エレメカ研究所にはたくさんの見どころがありますが、白眉と言えば2台の「一銭パチンコ」だと思います。
エレメカ研究所の2台の「一銭パチンコ」。上は大学野球をテーマとしており、下は当時の女性の映画スターがハッタリ(入賞口の飾り)にフィーチャーされている。台枠は同じものを使っているように見える。
「一銭パチンコ」は昭和の初期に流行した遊技機で、1銭硬貨を投入して出てきた玉を弾き、ゲームの結果によっていくらかの1銭硬貨が払い出されるゲームでした。「パチンコ誕生博物館」の杉山一夫館長の著書「ものと人間の文化史186 パチンコ」(法政大学出版局刊)(関連記事:法政大学出版局「ものと人間の文化史 186 パチンコ」のご紹介)の87ページでは、「パチンコは一銭パチンコから始まっている」と、現代パチンコの直接の先祖としています。とは言え、やはり現代のパチンコとは相違点も多く、人類の進化の歴史に例えるなら、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人くらい違うように思います。
エレメカ研究所の二つの一銭パチンコを良く見比べると、どちらも同じ台枠が使われているようです。拙ブログにしばしばコメントをくださるtomさんによれば、どちらも同じ寸法だそうで、確かに台枠の上部には同じメーカーの銘板が取り付けられています。
「YOSHIMITSU SAFE WORKS」と書かれている銘板。上が大学野球、下が映画スターのもの。
これら2機種はゲーム性が異なります。大学野球の方は、欧米で既に存在していた「ウォールマシン」と呼ばれるゲーム機のうち、盤面を落ちて来る球をカップを操作してキャッチする「ピック・クィック」と呼ばれるゲーム性を踏襲しており、もう一つの映画スターの方は、やはり「ウォールマシン」のうち、どこに入っても勝ちとなる「オールウィン」のゲーム性を踏襲しています。これらは、パチンコがウォールマシンの流れを汲んでいることの証拠となる貴重な資料と言えましょう。
ピック・クイック。拙ブログにしばしばコメントをくれるCaitlynのブログより。
大学野球の方は、最初のアクションでキャッチできなかった玉を、もう一度別のハンマーで弾いて入賞させるチャンスを与えています。
大学野球のセカンドチャンス。台枠左にある小さなレバー(①)を引くと、②のハンマーが左に引っ張られ、レバーを離すとハンマーが③の玉を打つ。打たれた球はレールの穴のどこかから下に落ち、セカンドチャンスとなる。
一銭パチンコは戦前からあったものですが、太平洋戦争が始まった1941年以降の日本では民間から金属を供出させる「金属供出」が行われたため、軍需物資に姿を変えたパチンコ機や玉も多かったことでしょう。また娯楽産業自体が不要不急の産業として禁止されたこともあり、パチンコの歴史は一旦途絶えることとなりました。
しかし、それでもいくらかのパチンコ台は残ったようで、戦後間もなくから隠匿されていたパチンコ台が闇市や復興イベントなどで稼働していたようです。Caitlynのブログでは、終戦直後の日本を舞台とする黒澤明監督の映画「野良犬」に登場するパチンコ屋の画像を掲載しています。エレメカ研究所の2台もどうにかして戦禍を免れて残った貴重なものです。
Caitlynのブログより、映画「野良犬」の一場面。女の背後に戦時中を生き残ったパチンコ機が見える。
エレメカ研究所の2台の盤面には、右上に「兵庫県 公安委員会」との名が入った「検査済証」が貼られています。日本に「公安委員会」が設置されたのは戦後のことで、つまりこの2台は戦後に改めて営業の許可を得たものであるようです。
盤面に貼付されている、兵庫県公安委員会の検査済証。
パチンコ誕生博物館の杉山一夫館長はこれについて、「戦前の台にこれが貼られているのは、私の知る限り、この2台だけである。この2台は公安委員会誕生を示す超貴重な資料である」とSNSで述べています。
本来ならば博物館に展示されていてもおかしくない日本の娯楽産業の歴史遺産が実際に遊べる状態で展示されていることは、奇跡的と言っても過言ではないと思います。「いつまでもあると思うな親とカネ」という格言がありますが、このような歴史遺産についても同じことが言えます。遊べる、見られるうちに、その幸運を存分に味わっておくことをお勧めします。
ストライクゾーンは人それぞれですが、一人でも多くの方に来所頂き是非体験して貰いたいと思います。
ワタシが訪問した時は、結構若い人たち(女子力高そうなグループも何組か)が入れ代わり立ち代わり来店していました。これらが彼らにどれだけ響くかはわかりませんが、経験した記憶だけでも残していって欲しいですね。
また、YJA で見た多くのマシンが研究室に到着していることを知ってうれしく思います。 マシンにとって最適な場所は、マシンを共有して評価できる場所です。 :)
As you say, the Elemecha Kenkyujo is one of the best place in Japan where the exhibit valuable heritages.
I'm glad to share this information with fellows worldwide like you.