オールドゲーマーの、アーケードゲームとその周辺の記憶

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パンチボードで痛恨の記憶

2022年08月14日 16時04分02秒 | シリーズ絶滅種

かつて、「パンチボード(Punch Board)」というインスタント宝くじの一種がありました。後に世界最大の娯楽機メーカーとなる米国Bally社がまだ「ライオン・マニュファクチュリング(Lion manufacturing)」を名乗っていた時の主力商品ですから、昔の話です。

パンチボードの一例。これはラスベガスの「Spinettis Gaming Supplies」で購入したもの。売値の35ドル(右上の値段表示)は案外高いと思うがこんなものなのか。


パンチボードの起源はよくわかりませんが、英語版のウィキペディアによると、ギャンブリングを目的に18世紀に始まり、19世紀に最終形ができているようです。そして、過去記事「リズムボーイズ ―― スロットマシンの必勝法の話」にも登場したギャンブルゲーム研究家のジョン・スカーニーによる推定として、1910年から1915年の間に3000万枚、人気の頂点となった1939年にはその1年だけで5000万枚のパンチボードが販売されたとあり、結構な人気があったことが窺われます。

これはちょっと変わりダネの例で、スロットマシンとパンチボードを合体させた「MIDGET PUNCH BOARD(1926)」。3個のダイスの出目により、金券を受け取るか、または1回5セントのパンチボードが2回~20回引けた。これを作ったのは、現代スロットマシンの嚆矢「リバティベル」を開発したチャールズ・フェイ。

パンチボードには、穴が100個程度の小さなものから数千個の大型のものまで様々あります。

2005年秋のシカゴランドショウで販売されていた様々なパンチボード(関連記事:歴史の語り部を追った話(2):シカゴランドショウ(Chicagoland Show))。

穴の一つ一つには蛇腹に折りたたまれた紙片(スリップ=Slip)が1枚封入されています。これを専用のピンで押し出し、そこに書かれている内容によって当たりハズレが決まります。1回の料金は5セントから1ドルまで、ボードによってさまざまな種類がありました。

穴の部分。このボードでは、青、赤、黄、緑の4つの区画に分けられている。

穴の部分の拡大図。表面はアルミ箔のようなもので覆われている。

ある程度の規模のパンチボードには、より大きな当たりが隠されているSEAL(封印された穴)が設けられているものも多くありました。通常は、特定の当たりを引くとこのSEALの1カ所を破る権利を得るのですが、ボード上で仕切られている区画ごとの最後の1個をパンチすることで、やはりSEALの一カ所を破ることができるというルールを設けて売れ残りを防ぐ手法も多用されました。

SEALの部分。このボードでは、最低1ドルから最大10ドルが当たると謳っている。

ワタシの手元にあるボードの場合、64ドルのINに対して、平均で33.16ドルのOUTとなっており、ペイアウト率は51.8%とかなり低いですが、この種のゲームのペイアウト率はだいたいこんなものだったようです。これには、SEALによる払い出しが平均を大きく超えるような場合のマージンも含まれていたのではないかと思われます。

パンチボードに添付されていた計算書。完売すると64ドルのINに対して、通常の当たりの合計で平均26.44ドル、区画ごとのラストパンチで得られるSEALでの払い出し平均6.72ドルを合計して33.16ドルのOUTとなる。

類似の簡易宝くじであるブレークオープン(Break Open)とかプルタブ(Pull Tab)などと呼ばれるチケットゲームは、地域によって今も盛んに行われているようですが、パンチボードはもう作られていないようです。

現在も続くブレークオープンメーカーの一つ、Bingo King社のウェブサイトより、ブレークオープンチケットの例。

1990年ころ、渋谷の東急ハンズでこのパンチボードがひっそりと売られていたことがありました。おそらくはデッドストックを持つ納入業者がいたと思われ、上述のシカゴランドで見たようなオールドファッションドなボードが大小どれでも一つ1500円だったか2000円だったかの均一価格でした。ワタシはそこから面白そうなものをいくつか買って勤め先のイベントでくじ引きごっこに使ったところ好評だったので、その後も継続して買っていたら、どうもブーム到来と勘違いされたようで、売り場に販促ポップが付くようになってしまいました。でも買っていたのはたぶんワタシ一人だけだったと思います。

やがてめぼしいボードは全部買い尽くしてしまい、動きがパタリと止まった後、いつしか店頭から消えていきました。ワタシが買ったボードの中には、Ballyの前身のライオン社の製品も含まれていたのですが、使用済みでもあり重くかさばるため廃棄してしまったのは、今思えば全く痛恨の極みです。