超進化アンチテーゼ

悲しい夜の向こう側へ

GIFT/THE NOVEMBERS

2012-11-09 23:59:30 | 音楽








遠くに見えるメリーゴーラウンド
ここで勝手に幸せになろう     (ウトムヌカラ)









豊かさっていうのは、我慢とか同調の果てに得られるものではないんですよね
むしろ、自分で考えて自分で決めた価値観の元で得られるものであって
そこに対してシビアな視点を持ってるからこそ
こういう音楽が生まれたのかな・・・と
個人的にはそう思います。
傑作、名盤かと。

最後の「GIFT」っていう曲では「まだこれから」というフレーズが出てくるんですけど
ちょっと捻くれた視点で考えれば、本当に大変なのは、苦しいのはこれからだから、という
だからこそ色々と自覚的になって動かなきゃいけない
そんなメッセージ性なんかも感じたりして
豊かさは降って来るものではなく
自分から動いて、出会って、積み上げていくもので
そういう「豊かさへの渇望と能動」をこのアルバムでは表現してると思うんです
それは多分、今までがどうにもならない感情の置き場所だったり、空白を描いて来たからこそ
こういう方向性を今歌う気に、奏でる気になったんだなあ・・・とかそんな風に思うと
ある種のドラマが垣間見えるようで、長年のリスナー的には嬉しい
一番初めのミニアルバムから聴いてるバンドですからね。
もう自身の焦燥を形にする時期は終わって、
これからは一歩一歩豊かさや幸せに向かって邁進していくバンドに変わったのだと思います
それでも変わらないシリアスさとカタルシスを感じられるのは、元々が悲しみから始まってるから
それを散々理解している(つもり)からこそ、
納得も出来るというか。
ここまで正しい深化をしているバンドも正直珍しいと思います。
相変わらず切実さに関しては残ってますけど、ベクトルが明らかに違う。
それが何よりも劇的で美しいな、と個人的には素直に思えた一番の部分でした。


この新作の中には「Harem」という楽曲が入ってるんですが
この曲が物凄くて、
もう既にライブではソロも含めて4回くらい聴いた曲なんですけど
浮遊的な、サイケデリックにコーティングされたアレンジと郷愁感をふんだんに効かせたメロディが相俟って
まるでモノクロ映画のワンシーンを観てるような、或いは誰かの記憶の映像を覗いてるかのような
そんな独特の背景を感じさせる屈指のキラーチューンに仕上がってるんですよね。
ライブではもっと砕けた印象だっただけにこの進化は驚いたし
何度聴いてもブッとべるような中毒性があります

この曲もそうなんですけど、今作は言葉選びがとてもシンプルで、だからこそ伝わりやすくて
でも伝わりやすいからこそ、その水面下に隠されている黒い部分が見えやすくもなってる
そう考えると有り体に「ポップになった」とは言えないんですけど(笑
むしろ、ある意味ではより厳しくなった印象もありつつ
でも楽曲自体はどれも柔らかく、洗練されていて一枚の作品として通して聴ける統一感に関しても抜群
今までのTHE NOVEMBERSのアルバムミニアルバムは結構に難解な部分もあったんですけど
今回はね、どれも一回聴いただけで口ずさめるくらいナチュラルでポップです。
突き抜けるようなメロディの躍動感が気持ち良い「Reunion with Marr」だったり、
純度を研ぎ澄ましたからこそ素直に胸に入ってくる「GIFT」の旋律
じんわりと沁みる「ウトムヌカラ」や
幻想的な雰囲気が胸を打つ「Slogan」、そして「Misstopia」にも通じるエッセンスの「Moire」。
歌詞の面やコンセプト、ライブ音源とスタジオ音源との融合って部分は実験的ですが
肝心の楽曲は奇を衒わずに伝わりやすい形に仕上がってる
それが非常に功を奏してるというか
こんがらがってないそのバランスが魅力的で、スッと聴ける入り口の広さを保ててる
今回はただただ、良い曲沁みる曲を真剣に、日和らずにシビアに聴かせるって方向性に思えて
だからこそ、楽曲は分かりやすいけど、それだけじゃ面白くないから
ノベンバ流のアプローチでしっかりと提示した
個人的にはそんな気がします。
それ即ち、確実にオルタナティブだと感じますね。素材を素材のまま出さない努力。
とにかくシンプルに良い曲しか入ってないという意味では過去と比べても群を抜いてクオリティは高いと思う。


行き場の無い感情、救われない痛みの表現、過剰な批評精神
それもまたノベンバらしい要素の数々ですけど
それは一先ず極まって
「そこから」の話をしている、「ここから」の話をしようとしている
本人たちからしてみても(多分)、ファンからしてみても、明確に一歩進めた
そんな作品になってるんじゃないかと
それにはある種の厳しさや、水面下に眠る苦しみも伴ってるけど
でも、それが現実だし、人生でもある。その中で見つけた、見つけるべき多幸感が鳴っている
サイズとしてはミニアルバムですけど、ノベンバのディスコグラフィー上に燦然と刻まれるべき
幸福で誠実な転換作だと・・・私個人的にはそう思います。
恵まれてる人間ではなく
同じ目線から足掻く様子が伝わるからこそ、聴き手にとっても支えに変換出来る
音楽に誠実さだったり、真剣味を求める人には是非聴いて欲しい一枚です。
もう一度言いますが、傑作だと思ってます。








LOSTAGEの岩城さんもドラムで参加してたりと
何気にニンマリするんですが、いくら音を重ねてもノベンバらしさが失われない
それも今まで築き上げてきたスケール感の賜物という事で・・・
つくづく点が線で繋がるバンドでもありますね。
この作品も、
もう一度全曲レビューという形で自分なりに掘り下げてみたい。
この音源が聴けて、私は幸せでした。





風の中で同じ花を見て
違うところを好きになった
そうさ僕とあなたは違うけれど
それが何だっていうのだろう  (Harem)