのようにしんしんと迫ってまいります。
食料品や電池の買い占め、最前線で働く人の死、ネットを通じて広がる真偽の入り交じった情報、何をどこまで恐れたらいいのか分からないという怖さ、パフォーマンスのうまい奴に騙される大衆、オフレコな話がきっかけで足下を掬われる責任者などなど、とりわけ今の日本で見るには生々しいものがございましたよ。

スターでございと身を乗り出すことなく、与えられた役を過不足なくこなす豪華俳優陣の演技も見ものでございます。派手な見せ場やこれといった泣かせどころがないので「有名俳優の無駄遣い」とお思いんなった方もいらっしゃるようですが、主要な登場人物それぞれが強さと弱さ、賢明な面と愚かな面とをかいま見せる本作において、そうした人情の機微を過剰な演出無しに描き出すことに成功しているのは、名だたる俳優陣の堅実な演技あってこそでございましょう。
中でもワタクシに印象深かったのはCDC(米国疾病予防管理センター)の調査官Dr.ミアーズを演じたケイト・ウィンスレットでございまして、キャラクターの背景については全く描かれない上に登場シーンもさして多くないにもかかわらず、彼女がどういう人間であるのかが、ひとつの台詞、ひとつの所作ごとにどんどん掘り下げられていくような素晴らしい演技でございました。
余談ですがローレンス・フィッシュバーンの片耳イヤホン姿を見て「エージェント・モーフィアスかい!」と思ったのはワタクシだけではございますまい笑。

帰ってから辞書をひいてみますと、contagionという単語には「伝染病」の他に「(思想・評判などの)伝染、感化、悪影響、(道徳上の)腐敗」という意味がございました。ソダーバーグ監督が描きたかったのはむしろ後者の意味合いであろうかな、と思いつつ作品を振り返り、どっちの意味でのcontagionも人類の歴史においてこと欠かなかったし、本作に描かれていたような事態って明日にでも起こりうることだよなあとまたも思うにつけ、ひんやりとうそ寒いものが心底を流れるのでございました。


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