超進化アンチテーゼ

悲しい夜の向こう側へ

楽しいね/神聖かまってちゃん

2012-11-15 05:17:35 | 音楽







ホーキにまたがるあの子も地上が嫌なんだろうな
深夜に思ったよ
あの子の空、僕ゆく空
訳あり事情も荷物さ   (ベルセウスの空)










今までのかまってちゃんの音楽というのは自棄的なのが当たり前だったんですけど
だからこそ2曲目「仲間を探したい」って曲を聴いた時に実直に涙腺が刺激されてしまいました
それはきっとかまってちゃんの音楽の変遷を追って来たからで
それまでの流れを知って来たからで、
やっぱりこのタイミングで「仲間を探したい」って必死に歌われちゃうと
心の琴線が揺さぶられてしまう訳で・・・凄い切実ですよね。切実だし、「探したい」というのがリアル。
「なりたい」でも「欲しい」でも、憧れるでもなく「探したい」というのが実に現実的。
だからこそグッと強く響く、
今作はそういう切実な曲や沁みる曲が中心の
今までにないくらいメロディアスで感傷的なアルバムに仕上がってます。
小細工とか仕掛け、コンセプトもインパクトも全部省いて
ただただ真っ直ぐなストレートだけを投げてる印象
でも考えてみれば、ここまで一生懸命で健気なアルバムは今作が初めてじゃないかと思う
その分聴けば聴くほど沁み入る真っ当かつ哀愁に溢れたロックアルバムになっていて
こういう作品も作れるんだ!と個人的には感銘を受けてしまった
一本筋の通った傑作に仕上がってるんじゃないか、と。

所謂愉快犯的な時期を終えて、真剣にバンドが抱えるテーマに向き合ってきた印象もあります
それはどういう事かと言えば、実直に「生きる」とか「生きたい」だとか
それが元来バンドが持ってるテーマだと個人的には思ってるけど
弱音だったり鬱屈した感情の陰に隠れてたそれが
いよいよ具現化して形になった感覚
本来はもっと素直に、感情的に歌いたい気持ちもあるんじゃないだろうかって思ってただけに
この変化は嬉しかったし、楽しかったし、何よりもやるべきだとも思ったし。
タイミングとしては5枚目のアルバムだから十分だし
世界観が前進した印象もあったりする
それまでは精神を病んでとにかく自棄的に世界を突き放し、一人の世界に生きてた人間が
ようやく自分の足で歩き出そうとしている瞬間を垣間見た感じ
一言で書くならリハビリなんですよね、このアルバムは。
それまでが感傷や破滅だとしたら、
「楽しいね」はある程度受け入れて一歩一歩進んで行く印象のアルバム
決して大人になった訳ではないし、いつも通りの毒も多少入ってるけど、
それでも前を向いてトボトボ歩く姿はとっても潔い。

もっと言えば、前作で「8月32日へ」と辿り着いたっていうのは終わらないループを抜けたって意味合い
だとしたら、このアルバムはそんなループからの再生って意味合いも持つのかなと思えて
何気に繋がってるのかな~、とか段階を踏んでるのかな~とか思えて
しっかりしたバンドの様にも思えたり(笑
彼らに過激さ「だけ」を求めてる人にはきっと向かないだろうけど
胸がドキドキするようなロック感や、寂しさ孤独の処方箋的なものを求めてる人にとっては
きっと劇薬のように効いてしまうアルバムになっているのは間違いないと思います
ド真ん中の直球ばかりが胸を突く堂々たる佇まいの意思ある一つの決定打。
ドラマチックでノスタルジー溢れるメロディの連発も堪らない
の子の才能が浮き彫りになった作品にもなってるかと。
その分パターンはいつも以上に少ないんですが、統一感は逆に増してるので。
思いっきり自分を音楽の中に放り込める作品になってると思う。


後もう一つ思ったのは、そういった切実さを前面に打ち出す方向性だからか
やたらとあったかく、じんわりと響くのもこのアルバムの特徴ですよね。緩急も付いてるから聴きやすいし
イントロだけでかまってちゃんっぽいと思える記名性も確立された感がある
その方向性での現時点での最高傑作であると同時に
きっとここまで前進目的のアルバムは今後作られないのでは、とも
だから今でも後でもきっとディスコグラフィー的に貴重な作品になっていくと思う
胸を突く青春っぽさに溢れた郷愁もまた耳に残るアルバムでした。まだまだ進化出来そうで楽しみです。








ここまで思い切って歌詞の方向性を一部変えられたのは
そういった「らしさ」を定着させられたからこそ、何を歌っても「らしさ」が消えないからこそ
即ちバンド自体が着実にタフになってる証拠なのかなあ、なんて思いますね。
今回も間違いのない出来でした。