読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

『ザ・リンク』

2010年06月09日 | 自然科学系
コリン・タッジ『ザ・リンク』(早川書房、2009年)

ドイツのメッセル・ピットと呼ばれる油母頁岩採掘場で発見された始新生のサルの化石にまつわる話を進化の問題にからめて書いた科学読み物なのだが、とにかく進化ということ自体が難しくて、なかなか興味深いとはいかなかった。朝日新聞の書評で見て、予約したんだと思うのだが、まぁ最近の朝日新聞の書評は面白くないとかねがね書いていたとおり。

いわゆる霊長類(サル、チンパンジーなどの類人猿を始めとする)の一番の元にある動物の化石ではないかということや、全身の化石であることや、体の輪郭や食べたものが残っているのが分かるくらいに状態のいい化石であることなどから、ずいぶんと評判を呼び、ロゼッタストーンに匹敵するくらいの世紀の大発見ではないかと当事者たちは重視したというものらしい。

私にはそもそも分岐と進化の違いということがもう一つよく分からない。よくよく考えてみると、現在の霊長類であるチンパンジーやゴジラやボノボが、このまま進化していっても人間にはならないという。なぜか? 彼らは人間になる途上にあるわけではなくて、共通の祖先から兄弟のように枝分かれした、それぞれの成長(つまり進化)の先端にあるわけだから、私の弟が進化していけば私になるかというとそんなことはありえないように、チンバンジーがいかに人間に似ていようとも、全く別の枝として延びつつあるのだから、その別々の枝が先で一つになることはないように、チンパンジーがいずれは人間になるという可能性はないということが、分岐と進化の違い。かな?

だから、この分岐する前の霊長類の化石が見つかれば、それはすごい発見だということは分かるだろう。たとえば、チンパンジーと人間の共通の祖先でまだ枝分かれする前の生き物の化石なんてのが見つかれば、それはすごいことだ。有名なルーシーなんかは、もう枝分かれしたあとの人間の化石らしいから、もっと古い化石ではないとだめなんだろう。それに体の一部でも言うことないが、できれば全身の化石がほしい、でもそんなものはなかなかでない。

ただ面白いのはこの本に載っている図版32を見ると、人類の化石は東アフリカの、例の地溝のある箇所でしか発見されていないらしい。ごく稀な例として南アフリカとかサハラ砂漠あたりから出ているものもあるが。これはいったいどういうことだろうか? 化石がたくさん出ることはそこが人類発祥の地であることの必要条件ではあるが、十分条件ではない。というのは化石が残るのはどこでも条件が同じではないからだ。たとえばよく古人類の動物画なんかが洞窟の中で発見されるが、だから彼らは洞窟の中だけで呪術のように動物の絵を描いていたと結論することはできない。あのような洞窟の中は年中気温や湿度が一定で風雨にさらされることもなく残りやすかったから残ったのだ。古人類が外でも絵を書いていたかもしれないが、その場合はまったく残らない。そういうことも考える必要があるから、一概に結論は出せないのだが、それにしてもある場所にかたまって発見されるというのは、やはりなんかあるなと思わせる。

いずれにしても人間の知的探求は、どんな分野でも面白いものだなと思う。

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